8月末に南アフリカで開催された第15回BRICS首脳会議では、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、イラン、エジプト、エチオピア、アルゼンチンの6カ国が新たな加盟国として認められた。2024年1月1日からこれら諸国が加わり、BRICS加盟国は11に増える。

8月24日、首脳会議閉幕後に共同記者会見を行ったBRICS首脳ら(※ロシアはラブロフ外相が出席)
8月24日、首脳会議閉幕後に共同記者会見を行ったBRICS首脳ら(※ロシアはラブロフ外相が出席)
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サウジ、UAE、イランの3カ国およびBRICS発足メンバーであるブラジル、ロシア、中国はいずれも、世界の石油生産国トップ10に入っている。

英国のエネルギー研究所(Energy Institute)が6月に公表した「世界エネルギー報告」によると、2022年の世界全体の石油生産量は前年比4.2%増の日量9385万バレルであり、これら6カ国の生産がその40%以上を占める。

中国・習近平国家主席(8月24日)
中国・習近平国家主席(8月24日)

米国をはじめとする西側諸国と対峙するための紐帯としてBRICS拡大を推進してきた中国とロシアにとって、今回の首脳会談の決定は「勝利」であるかのように見える。単に加盟国拡大に成功しただけでなく、世界の主要産油国の包含に成功したのは、一見するとかなり華やかな勝利ですらある。

加盟国の方向性に違い

BRICS諸国は現状でも世界のGDPの4分の1以上、世界人口の約42%を占めており、「表面的な数値」上は極めて大きな存在感をもっている。しかしBRICSはこれまで、その「表面的な数値」が示すほど大きな成功や実績をあげたことはない。BRICS自体に一貫したビジョンがなく、政治体制や経済体制、米国に対するスタンスや根本的なイデオロギーの点でも加盟国間には大きな違いがあるため、組織としての一致した意思決定には至ってこなかったからだ。

今回新たな加盟国として認められた6カ国に関しても、同じ構造が指摘できる。

サウジのファイサル・ビン・ファルハーン外相(8月24日)
サウジのファイサル・ビン・ファルハーン外相(8月24日)

サウジ、UAEとイランは外交関係正常化には至ったものの、サウジやUAEといった湾岸アラブ諸国にとって最大の脅威がイランであるという事実に変わりはない。エジプトとエチオピアは、ナイル川の水の利権をめぐり長年にわたって対立している。

対立しあう諸国を包含することすらできる懐の深い組織、と言えば聞こえはいいかもしれないが、個別に対立しあう諸国が同じ組織に属せば、その組織が一致した結論に至るのはより難しくなるだろう。

イランのライシ大統領(8月24日)
イランのライシ大統領(8月24日)

しかもイランは自他共に認める反米国だが、サウジ、UAE、エジプトにとって米国は自国の安全保障に必要不可欠な戦略的同盟国であり、BRICS入りは多極外交という方針の一環に過ぎない。米国との関係を断絶してBRICS入りしようなどという悲痛な覚悟は、どの国にもみられない。

南アフリカ政府関係者によれば、BRICS加盟に関心を示している国は40カ国以上にのぼり、22カ国が正式に加盟を希望しているという。これら諸国は、西側諸国によって世界が支配されている、既存の秩序においては自国が損をしているという不満感と、BRICSがそれにかわる「より公正な世界秩序」を構築し、そこでなら自国が輝けるに違いないという期待感を持っている点において共通していても、政治体制や経済体制、米国に対するスタンスや根本的なイデオロギーは様々であり、共通していないどころか互いに対立している場合もある。

BRICSは拡大傾向にあり、中国やロシアはそれを成果として誇っている。しかしこれまで長らく、世界の政治・経済プレイヤーとしては存在感を発揮できずにいたBRICSが、さらに方向性の異なる多くの国を包摂したところで、組織としての一体性や統一された意思決定からは遠ざかるばかりであり、G7に匹敵するような影響力を持つようになる未来は想像しにくい。

【執筆:麗澤大学客員教授 飯山陽】

飯山陽
飯山陽

麗澤大学客員教授。イスラム思想研究者。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。著書に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『イスラム教再考』『中東問題再考』(ともに扶桑社新書)、『エジプトの空の下』(晶文社)などがある。FNNオンラインの他、産経新聞、「ニューズウィーク日本版」、「経済界」などでもコラムを連載中。