マイナ保険証は失敗したのか?

岸田文雄首相は来週にも内閣改造と自民党役員人事を行うが、私の関心というかお願いはただ一つ、どうか河野太郎デジタル相をクビにしないでくれ、という事だ。すでに麻生太郎副総裁と茂木敏充幹事長の留任は固まったようだが、閣僚のメンツはガラリと変わりそうなのだ。

河野氏については、マイナ保険証の「失敗」の責任を取らせろという声があるようだが、そもそもあれのどこが失敗なのか。紐づけミス数千件などとメディアが大騒ぎしているが、デジタル化に伴う入力ミスであって全体の0.1%にも満たない数だ。いずれなくなる。

マイナ保険証のどこが「失敗」なのか…
マイナ保険証のどこが「失敗」なのか…
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むしろ現在の紙(プラスティック)の保険証では、年間500万件の差し戻しが起きている。転職などによるものが多いのだが、外国人によるなりすましなど不正利用も含まれるとみられる。マイナ保険証になればこうしたことがなくなる。

時がたてば人々もマイナ保険証を受け入れるだろう。問題は河野氏を「失敗した人」とみなす世間の空気だ。

麻生さんの余計なお世話

実は河野氏の「親代わり」である麻生氏が、7/9付けの北国新聞の記事の中で、河野氏を「突破力も押し切る力も全く問題ない」と擁護しながら、「丁寧さが必要」とした上で、内閣改造では閣外に出た方がいいと勧めている。

麻生副総裁は河野デジタル相の「親代わり」
麻生副総裁は河野デジタル相の「親代わり」

義理人情に厚い麻生氏は、河野氏に助け舟を出しているつもりなのだろうが、はっきり言って余計なお世話だ。

確かにデジタル革命を推し進めるには「丁寧さ」が必要だ。以前も小欄に書いたが、台湾ではデジタル相のオードリー・タン氏が、デジタル化に対応できない人々への丁寧な対応で成功している。

だが台湾の人口は2300万人で日本は1億2000万人と規模が全く違う。経済、教育、価値観など相当な多様性がある日本で、台湾と同じことをやってうまく行くとは思えない。

また日本はアナログ時代に高度な技術革新が進んだために、デジタル化しなくても社会がある程度回ってしまうというという特殊な国だ。

デジタル化に必要なのは「丁寧」でなく「乱暴」

だからものによってはデジタル化がなかなか進まず国民の抵抗も強い。デジタル相というのは厄介な仕事だと思う。こういう仕事は多少丁寧さに欠ける、すなわち乱暴であっても、めげずにグイグイ前に進む人がやった方がいい。

河野氏は2021年の総裁選に出馬、岸田氏に負けた
河野氏は2021年の総裁選に出馬、岸田氏に負けた

私は別に河野氏をヨイショしているわけではない。一昨年の総裁選で岸田氏に負けた時に、ものの言い方がやや乱暴だったので、これは首相になるにはまだ時間がかかるなと思った。

ただ河野氏の突破力は今の政治家の中ではかなり目立つので、それをうまく「利用」しないともったいないという「打算」で言っているだけだ。河野氏には利用価値がある。

マイナ保険証を持たない人のための「資格確認書」について岸田首相は更新期間を現行の保険証並みにして、希望者には誰にでも発行することにし、事実上保険証が存続することになった。

岸田首相らしい丁寧なやり方では、日本のデジタル化は進まないのではないか
岸田首相らしい丁寧なやり方では、日本のデジタル化は進まないのではないか

これは岸田氏らしい、というか日本らしい丁寧なやり方なのだが、こんなことをしているといつまでも日本のデジタル化は進まないというのも事実だ。

日本は丁寧な国だ。豊かでもある。だがバブル後の30年の停滞は、この丁寧さゆえではないか。もう少し乱暴な改革もしないと、私たちの子や孫の世代が豊かさを失うことになるのではと心配している。

丁寧な岸田氏と乱暴な河野氏はいいコンビだと思う。岸田氏は是非河野氏を続投させてほしい。
【執筆:フジテレビ上席解説委員 平井文夫】

平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。