今年もフィギュアシーズンが始まり、全日本選手権に向けての戦いが動きだした。

7月からスタートした2023-24シーズン。

この真夏に行われたフィギュアの試合に、誰よりも注目を浴びた選手がいる。

昨シーズン休養した樋口新葉だ。

2021年の全日本選手権では念願のオリンピック代表をつかんだ
2021年の全日本選手権では念願のオリンピック代表をつかんだ
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北京五輪団体銅メダル、個人でも5位入賞。史上5人目のトリプルアクセル成功者としてフィギュア界に歴史を残している。

今回、5年ぶりに東京選手権から出場し、全日本選手権を目指す。

そんな樋口は、休養前に怪我によりメンタルやモチベーションも維持できない不安定な状態が続き、「よりよくフィギュアスケートを楽しむための決断だった」と休養を決めた理由を語った。

新鮮な気持ちで挑む、樋口新葉の新シーズン

9月21日から開催される東京選手権に出場する樋口。

その大会を前にした公開練習では、ジャンプを中心に氷上練習を行っていた。

練習中はいつも笑顔の樋口だが、ジャンプがうまくいかないことが続き、時折悔しそうに声をあげる場面もあった。

9月5日の公開練習ではジャンプがうまくいかず悔しそうにする場面も
9月5日の公開練習ではジャンプがうまくいかず悔しそうにする場面も

練習後には「何度も同じミスをすることが最近なかったので、ちょっと緊張してきたのかな」と新シーズンを前にした心境を明かした。

それでも気持ちは前向きで「新しい気持ちで過ごせていて、新鮮な気持ちでこれから練習したい。グランプリシリーズもありますし、全日本に向けてもレベルアップしていきたい」と力強く語った。

今ではポジティブな気持ちでフィギュアスケートと向き合えている樋口だが、休養前は決してそうではなかった。

今季初戦!戻ってきた“わかばスマイル”

2022年10月5日、2022-23年シーズンの競技会の欠場を発表した樋口。

「4月下旬に負った右腓骨疲労骨折からの回復の遅れ」や「ベストなコンディションが作れない」ことから、競技活動を見送ることを決めたという。

北京五輪では団体銅メダル、個人で5位入賞した樋口不在の中で迎えた2022年の全日本では坂本花織が連覇を達成、2位に三原舞依、3位に成長著しい島田麻央が入った。

続く世界選手権でも坂本が日本史上初の連覇を達成した。

樋口は2023年3月に明治大学を卒業
樋口は2023年3月に明治大学を卒業

その頃、樋口は明治大学を卒業。

社会人になり進退が注目されていた樋口だったが、今年7月2日、彼女は戦いのリンクに戻ってきた。

復帰戦となったのは千葉で行われた地方大会のアクアカップだ。

アクアカップで復帰戦に臨んだ樋口
アクアカップで復帰戦に臨んだ樋口

既にアイスショーで披露していたフリーで実践復帰を果たした樋口は、アクアリンク千葉に詰めかけた満員の観客の大歓声で迎えられた。

4月に氷に乗ったばかりという樋口だったが、ブランクを感じさせない滑りを披露。3回転のコンビネーションジャンプも完璧に成功させ、満面の笑みで滑りきった。

満員の観客に迎えられ、樋口は久しぶりの舞台を滑りきった(アクアカップ、7月2日)
満員の観客に迎えられ、樋口は久しぶりの舞台を滑りきった(アクアカップ、7月2日)

氷上の“わかばスマイル”が帰ってきた。

試合後、樋口は「滑る前は緊張していた。でも滑り始めてから失敗もあったんですけど、今までの試合よりも楽しいなと思いながら滑ることができました。

失敗しても成功しても結構面白いというか、なんか楽しいなって思いながら、滑っていました」と久しぶりの大会を振り返った。

アクアカップは「楽しいな」と思いながら滑っていたと語る樋口
アクアカップは「楽しいな」と思いながら滑っていたと語る樋口

「今までの試合やスケート人生では、勝ちたい気持ちが強かった。楽しむことだったり、自分が無意識に感じていることにあまり気づけなかったんですけど。

そういう自分の感情に気づくことができて、その中で練習や試合もできたなと思うので、そういうことも忘れないで、もちろん勝つことも大事ですけど、自分が本当に楽しむことを一番に考えて滑りたい」

