穏やかな瀬戸内海に浮かぶ離島・百島で、イノシシによる被害が後を絶たない。ターゲットは増え続ける“空き家”。金属製の門扉や柵も突破するイノシシの威力に、解決策を見いだせないまま苦悩が続く島を取材した。

キャンプで人気の島に深刻な被害が…

島の中の集落を、白昼堂々横切るイノシシ。

島の集落を堂々と歩くイノシシ
島の集落を堂々と歩くイノシシ
この記事の画像(23枚)

ここは385人が暮らす広島・尾道市の小さな離島、百島。

尾道市の離島・百島
尾道市の離島・百島

本土からフェリーで10分ほどの場所にあり、キャンプやマリンスポーツも楽しめる風光明媚な島だ。

キャンプやマリンスポーツのレジャースポットとして人気
キャンプやマリンスポーツのレジャースポットとして人気

しかし、2020年ごろからイノシシの被害が深刻化しているという。
島外から戻った住民が、実家の変貌ぶりを見せてくれた。イノシシは金属製の硬い門扉を力ずくで突破。

イノシシが突き破った民家の門扉
イノシシが突き破った民家の門扉

玄関どころか台所の中にまで入り込んでいた。

島外から戻った住民:
ここに暮らす父親が入院しているので、食べるものはそうめんくらいしかなかった。柵も破られたり開けられたりして…

住人不在の間に荒らされた台所
住人不在の間に荒らされた台所

島外から戻った住民:
門扉の鍵は閉めていました。多分、ドンドン体当たりして開けたんじゃないかなと

取材当日も、被害はリアルタイムで起きていた。

五十川裕明 記者:
つい先ほど、イノシシの被害が分かった場所に来ています。倉庫の非常に硬いトタンの板を破って、イノシシが中に入っていったということです

8月、取材当日の朝にイノシシの被害にあった倉庫
8月、取材当日の朝にイノシシの被害にあった倉庫

専門業者が来て、イノシシが再び入り込まないようにイノシシを刺激する「電気柵」が取り付けられていた。

電気柵を設置・島内の業者:
夏場はエサになるようなものが少なくなるんでしょうね。何年も前からイノシシの被害はあって、その度に島の中で柵を作ったり、みんな対策はしているのですが…。イノシシも腹が減って、柵をぶち破ってでも食べ物を探しに来る感じです

本土から離島へ“泳ぐイノシシ”

イノシシが海を渡って離島にやって来る衝撃映像を撮影した住民がいる。

撮影した住民:
イノシシが3頭ご来島です。こらこら、あっち行け

海を渡るイノシシ(提供:百島Net)
海を渡るイノシシ(提供:百島Net)

美しい瀬戸内海を優雅に泳ぐイノシシ。海面から顔をのぞかせ、島へ進む様子が映されている。

撮影者・百島Net・漆原雅利さん:
最初は何が泳いでいるのか分からなかった。大きい魚なのかイルカなのか…

橋が架かっていない百島では、泳いで上陸した個体が島の中で繁殖を繰り返し、数を増やしたとみられている。

広島市安佐動物公園 獣医師・野田亜矢子さん:
今、本州側ですごくイノシシが増えてしまっている状況なので、場所取り合戦に負けたイノシシが新天地を求めて行くケースがほとんどだろうと思います。新天地に行けば食べ物にありつけるんじゃないかと離島へ行く可能性は十分考えられます

本土側から百島への最短の直線距離は500メートルほど。イノシシは歩くような感覚で簡単にたどり着いてしまうという。

広島市安佐動物公園 獣医師・野田亜矢子さん:
当然、イノシシからしても「あそこまで泳いだら島があるな」と認識できるわけです。陸上を歩いているように泳ぐというか、犬かきと同じで泳げてしまいますので普通に行けると思います。体力のある生き物ですから

繁殖力に駆除のペースが追い付かない

TSSが各自治体に問い合わせたところ、広島県内に15ある、本土と橋でつながっていないすべての有人島で、イノシシの生息と農作物の被害が確認されていた。

この流れを食い止めようと、百島ではわなを設置し猟友会も捕獲を試みているが、2022年度の捕獲数は25頭。

一度に最大10頭ほどの子を生む繁殖力に駆除のペースが追い付いていないのが実情だ。

百島で繁殖するイノシシの群れ
百島で繁殖するイノシシの群れ

島のあらゆるところに侵入を防ぐための柵が張り巡らされ、人間のほうが閉じ込められているかのような錯覚に陥いる。

イノシシの侵入を防ぐための柵
イノシシの侵入を防ぐための柵

百島町内会長・林信樹さん:
多い人は対策費が100万円くらいかかるかもしれない。ある程度、草刈りをしながら動物が人間社会に入れないようにしないと、だんだん人口が減ってきているので山と一体化するようになってきている

百島の島民の高齢化率は2023年6月末時点で68.1%。空き家と耕作放棄地が増え、人里と森の境界線があいまいになったこともイノシシの活動範囲を広げることに拍車をかけている。まだ人的被害こそ出ていないが、生活の不安を解消させる有効な一手は打てていない。

空き家がイノシシの“エサ場”に

イノシシに荒らされた空き家は、想像を絶する惨状である。許可を得て撮影させてもらった。

五十川裕明 記者:
ひどいですね。ここは台所です。冷蔵庫の扉が引きちぎられそうになっています

イノシシに壊された空き家の冷蔵庫
イノシシに壊された空き家の冷蔵庫

テーブルが倒れ、イスは散乱し、あらゆる収納扉がこじ開けられている。足の踏み場もない状態だ。無秩序に、イノシシが力の限り食べ物を探しまわった跡が見られる。

物が散乱し、足の踏み場もない台所
物が散乱し、足の踏み場もない台所

イノシシは一度味を占めると学習し、何度も同じ場所にエサを求めやってくる習性があるという。

空き家の所有者の親戚:
最初はここまで荒らされていなかった。少しずつ少しずつ…。もうこのまま放っておくしかどうしようもない

数が増え続け、離島を含め県内のほぼすべての地域に生息するとみられるイノシシ。

広島市安佐動物公園 獣医師・野田亜矢子さん:
すでに自然の摂理ではどうにもならない、バランスが崩れている状態です。人間の側で駆除していくことを考えないと、バランスの取れた形にはもう戻らないだろうと思われます

近年、広島市の市街地でも出没が相次いでいて、生息数をどう減らすか具体的な対策が求められている。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
テレビ新広島

広島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。