朴訥ながら農政には詳しい人

野村哲郎農水相は農協職員から政治家になった人。国会答弁を何度か聞いたことがあるが、受け答えは朴訥ながら農業の現場については詳しく、いい人が大臣になったなと思っていた。

だが今回の「汚染水」発言は言い間違いとは言えダメだ。野村氏は中国が日本の水産物の禁輸を打ち出した際も「全く想定していなかった」と述べて「危機感がない」と批判された。

記者団の取材に「汚染水の評価について情報交換した」と発言した野村農水相(31日午後3時過ぎ)
記者団の取材に「汚染水の評価について情報交換した」と発言した野村農水相(31日午後3時過ぎ)
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少し弁護すると、このとき野村氏は「中国はこれまで10都県を輸入停止していたので、10都県は対象になるのかなと思っていた。すべてなのかどうかは全く想定していなかった」と言ったのであって、「全く想定していなかった」わけではない。だが中国からしてみれば「しめしめ。日本の農水相がビビってる」と思ったことだろう。

すると中国国内では、日本人学校に投石したり、日本の魚屋さんに脅迫電話をかけたりして騒ぐ者が相次いだ。これらの行動を起こしたのが何者かは明らかになっていないが、反日教育を受けた人や、社会に不満を持っている人、SNSでフォロワーを増やしたい人達も多い。いずれにせよ中国政府はそれらを放置、黙認している。

中国との情報戦に勝利しろ

専門家によると中国は経済の悪化で国民の不満が増大しており、今回の日本たたきは憂さ晴らしになっている側面があるという。

一方で中国政府としては、反日行動を隠れ蓑に反政府行動が起きることを最も恐れている…
一方で中国政府としては、反日行動を隠れ蓑に反政府行動が起きることを最も恐れている…

一方で中国政府としては、反日行動を隠れ蓑に反政府行動が起きることを最も恐れている。また米国との対立、経済の悪化を考えると日本企業の全面撤退は困る。だから2012年の尖閣国有化のときのような大きな騒ぎにはならないだろうという見方が多い。

つまりこれは中国との情報戦なのだ。相手は官も民もいろいろな方法で仕掛けてくる。こちらは冷静にそれに対抗する。時には強い言葉も必要だ。

日本は科学的根拠に基づき、IAEAのお墨付きももらって安全な処理水を放出した。それに対して「核汚染水」などと非科学的な表現を使って非難しているのは世界中で事実上中国だけだ。

敵のスローガンを口にするな

ロシアはウクライナ侵略で中国に借りがあるので透明性の確保を日本に求めているが実はこの件にはあまり関心がない。韓国政府は処理水放出を容認した上で、先日首相が「汚染水が放出されるわけではない」と述べ、「汚染水」と呼ぶのを事実上やめた。

大事なことを忘れていた。日本の一部野党とメディアはなぜかいまだに「汚染水」と呼び、放出に反対している。すなわち世界中が処理水の安全性を認めているのに、中国と日本の一部の人たちだけがいまだに「汚染水」という言葉を使って騒ぎ続けているのだ。

「野村大臣に対して、全面的に謝罪するとともに、撤回するよう指示を出した」と述べた岸田首相(31日午後6時ごろ)
「野村大臣に対して、全面的に謝罪するとともに、撤回するよう指示を出した」と述べた岸田首相(31日午後6時ごろ)

この状況において、日本の農水相が「汚染水」と言ってはイカン。野村氏は79歳と高齢だ。前回に続き、今回もうっかり言ってしまったのだろう。そんな人を責めるのは心苦しい。だが我々は今、中国との情報戦という「戦争」を戦っている。そんな時に敵のスローガンを間違えて口にしてしまう人が日本の農林水産の司令官であってはいけない。

岸田文雄首相は直ちに野村農水相を罷免すべきだ。
【執筆:フジテレビ上席解説委員 平井文夫】

平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。