ファンから求められたサインに応じる
ファンから求められたサインに応じる

待ちに待った彼女の復帰にスケートファンからサインを求める声も多く、樋口はこの大会で最高のスタートを切った。

スケートの為に休んだ…悩んだ末に選択

それから数週間後の7月18日、休養期間中にどのように過ごして、どんな思いを抱えていたのか聞くことができた。

休養中は「最初は1カ月に1回、たまに滑る感じでした。年末くらいからは全く滑らず、スケートのことをそんなに考えないで生活していたので、好きなことをして、やりたいこともやって、今までとは全然違う生活をしていました」とスケートから離れていたという樋口。

休養期間は「簡単に言えることではない」と樋口は振り返る
休養期間は「簡単に言えることではない」と樋口は振り返る

この期間のことは「簡単に言えることではない」としつつ、「休んだシーズンの最初に1試合だけ出て、それまで自分の怪我のこと、怪我を含めてメンタルと体を一緒に回復させるのが難しかった」と振り返る。

そして、「試合に向けてのモチベーションや、自分が何のためにスケートをしているのか、といった部分をすごく悩みながらそのまま試合に出たので、“目標”という前に“なぜスケートをしているのか?”その意味をずっと考えながら練習していた。

常に気持ちがマイナスな感じで生活をしていて、それが苦しくて。そう思いながらスケートをしていると、いつもできることができなくなったり、目標の前に(モチベーションの)維持もできなくなってしまう感じだったので、それだったら休んだ方がいいなと思って決断しました」と休養を決めた経緯を語った。

「またスケートに戻ってこられるように」休養中は生活していたという
「またスケートに戻ってこられるように」休養中は生活していたという

「“スケートが嫌い”といったことで休んだわけじゃない。“よりよくスケートを楽しむために休む”という決断をした。

どこかもやもやしながら生活して、練習して、というよりは、全くスケートをしないで違うこと考えて、最終的にまたスケートに戻ってこられるように、と生活をしていたので、スケートのために休んだという感じです」

「なぜスケートをしているのか」休養前にその意味を考えていたという樋口
「なぜスケートをしているのか」休養前にその意味を考えていたという樋口

北京五輪での“燃え尽き”はあったのか、については「自分がオリンピックに出たのも初めてだったので、これが燃え尽きかどうかもわからない。でも大きい目標を達成するのは、今まであまり経験してこなかったことなので、少しはあるのかなとは思う。

それよりも怪我からの復帰や、自分のスケートに対するモチベーションの方がこの先どうしていけばいいのかなと、分からなくなっちゃったところが一番大きい原因かなと思います」と話した。

休養期間、フィギュアスケートもほとんど見てこなかったという樋口だが、去年12月にホノルルマラソンに挑戦。

初めて42.195キロを走り、今年2月にはイベントにブロンド姿で登場した。

「今しかできないこと」に次々と挑戦する中、戦いのリンクに帰ってきた樋口はこう続ける。

Newわかば 新たな境地へ

「スケートを3歳から始めてからオリンピックの時まで、頑張って、頑張って、こうなりたい、あれ跳びたい、こんな結果残したい、それだけで頑張ってきた。

だから一つ一つできるようになることの面白さには気づけなくて、どんどん上を見すぎていて。でも一回休んで何もできなくなってから戻していくことが、新しいものを作っていく感覚で、それがすごく楽しい。こんな感じでできるようになるんだ、面白いなと思えている。

今まで気づけなかったことなので、せっかくこんなに長くやっていて、面白いことしているのに、それに気づいてないでただがむしゃらにやっているのは、もったいないなと思いました」

今はスケートに対して面白さや楽しさを感じられているという樋口
今はスケートに対して面白さや楽しさを感じられているという樋口

「本当にどんなことでもポジティブに捉えられたら、すごく大きく変わる。今まではダメなところばっかり探して、“こうだから負けちゃう”“これだからできない”と思っていた。

けど、そうじゃないなと思って。できなくても自分の良いところを探せるようになって、いろんなことに、小さいことでも楽しめたら、自分だけの世界に入れると思うので、そうなれたら」

今季は全日本での表彰台を目標に掲げている
今季は全日本での表彰台を目標に掲げている

怪我をしていた足は完全に治っているという樋口は、全日本選手権での表彰台を目標に掲げている。彼女の代名詞となったトリプルアクセルも今季投入したいと考えているという。

2018-19シーズン以来となる東京選手権から全日本へ向けてのスタートを切るが、新たな境地へと進み、自分をもっと出すと決めた樋口新葉の演技が楽しみだ。

全日本までの道の詳しい概要はフジスケで!https://www.fujitv.co.jp/sports/skate/figure/index.html
FODで全選手・全演技LIVE配信

フィギュアスケート取材班
フィギュアスケート取材班