図書館といえば、学生時代、夏休みに通ったという人も多いのでは?実は、鹿児島県指宿市にある2つの図書館が全国的に注目されている。なぜ、いまも多くの人に愛されるのか。図書館職員たちの努力の一方で、運営を取り巻く課題も見えてきた。

本を載せた車には…多くの高校生の姿

鹿児島県南九州市・川辺の岩屋公園キャンプ場に、たくさんの本を載せた車がやってきた。多くの高校生が集まっている。「ブックカフェ号」だ。

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「しめしめ、よかったなって。人と場所をつなぐ車なので」

笑顔でこう話すのはこの移動図書館の仕掛け人、NPO法人そらまめの会の理事長、下吹越(しもひごし)かおるさん。

2023年夏、鹿児島では高校生文化部のインターハイと呼ばれる全国高校総合文化祭が開かれた。

この日やってきたのは、その「総文祭」のため全国から集まった高校生たちの昼食会場だった。

「図書館はアミューズメントパーク」

下吹越さんは普段、指宿図書館の館長をしている。「そらまめの会」では、2007年から指宿市の委託を受け2つの市立図書館を運営している。

指宿市立指宿図書館 下吹越かおる館長:
元々は利用者だったんです。小さい子どもを抱えた主婦で。指宿市が民間のノウハウを生かした活用をしたいということで、だったら“住民による住民のため”の図書館も面白いんじゃないかという話になって

“住民による住民のため”の図書館。取材した日に行われていたのはセミの観察会。運営を始めてから毎年続けているイベントだ。

これまでにもお化け屋敷を開いたり、消防局と協力し、消防車を展示したりしてきた。

この先進的な活動が評価され、2021年、そらまめの会と指宿市立図書館はライブラリーオブザイヤーの大賞を受賞。“日本一の図書館”となった。

指宿市立指宿図書館 下吹越かおる館長:
「図書館はアミューズメントパーク」だと私はよく言っていたのですが、分類の数だけ何でもクロスできるんですよ

“もう一つの家”のような存在に

もう一つの市立図書館は、同じ指宿市の山川図書館。

2023年、子どもの読書活動を推進する図書館として文部科学大臣表彰を受けた。

2023年から鹿児島市内の専門学校に通う上村琉偉さんと、地元・指宿で仕事をしている下尾彩花さんに話を聞いた。

下尾彩花さん:
(スタッフとは)本の貸し借りとか、映画を見るために話したりしていたけど、だんだんしゃべりやすいっていうのに気づいて、中学校の帰りに本を読むだけでなく、スタッフの人たちと話すためだけに来たりしていました

美川愛実アナウンサー:
図書館とはどういう場所ですか? 

下尾彩花さん:
簡単に言えば“もう一つの家”みたいな感じ

スタッフと話すために、よく図書館に通っていたと話す下尾さん。

上村さんも「いろいろ話せる」というスタッフの一人が、山川図書館の久川文乃館長だ。2人についてのエピソードを話してくれた。

指宿市立山川図書館 久川文乃館長
さーや(下尾彩花さん)は遠くの学校だったんだよね。琉偉はよく来ていて、友達と絡んでくるみたいな

2023年から鹿児島市内の調理専門学校に通っている上村さんには思い出の本がある。

タイトルは「魚屋三代目の魚のおろし方と料理」。

指宿市立山川図書館 久川文乃館長:
ずっとここに来てノートを持って、ここの料理の本を写してたよね

上村さんは現在、和食の料理人を目指している。

上村琉偉さん:
分からないことがあったら、(久川館長が)しっかり教えてくれた。できることなら(この図書館が)ずっと残ってほしい

図書館職員の安い給与が課題に…

本を借りるだけではなく、利用者にとって居場所のような存在に。それが、そらまめの会が目指す図書館像だ。

そらまめの会のように地元NPO法人が中心となって図書館を運営する仕組みは指定管理者制度と呼ばれ、20年前に始まった。

この仕組みを導入している図書館は、ここ5年間でも増加している。

図書館の運営に詳しい鹿児島国際大学の岩下雅子特任准教授は、この効果と課題についてこう話る。

鹿児島国際大学 岩下雅子特任准教授:
それまで図書館にかかっていた予算を少しでも削減し、新たなサービスを打ち出そうというのがあった。経費削減だから正規職員はごくわずかで、安い給料で求められる仕事はたくさんある

指宿市の図書館も例外ではない。

最近の物価高で本や光熱費も値上がり。人件費にしわ寄せがいき、図書館を支える職員の給与は常勤でも月13万円から17万円ほど。

指宿市立指宿図書館 下吹越かおる館長:
人件費で調整するしかないとなってくるところもあって、そういうきつさが積み重なっていくと指定管理者はできないと言って、この街の図書館から撤退するしかなくなるということも、無きにしもあらずということがある

図書館職員を長く続けられる仕事にするために働く環境の改善も求められている。

子ども見守り続け…暮らしの横に図書館

取材日、指宿図書館には小さい子どもを抱っこした夫婦が訪れていた。まだ幼い娘の分の図書館の利用者カードを作りにきたという。

母親:
私がずっと指宿なので、小さいときから来ているから

父親:
たくさん読んで普段の生活では味わえないことを味わってほしいと思う

NPO法人そらまめの会 下吹越かおる理事長:
幼稚園とか5歳、6歳の子が19歳になって、その人たちの暮らしの横にはいつも図書館員がいて、図書館があって、ずっとその子たちを見守ってくれる人がいることがとても大事だと思う

多くの人に愛される存在になるために。課題もある中で、指宿の図書館では関係者の模索が続いている。

(鹿児島テレビ)

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