テレワーク環境を整える企業も増え、遠隔で仕事する選択をする人も多くなった現在。地方に移住するのもいいかもしれない、と検討している人も、交通の便や新たな人間関係など、色々と心配なことがあるだろう。
そんな中、全国各地の暮らしの情報などを提供する移住支援サイト「移住したい」を運営する株式会社ニュートラルワークスが、移住に関する調査結果を公開した。

調査は、日本国内在住で都市部から地方への移住経験がある人290人を対象にインターネットで実施(期間:2022年11月10日〜11月20日)。
この中で「移住した理由」で最も多かったのが「転勤・異動」の39.7%。次いで多かったのは「自然の多い環境に住むため」で20.7%、「子育てのため」が14.1%、「コロナによる働き方の変化」の9.0%が続いた。

「移住する際に意識したこと」は、「買い物などの日常の便利さ」が最も多く43.8%。続いて「住み心地のよい家」が43.1%、「自然の豊かさ」が39.0%、「交通の便」が37.9%となった。

「移住してよかったこと」については、「のんびりと暮らせた」が55.5%。「食べ物が新鮮で美味しい」が45.5%、「広い家に住める」が37.2%、「空気がきれい」が36.9%となった。

一方で「移住して後悔したこと」で最も多かったのが、「車がないと生活できない」の48.3%。
以下「娯楽が少ない」(42.8%)、「給与水準が低い」(35.5%)、「仕事が限られる」(34.1%)と続いた。その他では、「人間関係が狭いため、プライバシーがない」は11.7%、「コミュニティに馴染めない・人と合わない」は9.7%と、人間関係に悩んでいる人は少ないという結果が出た。

また、「現時点で地方移住の選択は成功だったか」については、「はい」と答えた人が48.6%。「どちらとも言えない」が43.1%、「いいえ」が8.3%という結果になった。
今回の調査結果からは、4割近くの人が「転勤・異動」などで“やむなく”移住しているということはあるものの、移動の不便さなどに頭を悩ませ、移住の選択を成功だったと言い切れていない人も多い、という事実が見えた。
しかし、人間関係など“いざ生活してみないとわからない”ことに比べ、移住先で車が必須になってくることなどは、リサーチ段階である程度わかることでもあるはず。
実は“リサーチ不足”“準備不足”な面があるのだろうか?
本当に快適な地方移住のために必要な事前準備とは、どんなものなのだろうか。株式会社ニュートラルワークスにお話を聞いてみた。
「いざ住んだら、想像した以上」が後悔のワケ
――今回の調査のきっかけは?
ニュートラルワークスでは移住支援ポータルサイト「移住したい」を運営しており、移住掲示板や体験談など、移住検討者の役に立つ情報を発信しています。今回の調査は、実際に地方移住を経験した方々が自身の移住をどのように評価しているか生の声を届けることで、移住検討者にとって発生しやすいイメージギャップと、移住を後悔しないための事前の準備の必要性について知ってもらうきっかけになると考え、実施しました。
――回答者の層と、「地方」の定義は?
10代……2名 20代……61名
30代……113名 40代……83名
50代……24名 60代……6名
70代以上……1名 ※男女比は条件に含めていません。
また、地方の定義は具体的には示しておらず、回答者自身が思う「地方移住の経験」を条件としています。
――「地方移住が成功だったかどうか」について、「はい」と「いいえ・どちらとも言えない」が約半数ずつという結果。この受け止めは?
移住の理由に「転勤・異動」を選択された方が全体の約40%を占めており、その方々の移住に対するモチベーションがそこまで高くないと仮定すると、「どちらとも言えない」の割合が大きくなったことに対する意外性はあまり有りませんでした。
しかし、移住の理由に「転勤・異動」を含まない方々でクロス集計した場合でも「いいえ・どちらとも言えない」が45.7%と高い数値になったことは意外でした。また、「後悔したこと」の上位の結果を見るとどれも移住前から想像がつくような、一般的な地方のイメージとギャップの無いものが多い印象を受けました。
このことから、”デメリットを知ってはいたが、いざ暮らしてみると想像以上だった”と感じている方が多いのではないかと考えています。住んでいる時間の長さによっても結果は変化する可能性がありますが、いずれにせよ移住検討時のリサーチ不足と、自身と移住先の生活環境のマッチングが上手くいっていない可能性が高いと感じます。

