朝鮮中央テレビは8月29日、金正恩総書記が朝鮮人民軍の海軍司令部を訪れた際の様子を報じた。そこには父親に同行する娘のジュエ氏の姿があった。

北朝鮮メディアがジュエ氏の映像を報じるのは、今年5月16日の偵察衛星視察以来、105日ぶり。

なぜジュエ氏の姿を映像に流すのか、北朝鮮に詳しい龍谷大学の李相哲教授に聞いた。

世界の注目を集める

ーージュエ氏の登場にはどういった意味がある?

第1の目的は、やはり世界の注目を集めるためだと思います。

実際に、ジュエ氏が登場したことで、海外メディアはまた注目し始めています。

これまで金正恩氏は3回ほど海軍部隊を訪れましたが、娘を連れて出てきたために世界が注目したという感じです。

龍谷大学・李相哲教授
龍谷大学・李相哲教授
この記事の画像(9枚)

ーー後継者修行との見方もあるが?

後継者候補の一人であることは間違いないと思います。

ただ、本当に後継者として指名していれば、今の段階で連れ回したりはしないです。
リスクがあるので、本命は早くには出さないはずです。

3カ月半ぶりに姿を見せた娘のジュエ氏(10)
3カ月半ぶりに姿を見せた娘のジュエ氏(10)

これからどのような成長を見せるのか、途中でどんなことが起きるのかといった不確定要素が多すぎるので、今の段階で後継者として決めている場合は、簡単に表には出せないはずです。

長男もいるので、本命は今の段階ではまだ決まっていないと思います。

長男に「良い馬を選んでほしい」

白いジャケットに黒いズボン姿で現れたジュエ氏は10歳くらいと見られている。

金総書記の演説中、原稿を確認するようなジュエ氏の様子も見られた。
では、後継者候補は何人いるのか。

ーー長男がいるのは確か?

長男がいることは、韓国国家情報院が国会情報委員会に報告した時に認めています。

また、北朝鮮外交官とみられる人がモスクワ郊外に馬を購入しに行った時、金正恩氏の息子の為に「良い馬を選んでほしい」と頼んだとも言われています。

これは当時大きく報道されたこともあるので、息子がいることは確実です。

ーー子どもは何人?

金正恩氏には、3人の子どもがいると言われています。

2010年頃に生まれたのが男の子。
2013年に生まれたのがジュエ氏で、今10歳くらいです。
2017年にも子供が生まれていますが、性別ははっきりしていません。

なぜ最初の子どもが男の子だと分かったかというと、韓国情報当局は海外で北朝鮮のロイヤルファミリーがどのような物品を調達しているかをチェックしています。

ちょうど2010年頃に男の赤ちゃんが使うさまざまな物を買っていることが確認されているので間違いないです。

2017年に生まれた子どもも男の子という見方が支配的ですが、確認はできていません。

韓国に「核を使うこともあり得る」

今回、もうひとつ注目されたのが、金総書記が演説中に使った韓国に対する表現だ。

これまで北朝鮮側は、南北統一を図るという意味も含め、韓国を「南朝鮮」と呼んできた。しかし今回、金総書記は韓国を初めて「大韓民国」と呼び、メディアもこれを強調して伝えたのだ。

ーーなぜ「大韓民国」と呼んだ?

最近になって韓国の正式名「大韓民国」を使っています。

ただ、労働新聞の表記を見ると、正式に「大韓民国」という国家を外交上認めているというよりは、“いわゆる「大韓民国」”、“自称「大韓民国」“という意味が入っているように感じます。

これまで南北関係は民族同士の特別な関係でした。

しかし、金総書記が「大韓民国」と呼ぶことは、「もはや民族同士の特殊関係ではない」という意味合いが1つあります。

「大韓民国」と呼ぶようになった理由を考えると、今まで韓国に対しては「核兵器は使わない」と言ってきました。

核兵器はあくまでも防衛のため、アメリカなど核を保有する帝国主義に対抗するものだと言ってきたのですが、韓国が特殊関係でない以上は、核を使うこともあり得るとの意味合いが含まれていると思います。

ーー敵として認識し始めた?

そうです。普通の敵対国家として認識しているはずです。

これまでは敵対しながらも、民族同士の特殊な関係として政策を練ってきましたが、これからは敵国だということです。

アメリカや日本に対して核を使うことができるのと同じように、韓国にも核を使うという風にとれます。

これまでは、韓国政府はわが民族を人質にとっている傀儡政権と見ていたのですが、今は1つの国家として認め、核を使うこともあり得るというように解釈できます。

韓国・統一省「背景や意図は見守る」

こうした事態に、気になるのが韓国側の反応だ。

北朝鮮の表現変更について韓国・統一省は、「金総書記の初言及という点で注視している」としつつ、「その背景や意図についてはもう少し見守らなければならない」としている。