国内で販売されているスーツは、オーダーを除くとその多くが海外の工場で作って輸入されたもの。このような現状があるなかで、福島県葛尾村の羊牧場と大手スーツ販売チェーンがタッグを組み、全国初となる100%国産スーツを作り上げた。これまで廃棄されていた羊毛を活用し、環境にも優しいという。
肉質が良く高評価
震災後、葛尾村の新たな特産品にしようとヒツジの肥育を始めた「牛屋」
「Melty Sheep」と名付けられたその肉は、村のふるさと納税の返礼品に採用され福島県外の飲食店からも注文が入るなど、高く評価されている。「牛屋」のヒツジの特徴は、肉質の良さだけではない。

エサ10倍で毛量も2倍?
「牛屋」で与えるエサの量は、一般的な肥育方法の10倍。エサが多いことも影響してか、毛の量が多く1頭からとれる羊毛が一般的なヒツジの2倍以上になることもある。

出荷するまで約2年間、伸ばし続けた毛をよく見ると…表面はダメージを受けているようだが、中はきれいな状態だった。

出荷頭数増加で負担も増加
ヒツジを飼い始めた4年前は1頭か2頭だった毎月の出荷頭数が、今では8頭に増えていて一年間では約100頭。出荷頭数とともに、毛刈りによる負担も増えたと吉田健社長はいう。

「産業廃棄物の処分方法で、お金を払って処分をしていたんですけど、なかなか費用もバカにならない部分もあって」と話す。

100%国産のスーツづくり
そこで、大手スーツ販売チェーンの「コナカ」に、ある協力を求めた。それは、費用をかけて捨てていた牛屋のヒツジの毛を使って、縫製まで全て国内で行う100%国産のスーツ作り。

コナカ商品事業本部の谷口知明さんは「福島復興のために衣料を通して何かできることはないかと、ずっと考えておりました。外で飼育されているヒツジとは違って、やはり室内飼育という部分では非常にスーツの織物にする意味ではプラスでありました」と話す。

極太の繊維に苦労
ただ、羊毛として利用することを想定した手入れはしていなかったため、糸や生地の開発は簡単ではなかった。

コナカ商品事業本部の谷口さんは「もともと今回の国産ウールは非常に太い繊維だったために、双糸といって2本の糸を縒ることができなかったので、1本の糸で加工するしか方法がなかった」と話す。しかし1本の糸では強度が十分ではないため、生地を織ろうとするとちぎれてしまったという。

試行錯誤で完成
それでも工夫を重ね、2年かかって生地を作り上げた。そして完成したのが…羊毛で作る梳毛織物としては全国初の100%国産スーツ「JAPAN FUKUSHIMA WOOL」

オーストラリアのウールで作ったスーツと比較してみると、オーストラリアの場合は触ってみると表面が滑らかで柔らかい生地。一方、葛尾村の場合はハリやコシがあり、よりウール感が強く温かみを感じる。

震災前にはなかったものを
オーダーメードの「JAPAN FUKUSHIMA WOOL」は1着・27万5000円。2023年は12着限定の販売で、首都圏を中心に注文が入っているという。

2024年の販売に向けても準備が進められていて、牛屋の吉田社長は「震災前になかったもの、形作りというのを常に意識している。この日本だけではなく、世界を視野に入れて取り組んでいますので、今後に期待してください」とヒツジで葛尾村をさらに盛り上げたいと意気込んでいる。

国内技術の結晶
「JAPAN FUKUSHIMA WOOL」は、羊毛の洗浄や紡績などの工程ごとに、技術を持つ全国各地の工場で作業が行われている。葛尾村で刈り取られた毛は栃木や大阪の工場で洗浄、宮崎県の工場で糸に加工し、岐阜県や愛知県の工場で糸から生地を織り、新潟県や福島県の工場で縫製と、国内のスーツ作りに関わる技術の結晶とも言えそうだ。

2024年は、販売数を30着から50着に増やす計画で、コナカのオーダースーツブランド「DIFFERENCE」全店舗で販売する予定。
(福島テレビ)