――「車がないと生活できない」ことを後悔している人が多いことについて…
移住の理由に「転勤・異動」を含まない方々(175名)のみで集計した場合でも、「車がないと生活できない」を後悔として挙げたのは48.5%(85名)でした。また、最も後悔したこととして「車がないと生活できない」を挙げたのは175名中56名で、32%と高い数値となりました。
このことから「地方は車がないと生活できない」ということをある程度予測していた上でも、実際にそのような生活をしてみると”想像していた以上だった”と後悔するケースが多いのではないかと考えます。
移住支援を行う弊社としても、先住者の口コミ・ヒアリングなどを通してこのような実生活でのギャップを事前に埋めるための支援が必要だと感じています。
――人間関係の悩みを持つ人が少ないことについては…
都会のようなドライな人付き合いに慣れている方は地方のような人との距離感や独特なコミュニティに悩みを持つ方が多いと考えていたため、意外な結果と感じました。
田舎の度合いや地域、年代によっても変化する可能性が高いのですが、インターネットやSNSが発達する現代においては地方との情報格差は縮まってきていることもあり、一般的な地方移住の場合は、人間関係のギャップをそこまで心配する必要がないのかもしれません。

――では、実際に移住する前にどんな準備をすれば後悔が減らせると思う?
地方移住におけるデメリットをただ情報として把握しておくだけではなく、自身の日常生活に落とし込んだシミュレーションが重要だと考えます。
「車が無いと生活できない」という事前情報を例とするならば、具体的に”住む場所の最寄り駅、スーパー、コンビニに行くのに車が必要か?”や、”平日と休日に想定される行動範囲と移動手段は?”など、日常と照らし合わせて実際の使用頻度まで掘り下げて考えてみる必要があります。
このアンケートで出たデメリットや後悔は一例に過ぎないので、自身が思う地方移住のデメリットを一つ一つ掘り下げてリサーチするよう心がけていただければと思います。
また、地域の口コミや掲示板などインターネット上での情報収集のほか、オフラインでの交流会や座談会への参加、または移住体験なども有効だと考えます。実際にその地域で暮らす方の生の声を聞いたり、体感することで自身が想定していなかった情報が入手できたり、新たな魅力を発見するきっかけになります。弊社のような移住支援事業者や移住相談窓口などに相談してみていただきたいです。
――移住支援メディアも展開中。「失敗しない移住」をサポートするための今後の課題は?
これからの課題としては、移住前の交流機会の創出と、移住後の定住に向けた支援の両面が必要だと考えます。
過去に“直近3年以内に「移住をした方」もしくは「移住を検討したことがある方」”を対象に移住動向調査を行った際、移住の障壁として「人間関係への不安」と「金銭的な不安」を挙げる方が多い結果となりました。
地方での暮らしに関する情報は、コロナ禍以降の移住ブームの影響で増えてきてはいるものの、自身のライフスタイルとのすり合わせまで落とし込んで検討をするには支援事業者による助けも必要であることが分かります。移住検討者の不安やギャップを取り除くために、地域コミュニティの活性化と双方のマッチングの場の提供を課題として捉えています。
また、移住後の定住に向けた支援としては各自治体や行政と連携をとり、継続的なフォローアップを行うことが重要ですし、悩みを気軽に相談ができる窓口の存在をもっと認知してもらう必要があると考えます。

ニュートラルワークスによると、移住後の後悔については「移住検討時のリサーチ不足」と「自身と移住先の生活環境のマッチングが上手くいっていない」ことが大きな理由とのこと。
また、同調査の中で、都市部への再移住の意向についての質問には「居住環境を戻す予定がない」と答えた人は46.2%。「ある・検討している」を合わせると43.5%という結果も出ており、その内訳を見てみると、地方移住を「成功」だと感じている人は今後も地方での居住を続行する意向が強く、一方で、「成功ではない」「どちらとも言えない」と回答した人の約50%が都市部に戻ることを視野に入れているという。
これについても、ニュートラルワークスは「地方移住を成功させるためには、地方での日常生活を具体的にイメージし、本当に自分に合った生活が送れるかどうかを熟考することが大切」と話している。
変化する働き方に合わせ、ライフスタイルの選択肢も広がっているが、移住計画は「想像と違っていたからやっぱりやめよう」と簡単にはひっくり返せないもの。大きな決断をする前に、本当に必要な情報をしっかりと取り入れて”後悔しない移住”を実現してほしい。