東京圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)に住む、若者の約半数が地方暮らしに憧れている。そんな傾向が、株式会社トラストバンクの調査で分かった。

調査は7月、東京圏に住む15~29歳の男女919人を対象に実施。地方での暮らしに憧れるかを尋ねたところ、49.3%が憧れる(「とてもあこがれる」「あこがれる」の合計)と答えたという。憧れると答えた人は、その79%が「実際に地方暮らしをしてみたい」とも回答した。

さらに、希望する地方暮らしのスタイルについても聞いており、「完全移住」(47.5%)が最も多かったが、それだけではなく「短期間の移住」(22.1%)、「都心にも自宅を持つ二拠点生活」(21.2%)を望む人もいた。移住先としては、自分と同世代の移住者がいる地域だと、暮らしやすそうと思う傾向があった。

理想の地方暮らしが実現できそうな都道府県については、北海道(9.9%)が1位となり、沖縄県(7.5%)、長野県(6.6%)、静岡県(4.9%)、福岡県(4.2%)が続いた。
「良い仕事」のために都市圏を選ぶ
しかし、質問が仕事に関わるものになると、地方の現実も感じる結果に。

自分にとって、良い仕事の条件は何かと尋ねると「収入が高い」(53.3%)、「楽しさ・やりがいを感じる」(47.9%)、「働きやすい」(46.2%)が上位に選ばれたのだ。

そして、良い仕事をするには都市圏に住んだ方が良いか質問すると、全体の57.5%が「そう思う(「非常に思う」「ややそう思う」の合計)」と回答。地方暮らしに憧れる人に絞っても、「そう思う」の割合は63.6%で、結果はあまり変わらなかった。
では若者は、地方暮らしに何を期待するのだろう。憧れを移住につなげるため、地方ができることはあるのか。株式会社トラストバンクの担当者に聞いた。
地方は「自分らしく時間を過ごせる場所」
――今回の調査を行った理由は?
日本の地域が将来的に持続可能なものであるためには、地方の人口減少を食い止めることが重要です。東京圏に住む若者のうち、地方に移り住みたい人はどの程度いるのか、地方側にはどんな環境整備が必要なのかをあぶりだし、今後の地域創生に役立てたいという思いで実施しました。移住に関しては、仕事観とも相関関係があると仮説を立て、若者がどんな仕事を求めているのかといった点も尋ねました。

――東京圏の若者の約半数が地方暮らしに憧れていたが、なぜだと思う?
背景には三つの側面があると考えます。一つ目はコロナ禍による価値観の変容です。どこにいても享受できるサービスが増え、都心に住むことが「絶対」ではなくなりました。人混みで疲れること、物価の高さなどもあり、地方がうらやましいと感じる場面があるのではないでしょうか。
二つ目はSNSの普及です。(経験したことがない)地方暮らしには不安もありますが、写真や動画で見られるため、イメージしやすいのだと思います。一方で、若者は「SNSは良い面ばかりを映している」としっかり理解しているとも思います。
三つ目は、SDGsや地球環境問題に関する学習の影響です。義務教育で学んだことで関心を持ち、実際に移り住んで地域課題を解決したい意思がある人もいると考えられます。

――若者は地方暮らしに何を求めている?
以前の調査で、地方暮らしに魅力を感じる若者に理由を聞いたところ「のんびりと暮らせそう」「自然豊かで癒されそう」「都心よりも物価が安そう」といった回答が上位となりました。自分らしく時間を過ごせる場所と考えているのではないかと分析します。質の良い・鮮度が高いものを低価格で手に入るといった面も魅力的だと考えていそうです。
一方で収入やお金がイメージしづらい面も
――都市圏に住んだ方が良い仕事はできると思われているが、これはどうして?
仕事に関する情報量の多さだと思います。東京圏の企業は情報発信がうまく魅力をアピールするのに長けていますが、地方の仕事は魅力や実態が東京圏に届きづらいのが実情です。地方で暮らすために必要な収入やお金が、イメージしづらい面もあるかもしれません。
――労働環境について、若者はどう考えている?
労働時間に対する報酬として「コスパがいい仕事」が受け入れられやすく、プライベートの時間も確保できることが働きやすい環境の条件であると推察されます。こういった条件を満たす地方企業の情報もメディアなどで見る機会が少なく、実態が伝わってきません。そういった点でも、仕事においては、都市圏優位というイメージがあるのでしょう。

――「理想の地方暮らしが実現できそう」な都道府県トップ5の感想は?
大自然や豊かな食文化を有しながら、東京からの飛行機の直行便がある、新幹線で移動できる場所が上位となった印象です。都市部からの(時間的な)近さは安心感につながるのではないかと思います。特に東京圏に実家があると、帰省しやすい環境は重要だと思います。
働き方や金銭面の不安払拭がカギ
――若者の移住につなげるためできることは?
東京圏の若者は、理想とするライフスタイルを実現するには、どんな仕事が良いのかシビアに考えているようです。今回の調査でも、楽しさ、やりがいを感じる、働きやすい仕事が好まれる一方で、体裁や他人からの見え方を気にして仕事を選ぶ人は少数派となりました。
そのため、自治体は移住すると「こんな暮らしが実現する」というイメージを届けていくことが重要になると思います。地域の企業で働くパターン、都市圏の企業に勤めながらリモートで働くパターンなどを提示し、働き方や金銭面の不安を払拭することがカギとなりそうです。移住者のコミュニティに関する情報を伝えるのも良いかもしれません。

――日本の地方のこれからをどう考える?
日本の地方が次世代でも持続するには、ヒト・モノ・お金・情報を都市部から送り込むことが重要だと考えます。お金はふるさと納税などで送ることが可能となりつつありますが、ヒトの部分はどう集めればいいか、模索している地域がほとんどです。若者・子ども・子育て世代が移り住み、安心して暮らせる環境が整うことで、大きな活気が生まれると考えます。
仕事の実態や魅力、生活に必要なお金などの情報が届きづらいことが、地方のネックとなっていそうだ。移住を考える若者はいるので、情報を届けるための試みが必要かもしれない。