「天神ビッグバン」の名の下、再開発が進む天神。新たな高層ビルが立ち並び、九州最大の繁華街は今、大きく変わろうとしている。新しい息吹が吹き込まれつつある街で、93年の歴史に幕を下ろした時計店の最後の一日に密着した。

地域に根付いた時計店の“最後の一日”

1930年創業の「岩田時計店」は、確かな腕と優しい人柄で天神の街に根付いた時計店だった。

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ーー最後の日はどんな一日に?

岩田時計店・岩田哲夫さん:
いや、もう、普通の一日でいいです。もう普通に終わっていただければ大丈夫です

岩田時計店は、福岡市・天神の西鉄福岡駅に隣接する商業施設「ソラリアステージ」に店を構える。この日、2023年8月31日が最後の一日となった。

ーー地域に根付いた理由は?

岩田時計店・岩田哲夫さん:
時計を買っていただいた時に、最高の接客をして、最高のフォローをさせていただく。それじゃないですかね

時代の変化に逆らえず…苦渋の決断

岩田時計店が開業したのは1930年。久留米市で創業した後、1953年に天神に整備された西鉄商店街に出店した。

その西鉄商店街が様変わりし、跡地に当時最新の商業施設「天神コア」がオープンすると、1976年から店を構えた。バブル期は高級な時計を求めて、多くの人であふれかえったという。

岩田時計店・岩田哲夫さん:
(バブル期は)売れてましたよ、1日100本とか200本とか。(当時は)男の子は必死でバイトして、ホテル取って、プレゼント買う時代ですからね

天神地区の再開発が進み、天神コアの再開発が決まると、これまで通り常連客が通いやすいソラリアステージに店を移した。

しかし、その後、コロナ禍で天神の人出は激減。インターネット販売やスマホ、スマートウオッチも普及し、経営の大きな打撃となっていく。

天神コアの跡地で開発が進む複合ビルへ移ることも考えていたが、賃料が上昇するため断念。閉店は苦渋の決断だった。

常連客と迎える“最後の時”

最後の一日。開店と同時に店に訪れたのは長年の常連客だった。

店員に花束を手渡す常連客
店員に花束を手渡す常連客

常連客:
ありがとうございます。いろいろお世話になって

常連客:
電池を替える時に、時計の状態までメモして教えてくださってて、すごくありがたかった。きょうは思い出として岩田さんで時計を購入しようと思って

常連客:
時計は大好きなので、きれいにしてくださるので「ここなら安心」と思っていた。閉店になるとは思わない

常連客:
保育園の時から来てました。家族に近い感じがしますね

店が最後までこだわった対面での接客。しかし、時代や街の変化には抵抗できなかったと岩田さんは話す。

岩田時計店・岩田哲夫さん:
世の中がネット社会になっているのに、お客さまとの接客に固守してしまったことが一番大きなところ。物販に乗り遅れてしまった。お客さまに対する思いは変わらないけど、天神というのは変わるじゃないですか。どうやったって天神は変わりますよね、これからも。「本当にありがとうございます。ご迷惑をかけます」ということだけです

そして長年、天神に根付いた老舗時計店に、最後の時間が刻まれた。

岩田時計店・岩田哲夫さん:
きょうで岩田時計店、93年の歴史にいったん幕を下ろしますが、またどこかでお会いできると思いますので、その日を楽しみに、取りあえず、ありがとうございました

閉店した岩田時計店の場所には、10月からは別の時計店が出店する予定だという。

(テレビ西日本)

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