自民党の佐藤正久参院国対委員長代行(元外務副大臣)と立憲民主党の中谷一馬政調副会長(党デジタル政策PT座長)は13日、フジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」(日曜午前7時30分)に出演し、脅威が増すサイバー攻撃への対処などをめぐり議論した。

ホワイトハッカーなど高度な技術を持つ人材不足が指摘される中、佐藤氏は事務次官級の年収(約2300万円)レベルでは優秀な人材が確保できないとの認識を示し、政治主導で公務員の給与制度の壁を破りたいとの考えを示した。

「AI(人工知能)や量子、サイバーはこれから軍民融合の国家安全保障の中心になる分野だ。給与部分の壁があるから(高度人材を)採用できないというのは本末転倒だ」と強調した。

一方、政府が昨年12月に閣議決定した安保関連三文書で、重大なサイバー攻撃で未然に攻撃者のサーバー等への侵入・無害化を可能とする「能動的サイバー防御」の導入を打ち出したことについて、中谷氏は「攻撃的な視点を持って防衛力を高めていくことは政府全体として考えていく必要が視点としてはある」と述べ、前向きに対応していく考えを示した。

立憲民主党内の今後の議論についても「総論に関してはみな理解すると思う」と述べた。

一方で、サイバー攻撃について防衛省などがなかなか情報を出さないことを指摘。

「憲法でも秘密会は認められている。情報共有してもらえれば、もっと建設的な議論ができる」と話し、政府側の姿勢に苦言を呈した。

サイバーセキュリティに関する情報発信や提供を続ける松原実穂子氏(NTTチーフ・サイバーセキュリティ・ストラテジスト)は、サイバー攻撃を受けた名古屋港や米国の石油パイプラインがシステム障害に陥った事例に触れ、「一箇所を狙った金銭目的の犯罪であっても経済や安全保障に十分打撃を与える事例がもうすでに出てきている」と指摘。

「(能動的サイバー防御の導入方針は)そういう事例に対してもちゃんと脅威を認識して、日本政府が民間企業と一丸となって対処するという強い決意を示した戦略だと評価している」と語った。

以下、番組での主なやりとり。

松山俊行キャスター(フジテレビ政治部長・解説委員):
日本企業がサイバー攻撃を受けて、欧米企業のように身代金を実際に払ってしまうケースもあると聞く。

松原実穂子氏(NTTチーフ・サイバーセキュリティ・ストラテジスト):
アメリカのサイバーセキュリティ企業プルーフポイントによれば、2021年時点でランサムウェア攻撃の被害を受けた日本企業のうち20%が身代金を払ったと言われている。ただし、ここで注意していただきたいのは、アメリカやイギリス、フランス、オーストラリアについても調査したところ、なんと6割から8割の被害組織が身代金を払っている。日本の方がいまのところランサムウェア攻撃の被害も抑えられているし、身代金支払いの率もかなり低く抑えられている。ここは脅しに屈せず、バックアップデータを使うことで業務を復旧させることが一番大事だ。というのも、身代金を払ってしまうと、それは次の攻撃の資金として使われてしまう。
また、実際に身代金を払っても、全部のデータが戻ってくる割合はわずか8%しかない。しかも身代金を払うと、くみしやすい企業だとして8割の企業が再びまた攻撃を受けている。

松山キャスター:
なるほど。サイバー攻撃に関する(政府への)報告については、個人情報の漏洩などがあった場合にのみ報告義務があるとされる。

中谷一馬氏(立憲民主党政調副会長・デジタル政策PT座長):
EU(欧州連合)はサイバーレジリエンス法というものを整備していて、問題が起きたときに可及的速やかな報告を求めている。そもそも設計段階からセキュリティ部分をしっかりと強化をしなくてはならないことを法律で定めている。違反には罰則も設けられ、ルール整備が進んでいる環境がある。(サイバー被害は)火事と同じようなもの。自分のところだけが燃えるわけではなく、延焼してしまう。脆弱性があって自分のところがダメージを受けると、親会社や子会社、取引先などにも影響を及ぼしてしまう恐れがある。サイバー人材の育成も含めて、日本でも法整備を検討していく必要がある。

