リニア新幹線の工事で流量減少が懸念される大井川流域の首長が、JR東海の社長に連絡調整会議の設置を要望した。静岡県はメンバーに加えない見通しだ。また工事の発生土の置き場をめぐり、静岡市長は静岡県の考え方に疑問を投げかけた。

「2年前は緊張感 今回は柔らかい感じで」

JR東海と大井川流域自治体の意見交換会(2023年9月)
JR東海と大井川流域自治体の意見交換会(2023年9月)
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2023年9月9日、リニア新幹線の工事をめぐりJR東海の丹羽俊介社長が就任後初めて大井川流域市町のトップ10人と直接 意見を交わした。
意見交換会は2021年9月以来2回目だが、2023年4月に就任した丹羽社長は初めての参加だ。

大井川
大井川

静岡県がリニア工事を認めない理由のひとつは、工事による大井川の流量減少の懸念だ。水源の南アルプスでリニアのトンネル工事が行われると、地下水が山梨県側に流出し大井川の水が減ることを心配している。

流域10市町は、県や利水団体と2018年8月に「大井川利水関係協議会」を立ち上げ、JR東海に懸念や要望を伝えてきた。市のほぼ真ん中を大井川が縦断し、唯一 水利権を持つ島田市がリーダー格だ。事務局は静岡県が務め、JR東海との交渉の窓口になっている。
流路延長が最長で工事現場がある静岡市は協議会に入っていない。生活水などを別の川からとっているためだ。

意見交換会では県外に流出した水をダムの取水を抑えることでまかなう、いわゆる「田代ダム案」をめぐり、自治体側がJR東海に、ダムを所有する東京電力側との協議内容の積極的な発信を求めると、JR東海は近いうちに説明の場を設ける意向を示した。

リニア新幹線 山梨実験線
リニア新幹線 山梨実験線

さらに、自治体側はリニア開通が地元経済にマイナスの影響をもたらさないよう東海道新幹線のダイヤ編成で利便性を向上するよう求めた他、流量減少のリスクに備えるため国がしっかりと関与することを要望した。

会議の後、島田市の染谷絹代市長は「緊張感がみなぎっていた2年前に比べ、柔らかな雰囲気だった」と振り返った。

島田市・染谷絹代市長:
きょうは柔らかい感じで話し合いができました。JR東海のこの2年間の、地域に寄り添い私たちの不安を払拭しようと努力されていることについて、皆さんがそれを認めて、きょうの雰囲気になったのかなと感じました

一方、JR東海の丹羽俊介社長は会議の後、「流域の市町の皆様の懸念の解消が大切だと思っています。このために双方向のコミュニケーションを、今後も様々な形で続けたい」と、話していた。

流域市町とJRの新たな連絡会を要望

大井川流域の10市町長
大井川流域の10市町長

ところで今回の意見交換会で、自治体側はより緊密なコミュニケーションを図るため、流域10市町とJR東海の事務方レベルで定期的に連絡調整会議を開催するよう求めた。
記者から具体的なイメージを問われた島田市の染谷市長は「私たちは聞きたいことがたくさんある。例えばJR東海は『補償は公共事業の30年ルールに縛られない』と言っているが、具体的にこのケースはどうなるのかなど率直に意見交換したい」と答えた。

大井川
大井川

そして静岡県も参加するのか問われると、「(連絡会議は)流域の思いをJR東海に話す場。私たちは暮らしを支える水資源を守ることがメインテーマで、それについて率直に意見交換する場を作っていきたい」と、流域市町とJRの連絡調整会議であることを強調した。
流域市町が要望した連絡調整会議について、JR東海の丹羽社長は賛同したという。

工事で出る土砂の置き場で大きな溝

県のリニア地質構造・水資源専門部会(2023年8月)
県のリニア地質構造・水資源専門部会(2023年8月)

静岡県がリニア新幹線の工事を認めない、もうひとつの大きな理由は、トンネル工事で出る土砂の置き場だ。
8月3日 工事の影響を議論する静岡県の専門部会が開かれ、土砂の置き場が約1年ぶりに議題となった。

土砂置き場候補地の大井川・燕沢
土砂置き場候補地の大井川・燕沢

JR東海は工事で出る土砂360万立方メートルを、大井川上流の燕沢に盛り土する計画だ。
東京ドーム3個分で高さは70m、ビル23階分になる。

燕沢を視察する川勝知事(2020年6月)
燕沢を視察する川勝知事(2020年6月)

南アルプスは、深層崩壊(斜面の崩壊が表層よりも深部で発生する山崩れ等)の発生頻度が「特に高い地域」と、国から区分されている。

県リニア専門部会(2023年8月)の資料
県リニア専門部会(2023年8月)の資料

JR東海は土砂置き場候補地の燕沢の上流の山で深層崩壊が起き土石流が発生したと仮定し、土砂置き場がある場合とない場合での下流の水位などへの影響について、シミュレーション結果を示した。

この中で、深層崩壊で土石流が発生しても流水で運搬できる土砂の量には限度があり、土砂置き場があってもなくても、登山者などが滞在する下流の「椹島ロッヂ」付近への影響にほとんど違いがないとした。もちろん周辺に民家などはない。
一方、一部の委員からは「山が同時多発的に崩れるリスクもあり、JR東海は深層崩壊の影響を過小評価している」と候補地の再検討を求める意見があがり、県も同様の見解を示した。

静岡県・森貴志 副知事
静岡県・森貴志 副知事

静岡県・森貴志 副知事:
盛り土を置く場所は他の候補地も含め1カ所に大量に置くのがいいのか、もう一度検討してもらえればと思っています

工事で出た土砂の置き場
工事で出た土砂の置き場

土砂の置き場をめぐっては、最初にJR東海が示した候補地について静岡県が難色を示し、今の燕沢に変更した経緯がある。

JR東海 中央新幹線推進本部・澤田尚夫 副本部長
JR東海 中央新幹線推進本部・澤田尚夫 副本部長

会議でJR東海 中央新幹線推進本部の澤田尚夫 副本部長は、「環境影響評価書を2014年に出し、その頃からここに置くと話をさせてもらっている。そうした経緯がある中で、もう一度そこがいいのかという話はかなり困惑をしている」と、反論した。
土砂の置き場をめぐり、県とJR東海の見解の違いが改めて浮き彫りになった。

工事現場のある静岡市長はJRを擁護?

リニア新幹線が通る南アルプス
リニア新幹線が通る南アルプス

工事で出る土砂の置き場をめぐっては、静岡市の難波喬司市長が9月6日に開かれた別の会議で、県の見解に疑問を投げかけた。難波市長は元国土交通省技官、土木工学のスペシャリストで、静岡市長の前は川勝知事のもとで副知事を務めリニア問題を担当していた。
難波市長は、「工事で出た土が盛られていない状態で、非常に深刻な崩壊現象が起きた時に、河川がどういう影響を受けるのかについて、まず大井川の河川管理者である県が示すべきだ」と指摘した。

静岡市・難波喬司市長:
「盛り土がない状態でこのようになっているが、盛り土ができたことによってこれだけ危険度が増すので、事業者としてこういう対策を取っていかないといけない」というのが正当なやり方だと私は思う

リニアの工事現場や土砂置き場候補地は静岡市にあり、静岡市でも独自に工事の影響を評価する会議を開いている。今後も会議を開き県や専門家などと協議を重ねていく方針だ。

リニア新幹線 山梨実験線
リニア新幹線 山梨実験線

静岡県がリニア新幹線の工事を認めない状況が続く中、工事現場がある静岡市や、大井川の流量減少が直接 生活に影響する市町の首長が声をあげている。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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