炊飯器や保温容器など、キッチンまわりの家電でおなじみの象印マホービンが発売したクラフトビールが好評だ。

「炊飯試験」で炊いたご飯を原料にした(提供:象印マホービン)
「炊飯試験」で炊いたご飯を原料にした(提供:象印マホービン)
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象印マホービンは6月にクラフトビール「ハレと穂」を発売。このビールは、炊飯器を開発する際の「炊飯試験」で炊き、試食した後で余ってしまったご飯をクラフトビールの原料の一部として使っている。

「ハレと穂」の製造工程(提供:象印マホービン)
「ハレと穂」の製造工程(提供:象印マホービン)

ビール作りの「糖化」という工程で、炊いたご飯と粉砕した麦芽、湯を混ぜ合わせ、エキスを抽出している。白ブドウ果汁も使用しており、さわやかな味わいとさっぱりドライな後味が特長のラガービールに仕上がったという。

醸造は三重県のクラフトビール会社

パートナーとして醸造を手掛けるのは、三重・伊勢市にある伊勢角屋麦酒(二軒茶屋餅角屋本店)。大正時代から受け継ぐ味噌・醤油づくりの醸造技術を生かし、1997年にクラフトビールの世界に参入した会社だ。

「象印食堂」大阪本店(提供:象印マホービン)
「象印食堂」大阪本店(提供:象印マホービン)

「ハレと穂」は、象印マホービンが運営する「象印食堂」の大阪本店と東京店で飲むことができる(1杯880円・税込)。

自宅で楽しめる330mLボトル(660円・税込)は現在売り切れとなっているが、9月末頃を目途に再販を予定している。取り扱いは、伊勢角屋麦酒のオンラインショップとイオンリカー株式会社の店舗(四谷店、日吉店、蒲田店)となる。

ご飯を入れることで食事に合う味に

それにしても、なぜご飯でビールを作ろうと思ったのか。「ハレと穂」はどのような料理と相性が良いのか。開発に携わった新事業開発室の栗栖美和さんに話を聞いた。


――「ハレと穂」はどんなビール?

シャンパンのようなさわやかさがありますが、炭酸もしっかり効いていて、飲んだ後はビールらしい苦味も感じられます。乾杯のお酒としても、お食事と合わせる食中酒としてもお楽しみいただけるビールです。


――ご飯を材料に使うことによって味にどんな特徴が出た?

よく「ご飯を入れると甘くなるんですか?」と質問を受けることがありますが、実は違い、スッキリとしたドライな飲み口になりました。私たちも最初は甘くなるのかと思っていたのですが、ご飯を入れたことによって、より食事に合うような味になったのは面白いなあと思いました。

「ハレと穂」を合わせたい象印食堂のメニューの例(提供:象印マホービン)
「ハレと穂」を合わせたい象印食堂のメニューの例(提供:象印マホービン)

――どんな料理に合うの?

象印マホービンが運営する、ご飯を主役にしたレストラン「象印食堂」のメニューに合うように開発したので、ぜひ和食に合わせていただきたいですね。シンプルな魚料理や薄味の煮物にもよく合いますし、白ワインに合わせるような料理とも相性が良いです。

年間30トンの廃棄をどうにかしたい

――なぜ、炊飯試験で余ったご飯をビールに使おうと思った?

私の所属する新事業開発室が2018年にできてから、新規事業や会社が解決すべき課題を探索していた時期がありました。その中でまず、食に携わる会社として、食品ロス削減に取り組まないといけないという認識を持ちました。そこで、「炊飯試験のお米を何かに利用できないか」という課題が出たのです。

その後の2019年、炊いたご飯をエタノールにアップサイクル(付加価値の高いものにつくり変える)できる技術を持つスタートアップ企業に出会い、ご飯からつくったエタノールを使った「ごはんで作った除菌ウエットティッシュ」の製造が始まりました。

「ごはんで作った除菌ウエットティッシュ」(提供:象印マホービン)
「ごはんで作った除菌ウエットティッシュ」(提供:象印マホービン)

この経緯を聞いて、アップサイクルビールをつくるフードテック企業のCRUST JAPANさんから、「ビールにチャレンジしてみませんか?」と提案いただき、三重・伊勢市にある伊勢角屋麦酒様をご紹介いただきました。これが「ハレと穂」が誕生したきっかけです。


――炊飯試験で出た廃棄ご飯はこれまでどうしていたの?今回のビールにはどれくらい使っているの?

炊飯試験の廃棄のご飯は年間で30トン、1合300グラムで計算すると10万合分になります。今までこのご飯は、お金を払って業者に委託して堆肥に加工していました。

炊飯試験の食味風景(提供:象印マホービン)
炊飯試験の食味風景(提供:象印マホービン)

今回は、その一部を使ってクラフトビールにしました。どれくらい使ったのかは具体的な数字ではお答えできないのですが、まだ使える分はたくさんあるので、販売状況を見ながら再販していけるように取り組んでいきます。廃棄のご飯をアップサイクルして商品化する提携先も引き続き募集しています。

150%イメージ通りのビールが完成

――どういう風につくっていったの?

クラフトビールは少量をつくることが難しいので、つくっては改良するという方法で商品を開発するわけではありません。そのため、醸造元の伊勢角屋麦酒さんに、私たちがどのようなビールをつくりたいかをいかに伝えるかが重要な作業となり、難しいところでした。

そこで私たちはまず、「象印食堂」のメニューと合うビールという方向性を定め、「象印食堂」の運営チームとディスカッションを繰り返し、「ご飯も進むし、お酒も進む、相乗効果があるようなビールをつくりたい」というイメージを固めていきました。

イメージを伝える時、伊勢角屋麦酒さんに言われた言葉で印象に残っている言葉があります。それが、「私たちはピッチャーなんです。ちゃんとミット(イメージ)さえ構えてくれれば、そこに投げますよ」というもの。結果は150%ぐらいイメージ通りで、クラフトマンシップに感激しました。


――「ハレと穂」をどんな時に飲んでほしい?

久しぶりに友達と集まる時やデートの時、頑張った自分へのご褒美など、ちょっとした“ハレの日”に飲んでいただきたいですね。ネーミングにもそんな思いを込めました。

淡い色合いが特徴(提供:象印マホービン)
淡い色合いが特徴(提供:象印マホービン)

廃棄のご飯を使い、意外性のあるアップサイクル商品を開発してきた象印マホービン。廃棄ご飯はまだまだあるようなので、次の商品にも期待したい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。