松山キャスター:
ハッキングを防止するためには、ある程度高い給料で精鋭部隊、人材を確保して対応しなければならない。海外では優秀なホワイトハッカーに1億円以上の報酬を提示する企業もあるという。官僚トップレベルの年収、あるいはそれ以上の報酬が必要という指摘もあるが、実態としてはできていない。

佐藤正久氏(自民党参院国対委員長代行・元外務副大臣):
非常に問題だ。自民党からはもっと高い報酬を提示しないと(人材が)集まらないと言っているが、防衛省ではやはり事務次官が最高年収で、それを超えた形での給与体系は非常に難しいとのことだ。
実際、去年ある防衛産業が初任給2000万円でサイバー人材を集めようとしたが、全然集まらなかったという現実がある。事務次官の給与の壁により、日本の安全保障が担保できないというのは本末転倒だ。この事務次官の給与の壁をぶち破ることを政治主導でやらないと、人事院との調整で防衛省から事務次官の給料を超えたものでお願いしますと言うのは難しい。政治主導だ。これは安全保障の話だ。AI(人工知能)、量子、サイバーはこれから軍民融合の国家安全保障の中枢になる分野だ。その給与部分で壁があるから採用できないというのは本末転倒だ。そういう観点も大事だ。

中谷氏:
先ほど佐藤さんから、アクティブ・サイバー・ディフェンス(能動的サイバー防御)の話があった。攻撃的な視点を持ってディフェンス力を高めていく、防御力を高めていくことは政府全体として考えていく必要が視点としてはあると思っている。そのためには人材が必要だ。サイバー犯罪の国際協力を担当するインターポール(国際刑事警察機構)GlobalComplexforInnovation(IGCI)総局長だった中谷昇氏と人材確保の件で話をしたことがある。3000万円の給料を出しても、1億円もらっている人からすれば給料が下がることになる。下がるのだけど、それでも国防にモチベーションを持ってきてくれる人たちはいるかもしれない。給料が3分の1、あるいは2分の1になったとしてもいるかもしれない。その人たちをどうマネジメントする組織をつくるか。そういうトップガンの人たちが働きやすい環境をどう作り、インフラを含めこの日本のサイバー環境を守っていくか。こっちの方が重要な課題ではないかと思っている。

佐藤氏:
中谷氏にぜひお願いしたいことが二つある。武力攻撃事態法は20年前に(当時の)民主党と一緒に作った。サイバーや宇宙分野がまったく盛り込まれていないため改正しないといけないので協力してほしい。アクティブ・サイバー・ディフェンスは自民、公明が一緒になって閣議決定した。日本維新の会もアクティブ・サイバー・ディフェンスには多分賛成だろう。立憲民主党が賛成してくれたら、議論はかなり加速化されて、この危機的な状況を早く埋められる、手当てをすることができる。ぜひ立憲民主党も前向きに取り組んでほしい。

中谷氏:
はい。我が党でも篠原豪議員を中心に安保PTなども含めて議論を進めている。攻撃的な視点を持って防御力を高めていくという総論に関しては皆理解をすると思う。一方で、各論になった時、どのレベルのことまでするのかというのはやはり国会で慎重に議論していかなければならない。浜田防衛相の答弁もそうだが、対応能力が明らかになるから対外的には情報を出せないということが非常に多い。私たちはそもそも内実が分からない。憲法でも秘密会は認められている。そもそも今どういう状況なのかを本質的に私たち野党側にも情報共有していただけることがあれば、もっと建設的な議論ができるのではないか。

松山キャスター:
松原さんに聞く。能動的サイバー防御について日本では法整備が十分進んでいない。これはどれぐらい必要だと考えるか。

松原氏:
今回の防衛三文書に入ったのは非常に良かった。というのも従来の戦略だと、武力攻撃相当ではないサイバー攻撃は想定がされていなかった。例えば、人を殺傷する、あるいは建物などの財産を破壊するなどの武力攻撃相当のサイバー攻撃でないと対応しない。
でも、エネルギー企業が1週間操業を停止してしまう、港湾が2日間余り操業を停止してしまうというように、一箇所を狙った金銭目的の犯罪であっても経済や安全保障に十分打撃を与える事例がもうすでに出てきている。そういった事例に対しちゃんと脅威を認識して日本政府が民間企業と一丸となって対処するという強い決意を示した戦略だと私は評価している。

日曜報道THE PRIME
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