夏休みも半ば。海水浴や川遊びに行く予定の人も多いと思うが、水難事故には気を付けたいところだ。

そんな中、日本水難救済会が海に落ちたり流されたりした際の対応をX(Twitter)で紹介し、話題になっている。それが「イカ泳ぎ」だ。

日本水難救済会は、国内5万人のボランティア救助員の支援や、洋上の船舶の傷病船員に対する救急医療事業などを行う団体。同会は7日、次のコメントとともに動画を投稿をした。

当会が推薦する「イカ泳ぎ」は、着衣(ポロシャツ、Gパン)でも、このとおり、体力を使わずに長い時間浮力を保つことができます!これからは、「イカ泳ぎ」で浮いて救助を待ちましょう

イカ泳ぎ(提供:日本水難救済会)
イカ泳ぎ(提供:日本水難救済会)
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動画には、着衣のまま仰向けで海に浮かぶ男性の姿が映っている。

手足で水をかいてスーッと進む(提供:日本水難救済会)
手足で水をかいてスーッと進む(提供:日本水難救済会)

男性は、頭を海面から浮かせながら、手足を同じタイミングで曲げ伸ばしして水をかいて後ろ向きに進んでいる。

手足を引き上げて水をかくを繰り返す(提供:日本水難救済会)
手足を引き上げて水をかくを繰り返す(提供:日本水難救済会)

日本水難救済会によると、この「イカ泳ぎ」は泳げない人でも比較的簡単にでき、体力の消耗を抑えながら長く浮くのに適しているという。

なお正式名称は、「エレメンタリー・バックストローク」で、「イカ泳ぎ」は同会が覚えやすいようにつけた名前だという。

この投稿には、「これだけはできる準カナヅチが私ですw 常時呼吸できる安心感」「泳げないけど水に浮かぶことは出来る俺が自己流で見つけた泳ぎ方、イカ泳ぎって名前だったのか」など、泳ぎが苦手な人からのコメントも寄せられ、3万4000のいいねを集めている(8月10日現在)。

誰でも自然に楽にできる泳ぎ方

たしかに、この「イカ泳ぎ」であれば誰にでもできそうだ。そこで、さらに具体的な方法や水難事故に遭遇したときに役立つ知識も知りたい。動画で「イカ泳ぎ」を実践していた、日本水難救済会の常務理事・江口圭三さんに話を聞いた。


――「イカ泳ぎ」とはどんな泳ぎ方?

お腹を上にして顔を水面から出し、手と足を引き上げて水をあおりながらイカのように浮いて進んでいく泳ぎ方です。足ひれのように手首を柔らかくして水をかけば、必ず浮くことができますよ。足はバタ足にしてもOKです。

イカ泳ぎのやり方(提供:日本水難救済会)
イカ泳ぎのやり方(提供:日本水難救済会)

――「イカ泳ぎ」の特長は?

まず、誰でも自然に楽にできるうえ、手足の動きが少ないので体力の消耗が少なくて済むことです。最小限の動きでできるので、服を着ていても楽に泳ぐことができます(濡れた服は体にまとわりつくと泳ぎにくくなります)。動きは最小限ですが、波や流れの中でも、手足を使って体のバランスを保ちやすいのも優れた点です。

そして、顔を出しているため呼吸が楽で、周囲の状況をよく観察することができるので、落ち着くためにも有効です。

浮きながら救助を待っている時には、頭を波や流れの方に向けることで、顔に水がかかりにくくなります。もしかかっても、鼻に入ることはほとんどありません。


――「イカ泳ぎ」をSNSに投稿した理由は?

教育現場などで水難事故への対処法として、口と鼻を上に向けて手足を広げて浮く「背浮き」の指導が行われていますが、私たちは、「背浮き」はむしろ危ないと考えています。そこで、私たちが推奨する「イカ泳ぎ」を知ってほしいと思い投稿しました。

「背浮き」は、できる人もいればできない人もいます。小学生の約7割が背浮きをできないというデータもあります。また、波や流れがある所で顔に水がかかって鼻に水が入ってしまうと、姿勢を保てなくなりパニックになってしまうのです。

今年(2023年)6月に行った実証実験でも、ライフセーバー等泳力のある被験者の4名が、波のある水面で誰も「背浮き」を行うことができませんでした。浮力を確保できても、波が顔を洗い呼吸ができなくなってしまうことが原因です。

海でも川でもイカ泳ぎは有効

――海に落ちてしまったり流されてしまった場合はどのように対処すればいい?

まず、パニックに陥る前にイカ泳ぎで浮いて呼吸を確保し、落ち着きましょう。突然水に落ちたとしても、着衣と靴は脱がないのが原則です。

そしてもし近くに上がれる場所があれば、そのままイカ泳ぎで近づいていきます。なければ、頭を波や流れのほうに向けて、イカ泳ぎで浮いて救助を待ちます。

ただ、イカ泳ぎも万能というわけではありません。長時間、安定して浮力を確保するには救命胴衣(ライフジャケット)を着用するのが一番です。


――川の場合は?

川で流された場合は、ホワイトウォーターフローティングポジションという、イカ泳ぎに似た泳ぎ方で対処します。

(提供:日本水難救済会)
(提供:日本水難救済会)

これは、膝と腰を曲げ、下流の方に足を向けて手であおってバランスを取りながら流されていく方法です。そのまま流されていき、流れが緩いところに出たらイカ泳ぎで岸の方に寄っていきます。

海でも川でも、流れに逆らわないことが大切ですね。

人がおぼれても泳いで助けに行かない!

――仲間や家族が水難事故に遭ってしまった場合はどうすればよい?

もし目の前で人がおぼれていたら、まずは泳がない方法で助けることが原則です。具体的には、ロープや何か浮くものを投げてあげます。船があれば船を使います。

そして同時に、協力者を呼びます。協力者には、ライフセーバーか海水浴場の救護所か、海の家に伝えてもらいましょう。すると海上保安庁(118)や消防(119)に通報してくれます。協力者が直接通報してもかまいません。

直接泳いで助けに行くのは最終手段と考えてください。どうしても行かなければならない場合は、必ず救命胴衣や浮き輪を持っていきます。そしてそれを助けを待つ相手に渡します。


――最後に、水難事故を防ぐための準備や心構えについて教えてほしい。

行く前にやっておいてほしいことは、まずは天気の確認。悪天候時は事故が起こりやすいです。次に、安全な場所の選定。ライフセーバーはいるか、救護所はあるか、地形は安全かなどを確認します。

そして持ち物ですが、救命胴衣や浮き具、食料と水を準備しましょう。救急医療の医薬品も忘れずに。水に入ると皮膚がふやけるので、特に子どもたちはけがをしやすくなります。そのうえで、体調の維持・管理もしっかり行いましょう。

最後に、できれば海や川に行く前にプールに行ってイカ泳ぎの練習をしてください。事前に練習をしておくことで、いざというときにもパニックになりにくくなります。

水難事故を防ぐには、事前の準備が大切だということだ。レジャーで海や川に行く機会はあると思うが、できれば事前に「イカ泳ぎ」の練習するとよさそうだ。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。