福島第一原発にたまる処理水について、8月22日に政府の判断が示された。海への放出は早ければ8月24日に始まることが決まった。この決定を市民・漁業関係者・福島県ではどのように受け止めたのか取材した。

8月24日放出開始へ

「気象・海象条件に支障がなければ8月24日を見込みます。例え今後、数十年の長期に渡ろうとも、アルプス処理水の処分が完了するまで、政府として責任をもって取り組んでまいります」こう話した岸田首相。福島第一原発の処理水の海洋放出について、政府が決定した放出開始は8月24日だった。

気象・海象条件に支障がなければ8月24日に
気象・海象条件に支障がなければ8月24日に
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街の人からは様々な声

JR郡山駅前で街の人に話を聞くと、高校生は「漁業者だと他県からの印象が大事。もう少し漁業者の意見を聞いて放出の準備を進めていった方がいい」と話し、福島県を訪れていた大阪在住の50代男性は「ちょっと距離がある僕からしても、政府の見解とかIAEAの発表っていうのを、そのまま受け止めて大丈夫なのかなと思う」と話した。

「もう少し漁業者の意見を聞いて」「公式見解を受け止めて大丈夫なのか?」
「もう少し漁業者の意見を聞いて」「公式見解を受け止めて大丈夫なのか?」

東京電力 強い覚悟と責任

岸田首相から「政府と共に信頼を裏切らない決意と覚悟を持って」と呼びかけられていた東京電力。小早川社長は「風評をおこさないという強い覚悟、責任を果たしていくことが重要である」と話し、賠償や風評対策に取り組む専門の部署の体制を整えて海洋放出に臨むとした。

東京電力・小早川社長 風評をおこさないという強い覚悟と責任
東京電力・小早川社長 風評をおこさないという強い覚悟と責任

漁師の不安 漁の継続と新たな風評

いわき市小名浜の志賀金三郎さんは、漁師になって55年以上。強く臨むのは今後の漁業の継続。「子々孫々、孫からまた繋いでいく。そこまでちゃんと政府がやってくれるか、それは不安」と語る。

いわき市小名浜の漁師・志賀金三郎さん 先の世代まで漁業は続けられるのか
いわき市小名浜の漁師・志賀金三郎さん 先の世代まで漁業は続けられるのか

福島県沖では9月1日に底引き網漁が再開するが、新たな風評が生まれないか不安を抱いている。「買ってくれる人には丁寧に”この魚は大丈夫だよ”と、安心は訴えていこうかな」と志賀さんはいう。

福島県沖では9月1日に底引き網漁が再開 新たな風評を心配
福島県沖では9月1日に底引き網漁が再開 新たな風評を心配

鮮魚店 風評の不安…それでも出来る事

観鮮魚店が並び、県外からも多くの人が訪れる「いわき・ら・ら・ミュウ」 福島県産の水産物を扱っている「いちよし商店」の店長・芳賀弘治さんは、処理水の安全性については理解しているが「お盆期間中、県外からも来て結構賑わっていた。風評被害の影響がどれくらい出るのか、ものすごく心配」と話す。

多くの人が”常磐もの”を求めて訪れる
多くの人が”常磐もの”を求めて訪れる

それでも「安心です・これだけ調べていますよと、お客様に告知して理解してもらって買ってもらうことしかできない」と話し、消費者と直接関われる鮮魚店だからこそ、できることがあると考えている。

いちよし商店・芳賀弘治さん 客と直接関われるからこそできることも
いちよし商店・芳賀弘治さん 客と直接関われるからこそできることも

福島県と原発立地町から要望書

開始日の決定を受け、福島県庁に報告に訪れた西村経産相に対し、福島県の内堀知事は「漁業をはじめとする福島の生業を、将来にわたって維持をし次の世代に繋いでいけるよう、最後まで全責任を全うしてください」と話し、大熊町・双葉町の町長と連名で安全確保の徹底など5項目を求める要望書を手渡した。

福島県と福島第一原発が立地する大熊町・双葉町から要望書
福島県と福島第一原発が立地する大熊町・双葉町から要望書

福島県漁連は改めて反対

西村経産相はいわき市も訪れ、福島県漁連の野崎会長など幹部と面会。野崎会長は「我々は反対であるという形で、今後とも臨みたい。西村大臣に、海洋放出の決定に至る経緯をご説明いただいて、今後の対策のもとにしていきたい」と話した。改めて「反対」を表明した野崎会長に対し、西村経産相は安全対策や風評対策などこれまでと今後の取り組みを説明、理解を求めた。

福島県漁連と西村経産相 県漁連からは改めて「反対」を表明
福島県漁連と西村経産相 県漁連からは改めて「反対」を表明

理解したが受け入れたわけでは

「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」この”約束”をめぐっては「関係者は誰を指すのか」「理解をどう評価するのか」などあいまいなまま8月22日の決定を迎えた。

「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」関係者とは?理解とは?
「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」関係者とは?理解とは?

8月21日に岸田首相は「理解は進んでいる」とも話していたが、全漁連の坂本会長は「科学的な安全性への理解は私どもも深まってきた。それと社会的な安心は異なるもの。科学的に安全だからと言って風評被害がなくなるわけではない。現に風評被害は起きている」と話している。処理水の安全性については理解したが、海洋放出を理解して受け入れたわけではないというのが全漁連・県漁連の考え。

処理水の安全性は理解 海洋放出を理解し受け入れたわけではない
処理水の安全性は理解 海洋放出を理解し受け入れたわけではない

約束は破られていないが…

海洋放出への理解については、坂本会長も福島県漁連・野崎会長も「廃炉が終わった時に、漁業が継続できていれば初めて理解できたとなる」と口を揃えている。

約束は破られてはいないけれど 果たされてもいない
約束は破られてはいないけれど 果たされてもいない

国・東京電力と漁業関係者が考える「理解」の対象がかみ合っていないという現状を表す、象徴的な言葉を坂本会長は口にしていた。それが「約束は破られてはいないけれど、しかし果たされてもいない」という言葉。国と東京電力、そして漁業者の間にある溝は残されたままだ。

(福島テレビ)

福島テレビ
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