捜索から24時間以内の「スピード離党」

「一刻も早く離党させなければ」

風力発電会社から不透明な多額の資金提供を受けた疑いで、秋本真利衆院議員(47)の関係先に東京地検特捜部の家宅捜索が入った4日、ある自民党幹部は周辺に、こう漏らしていた。

秋本議員の事務所で行われた家宅捜索(4日 千葉・佐倉市)
秋本議員の事務所で行われた家宅捜索(4日 千葉・佐倉市)
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自民党は翌5日、秋本議員から離党届が提出され受理したと発表。

国会内にある秋本議員の事務所に捜索が入ってから24時間以内の“スピード決着”だった。

「マイナ問題」「パリ研修」 “スピード離党劇”の背景

自民党が離党を急いだ背景には何があったのか。

マイナンバーカードをめぐる相次ぐトラブルにより、各社の世論調査で岸田内閣の支持率は低下している。

また、自民党の松川るい参院議員らによるフランス・パリでの研修は、「エッフェル塔ポーズ」写真が物議をかもし、“パリ旅行”との批判を浴びた。

“逆風”が続く岸田内閣にとって、秋本議員の事件はさらなる打撃となる。

盆踊りシーズンを迎えているこの時期、多くの議員は地元をくまなく回るが、こうした問題で有権者からの厳しい声を浴びているという。

それだけに、「マイナ保険証問題やパリ問題だけでも大変なのに、長く引っ張らないでほしい」(若手議員)といったため息も漏れていた。

冒頭の「一刻も早い離党」との幹部の言葉には、秋本議員に自民党から1日でも早く抜けてもらい、世論へのダメージや野党からの追及を最小限に抑えたいという思惑が透けて見える。

さらに、秋本議員側への捜索があった4日は、岸田首相の記者会見と重なった。

秋本議員側への捜索があった4日は、岸田首相の記者会見と重なった
秋本議員側への捜索があった4日は、岸田首相の記者会見と重なった

岸田首相は会見で、マイナンバーをめぐる国民の不安払拭に努める考えを表明したが、政府関係者からは「(秋本議員の事件が)せっかくの首相会見に水を差した」と憤りの声もあがっていた。

離党届の提出から発表まで1時間を要さず “伏線”は前夜に

4日夜、会見を終えた岸田首相と東京都内で会食をした自民党の遠藤総務会長は、秋本議員について「離党届を出す方向だ」と首相に報告。

会食後に遠藤氏は、店の外で待っていた記者団に対し腕時計に目をやりながら「いま離党の届け出を受けるか、受けたか、くらいの時間だと思う」と、あえて語って見せていた。

岸田首相と会食後、記者団の取材に応じる自民・遠藤総務会長(4日夜)
岸田首相と会食後、記者団の取材に応じる自民・遠藤総務会長(4日夜)

実際に秋本議員が離党届を提出したのは5日午前。

土曜日だったにもかかわらず、自民党は、持ち回りで党紀委員会での審査を行った上で、離党届を受理した。

複数の関係者によると提出は午前9時頃で、離党の発表があった午前10時前まで、手続きに要した時間は1時間にも満たない。

すでに“シナリオ”は固まっていたといえる。

秋本議員は離党に先立ち、政府における外務政務官を辞任していたが、「内閣の役職辞任と自民党の離党では手続きもハードルも異なる」(自民党関係者)。

政務官は内閣が「処分」として一方的に「解任」することもできるが、自民党の離党は「本人の意思」と「書面」がなければ受理できない。

「処分」の場合は除名することもできるが、「検察の判断が出る前に除名するわけにはいかないので自ら離党してもらうしかない」(自民党関係者)という事情もあった。

過去には逮捕当日まで離党をしなかった国会議員の事例もあり、「時間がかかるのでは」と“心配”する声も出ていたため、秋本議員の離党について党内からは「ホッとした」といった“本音”が漏れた。

離党で“幕引き”? 首相の解散戦略への影響は…

離党届を受理した茂木幹事長は5日、「今回の件については極めて遺憾であり、秋本議員にあっては説明責任をしっかりと果たし、事案の解明に努めてもらいたいと」とのコメントを発表した。

離党届を受理した自民・茂木幹事長
離党届を受理した自民・茂木幹事長

秋本議員の刑事責任については特捜部の今後の捜査に委ねられるが、政治的・道義的に残るのは、茂木氏も指摘する「説明責任」だ。

疑惑の発覚以降、秋本議員の口からは何の説明もなされていない。

疑惑の発覚以降、秋本議員の口からは何の説明もなされていない(3日 羽田空港)
疑惑の発覚以降、秋本議員の口からは何の説明もなされていない(3日 羽田空港)

秋本議員は、前回2021年の衆院選に千葉9区から立候補したが、選挙区では立憲民主党の候補に敗れ、重複立候補した比例代表で「復活当選」をしている。

すなわち、自民党が比例代表で獲得した「枠」の中の1議席を与えられ活動してきた議員であり、離党したことで“幕引き”とはいかない状況だ。

ある自民党の中堅議員は「不祥事で『即離党』させ、『自民党は関係ありません』といった姿勢は印象が悪い。支持率下落は間違いないだろう」と話す。

“マイナトラブル”への対応が取りざたされる中、“パリ旅行”に続き、“政治とカネ”が事件化した、異様ともいえるこの1週間。

中堅議員は肩を落としながらこうも語った。

「とてもじゃないけど、今年の衆院解散は無理だろう。このまま支持率が上がらなければ、『岸田さんの次』を考えなければいけない」

政治部
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日本の将来を占う政治の動向。内政問題、外交問題などを幅広く、かつ分かりやすく伝えることをモットーとしております。
総理大臣、官房長官の動向をフォローする官邸クラブ。平河クラブは自民党、公明党を、野党クラブは、立憲民主党、国民民主党、日本維新の会など野党勢を取材。内閣府担当は、少子化問題から、宇宙、化学問題まで、多岐に渡る分野を、細かくフォローする。外務省クラブは、日々刻々と変化する、外交問題を取材、人事院も取材対象となっている。政界から財界、官界まで、政治部の取材分野は広いと言えます。