世界遺産登録から今年で10年を迎えた富士山。

コロナ制限の解除もあって、登山道は連日“ご来光”目当ての客で大渋滞している。
山小屋に泊まらず徹夜で山頂をめざす「弾丸登山」も急増する中、山梨県が初の登山客規制に踏み切る方向であることが明らかになった。

富士宮口ガイド組合の水本俊輔組合長に富士山登山の現状を聞いた。

コロナで山小屋の宿泊に制限

ーー登山者の動向は?

コロナ前に比べると、やはり登山者数は増えています。

コロナの制限が撤廃されて国内の登山客が増えたのと、インバウンド客が戻ってきて外国の方が非常に多く見られます。

富士宮口ガイド組合・水本俊輔組合長
富士宮口ガイド組合・水本俊輔組合長
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ーー登山客が増えたことによる影響は?

新型コロナの影響もあり、山小屋の宿泊が制限され、予約が取りにくい状況になった中で今夏を迎え、登山者の中には山小屋に宿泊できずに、いわゆる「弾丸登山」する人も非常に多く見られるようになりました。

この人たちは、当初の計画から山小屋の宿泊を介さずに富士山に登るというプランで、基本的に夕方以降にコースタイム通りに登れば登頂できるのではないか、という計画です。

高山病、低体温症のリスク

コロナ禍以降、山小屋では宿泊できる人数を半分近くまで減らしているため、今年の山小屋は連日満室状態。

それにより弾丸登山を選ぶ登山客が増えたというが、弾丸登山は高山病や低体温症のリスクが高まる上、疲労の蓄積から怪我にも繋がる「大変危険な行為だ」と水本さんは訴える。

登山客で混みあう5合目
登山客で混みあう5合目

ーー山小屋の外に寝ている人もいるようだが?

山小屋の宿泊予約が取れなかった人や、山での宿泊を介さずに登って体力の限界が来た人、疲労、高山病、低体温症で山小屋の前で休憩する人が非常に多く見受けられます。

計画通りに行く山ではないので、これ以上登れない状態では下山するのが一番良いのですが、山小屋の前で休憩、行動が停滞する傾向が多く見られます。

ヘッドライトを着けた登山客で渋滞する登山道
ヘッドライトを着けた登山客で渋滞する登山道

ーー野営にはどういった危険がある?

野外で寝てしまうということは、周りからの危険因子に気付きにくいということが多大にあります。

登山者が落石を起こしてしまった場合、無防備な体制で受けてしまうと大怪我につながります。時には命を落としてしまうようなシチュエーションも高い確率であると思います。

9合目の山小屋周りで夜を過ごす登山者
9合目の山小屋周りで夜を過ごす登山者

また、(真夏日でも5度前後という)外気温に晒されて、霧や雨、雲の中で濡れてしまうと、非常に速いスピードで体温が奪われていきます。すぐに救急車や警察が来られる場所ではないので、救助期間の負担は非常に大きな問題として捉えています。

ーー寝てる場所は登山道?

そうです。
登山道は非常に狭いところが多いので、そこで寝られてしまうと往来を制限したり、それが原因で第3者が怪我をすることが多々あります。

連日満室状態の山小屋
連日満室状態の山小屋

私はガイドという仕事で現場に入っているため、登山者が負傷したり体調を崩された時に、最初に接触する機会も多く、処置をしたり、これからどうやって安全に過ごすかなどを案内しています。

搬送までの補助をすることも多いので、そういったことを減らせれば富士山の将来も健全な姿になるのかなと考えています。

全ルートでのコントロールが必要

新たな規制は登山客の安全を確認するのが目的で、山梨県は山頂付近で安全誘導員が危険と判断した場合、吉田口登山道で8合目以上の登山者の人数を制限することを検討している。

富士山にはピーク時で、1日9000人程の登山客が訪れることもあるが、新たな登山規制は4000人を超えた場合に行うとされ、山梨県はお盆を迎える8月中旬頃までに体制を整える構えだ。

混み合う山頂
混み合う山頂

ーー弾丸登山をする人へ呼びかけたいことは?

弾丸登山で野営する人や、登山道の端で休憩を取る人が多いと、登山全体の流れに障害を及ぼし、怪我をする要因になることが非常に多いです。

真っ暗な中に落石が来るとかわせないので、自分の身を守る意味でもしっかりとした登山のスタイルで、富士登山に臨んでいただくのが、我々の職業から皆さんにお願いしたいところであります。

軽装で登山する観光客
軽装で登山する観光客

ーー4000人の入山制限はガイドとして推奨する?

国内では入山をコントロールしているところもあるし、富士山は一夏に桁違いの登山者が訪れる山なので、安全面の上でも何らかのコントロールは必要だと考えています。

4000人という数字の根拠をまだ理解していませんが、一定のコントロールは必要になってきます。

ただ、登山口での人数の差もあり、登山者が少ないルートに人が押し寄せることも考えられるので、しっかりと全ルートでコントロールする将来像を描いた規制ならいいかなと考えています。