戦後78年、地元の高齢者も知らなかった終戦にまつわる驚くべき事実は、生き証人の記憶をもとに紙芝居などへと展開された。また、戦争の悲惨さを若い世代に向けて発信し続けている遺族会の思いは、高校生の心にしっかりと届いている。

8月15日以降も続いた戦争

三浦さんたちが作った紙芝居
三浦さんたちが作った紙芝居
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1945年8月20日深夜、磐田市の鮫島海岸に白い機体に緑十字を描いた飛行機が不時着した。乗っていたのはフィリピンで連合国との降伏条件の協議を終えた日本政府の軍使たちだ。
8月15日、玉音放送が日本の降伏を全国民に知らせたが、相手国が降伏文書などに調印しない限り、正式な終戦ではなく、この時も日本への攻撃が続いていた。

“平和の使者” 海岸に不時着

このため、軍使たちはいち早く太平洋戦争を終わらせるため、文書を東京に運んでいる途中だったが、燃料切れで不時着してしまったのだ。

三浦さんたちの作った紙芝居
三浦さんたちの作った紙芝居

事故を目撃した住民が「飛行機が落ちた、大事な文書と荷物が積んである。助けに行かないと」と、仲間に知らせ海岸にかけつけた。

三浦さんたちの作った紙芝居
三浦さんたちの作った紙芝居

住民たちは積んであった荷物を運んだり、連絡をとるための電話機に案内したりして、軍使たちをサポートしたと言う。

三浦さんたちの作った紙芝居
三浦さんたちの作った紙芝居

住民たちのおかげで、軍使たちは浜松飛行場まで移動、飛行機を乗り換え、8時間半ほど遅れて東京に到着した。

終戦文書の調印
終戦文書の調印

そして、降伏文書は無事に届けられ、9月2日に調印、正式に戦争が終わった。

「戦後平和の原点」を後世に伝えたい

この出来事を紙芝居にまとめたのは不時着した現場近くに住む三浦晴男さんたちだ。三浦さんは「よく考えてみれば この出来事が戦後平和の原点だったのではと感じ、これは語り継いでいく必要があると思い活動を始めた」と話す。

不時着の碑(磐田市鮫島海岸)
不時着の碑(磐田市鮫島海岸)

7年前まではこのことを知らなかった三浦さん。資料などを読み込むだけではなく、実際に軍使たちを助けた住民にも話を聞き、出来事を説明する看板も設置した。

生き証人も活動に感謝

当時18歳で、軍使を電話機があるところまで案内したという、鈴木邦夫さん。「そんなに重大なこととは思わなかった」そうだ。

 
 

鈴木さんは「一番偉い人なのかわからないけれど、ばっと敬礼して、それで『ありがとうございました』って。俺はどうしていいのか判らなかったので頭下げて、頭上げたらみんな敬礼していたね」と記憶をたどる。そして、三浦さんたちの取り組みについて「頭が上がりません。よくやってくれるなあと思って」と話してくれた。

三浦さんたちの作った紙芝居
三浦さんたちの作った紙芝居

歴史の生き証人の記憶を子どもたちにも伝えていきたいと考え、紙芝居を作った三浦さんたち。地域の誇り、平和の原点として語り継ぐ活動を続けていく。

三浦さんと鈴木さん
三浦さんと鈴木さん

三浦晴男 さん:
終戦時に鮫島海岸で起きた出来事はまだまだ知る人が少ないんです。ですのでこれをみんなに伝えて、やがては磐田市の誇りになるように活動していきたい。是非 皆さんに「平和」の二文字の価値を共有していただけるように、それが一番の願いです

遺族会が若い世代に発信

高校生と遺族会メンバー
高校生と遺族会メンバー

浜松復興記念館で遺族会のメンバーが高校生の質問に答えていた。
高校生:(アメリカは)浜松のどこが市街地かというのはもうわかってたのかな
遺族会:そりゃわかっている。ここの工場は何を作っているとかいう情報も全部もっている

遺族会は毎年、市役所でのパネル展示や語り部の活動などを通して戦争の記憶の継承を目指している。中でも、ここ数年 力を入れているのが若者による発信への協力だ。

高校生が戦争の番組を制作

この日、遺族会は浜松市立高校の放送部の取材に応じていた。部員たちは、浜松空襲など地元の浜松での戦争についてまとめた音声番組の制作を検討している。

浜松市立高校 放送部・武田泰智さん と 牧田結奈さん(左端)
浜松市立高校 放送部・武田泰智さん と 牧田結奈さん(左端)

遺族会への取材を通じて浜松市立高校 放送部・武田泰智さんは「戦地の話とか戦場でこんな被害があったということは教科書に載っている内容で知っていたが、戦場に行った兵士だけが被害者ではなく、暮らしていた人々も被害者だと思った」と話す。
また、牧田結奈 さんは「みんなが言ってるからではなく、自分の意思で『戦争は絶対にだめだ』と思ってもらえるような番組にしたいと思う」と抱負を語った。

戦争の悲惨さを次の世代に伝えるために 地元に大きな被害をもたらした戦争の実情を伝えたい。
遺族会は、高校生の意欲に感謝し、引き続き若い世代に対する活動を進めていく決意だ。

高校生と遺族会メンバー
高校生と遺族会メンバー

浜松市遺族会 大石功 会長は「今の高校生を見ていますと本当に意欲的にやってくれていてありがたい 感謝のひとことです。遺族会も平均年齢が82歳以上で 行動範囲が狭くなりアクションも取りづらくなるが、それでも必ず次の世代に伝える。伝えるのは難しいが難しいからこそ、この声を途絶えることなく発信していかないといけない」と話す。 

三浦さんたちの作った紙芝居
三浦さんたちの作った紙芝居

戦後78年。戦争の記憶が薄れつつある中で、記録に残し、継承していこうという取り組みが世代を超えて進められている。

(テレビ静岡)