首相の娘とか幹事長の娘とか…

先週の小欄では「河野太郎をクビにするな」、また先々週は「野村農水相には辞めてもらった方がいい」と書いたので、今回の内閣改造と自民党人事でこの2つが実現したのは良かった。

河野デジタル相は留任
河野デジタル相は留任
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ただちょっと「パパのコネ」が多過ぎはしないか。政治家の世襲を否定はしないし、女性の活躍は大賛成だが、首相の娘・幹事長の娘と続くと、せっかくの女性登用の価値が下がってしまう。

特に、故小渕恵三元首相の娘である小渕優子氏は、自民党4役の選対委員長に抜擢されたのだが、故小渕氏の盟友だった故青木幹雄元官房長官が、優子氏を重用して欲しいと森喜朗元首相に「遺言」したなどといった話を聞くと、パパのお友達がみんなで娘をひいきしているようで「いい加減にしろ」と言いたくなる。

就任会見では涙をこらえ声を詰まらせる場面も…
就任会見では涙をこらえ声を詰まらせる場面も…

小渕氏が就任会見で過去の政治資金問題について、涙をこらえながら「忘れることのない心の傷」と述べたのも、なんだか自分が被害者のような態度で納得できなかった。

人事直後の13・14両日に行われた世論調査では、読売と日経が内閣支持率は上がらず横ばいで、日経は「改造効果乏しく、派閥均衡評価せず」という厳しい見出し。共同だけは6ポイント上がっていたが、小渕氏の人事については「適切でない」が59%に上った。

なぜ林芳正氏を交代させるのか

私がそれより納得できないのは、林芳正外相の交代だ。ロシアのウクライナ侵攻や、処理水放出への中国の反発など、外交懸案が多いこのタイミングで、なぜ「顔が効く」林氏を交代させ、いくら評価が高いとは言え、外交については未知数の上川陽子氏を充てたのか。

林芳正氏と外相に就任した上川陽子氏(14日 外務省)
林芳正氏と外相に就任した上川陽子氏(14日 外務省)

これについて、岸田文雄首相が会見で「外交は首脳外交というものが大変大きなウエイトを占める。私も長く外務大臣を務める中で、首脳外交の重要性を痛感した」と述べたのには驚いた。

つまり岸田氏は、自分が外相の時に安倍晋三元首相が行った首脳外交を見て、外交は外相でなく首相がやるものだと「痛感」し、自分も首脳外交をやりたいから林氏は「いらない」と思ったのだろうか。

会見で「外交は首脳外交というものが大変大きなウエイトを占める」と述べた岸田首相(13日)
会見で「外交は首脳外交というものが大変大きなウエイトを占める」と述べた岸田首相(13日)

だが安倍氏と自分を重ねるのは、さすがに無理があると思う。岸田氏は自衛隊の反撃能力の保有を含めた防衛力強化を打ち出して、米国など国際社会から高い評価を得たし、処理水の放出も、中国を孤立させ国際社会を味方につけており、外交能力は悪くないと思う。

だが防衛力強化は安倍氏が、また処理水放出は菅義偉前首相が敷いたレールを進んだだけという見方もある。岸田氏一人に外交をすべて任せるのは、はっきり言って不安だ。

林氏が親中派なので交代させたという説があるが、林氏はどちらかと言うと普通の日本人より欧米的な価値観を理解する人だ。国際派で交渉力がある林氏を、今交代させるのはあまりいい手だとは思えない。

岸田氏の本心は

もう一つ気になったのは、外相をやめた林氏が岸田派の閥務に専念するという話である。せっかく岸田政権ができたのに、おそらく最も政策に明るい林氏をなぜ派閥に置くのか、これも不思議な話である。

外相を退任した林氏は岸田派の閥務に専念するという
外相を退任した林氏は岸田派の閥務に専念するという

来年秋には、自民党総裁選が行われる。ポスト岸田の一番手である茂木敏充幹事長については、麻生太郎副総裁が高く評価しているが、岸田氏はむしろ警戒しているようだ。

岸田氏は首相になった頃、「一期やったら次は林さんに譲る」と言っていたと聞いたことがある。同じ派閥なので十分ありうる話だが、岸田氏はこれから支持率がさらに下がって解散できなくなり、自分がおろされた時のために、後継として林氏を温存したのではないか。
【執筆:フジテレビ上席解説委員 平井文夫】

平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。