国土3分の1が水没。1700人以上が死亡し、3300万人が被災した、“パキスタン史上最悪”と言われる大洪水から1年。

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今も残る洪水の爪痕を、倉田大誠アナウンサーが取材しました。

マラリア患者が急増 160万人以上

洪水から1年たった今でも、残る大量の水。

洪水から1年たった今でも残る水
洪水から1年たった今でも残る水

洪水被害のあった村では、畑が洪水で耕せなくなり、出稼ぎに出ている人も少なくありません。

カラチに出稼ぎに向かう人々
カラチに出稼ぎに向かう人々

しかし、パキスタンの経済都市であるカラチに戻ると、ほとんどの人がスマホを持ち、おしゃれを楽しむ。そんな農村部とはまるで別世界が広がっていました。

いまだに洪水の水が大量に残っている村があることを知っているか聞いてみると、「知らない」「政府が対策したので水なんて残っていない」と答える人が大半で、国が被災地の現状を伝えているようには見えません。

しかし、そんなカラチでも、洪水の爪痕が残っている場所がありました。

カラチ最大の小児病院。中に入ると、待合室や廊下を埋め尽くすほどの人が。

院内には足場がないほどの人があふれていた
院内には足場がないほどの人があふれていた

倉田大誠アナウンサー:
とにかく人がすごい。全員これが患者さんです。洪水のあと非常に患者さんが増えたということです。椅子がほとんど埋まった状況。

洪水以降、被災地では、5歳以下の子供の9人に1人が、重度の栄養失調に陥っているといいます。

そして今、被災地を中心に感染者が爆発的に増えているのが、蚊を媒介に感染する「マラリア」です。

医師:
検査せずにマラリアと診断することもあります。あまりに感染者が多く、検査が間に合わないからです。特に洪水のあとは恐ろしいほどに増えました。

2021年の感染者は、約40万人。しかし、洪水があった2022年は4倍の160万人を超える事態に。さらに、デング熱やコレラなども爆発的に増えているといいます。

マラリアに感染すると、熱や悪寒、体の痛みや吐き気などの症状が出て、最悪の場合、死に至ります。にもかかわらず、重篤な患者が快方に向かうことなく一般病棟にうつされるケースもあるといいます。

マラリアが重症化してしまった、7歳の少年。
医師の許可を得て、話を聞こうと試みましたが、少年は声を出すこともできません。

少年の父親:
痛みが強くて、あまり話せないんです。ここにくるまでに14時間かかりました。病院でも、4~5時間待ちました。本当に大変です

診察を受けるまでに丸1日。痛がる声も出さず、ただ空を見つめる少年に、倉田アナウンサーも「何を聞けばいいんだろう…」と言葉を失います。

少年の姿に言葉を失う倉田アナウンサー
少年の姿に言葉を失う倉田アナウンサー

洪水で貧困化が加速…臨まぬ“児童婚”も

取材を始めてから10日目、“思わぬ洪水被害”を受けたある少女に出会いました。

少女の名前はブリさん、14歳。今年、婚約したといいます。

ブリさんの父親:
離れた町に兄弟のような私の友達がいて、彼の息子と婚約したんです。

Q.ブリさんは婚約者と会ったことがあるのですか?
ブリさんの父親:

もちろんあります。

Q.親が決めた相手を子供たちが嫌だと言うことはありますか?
ブリさんの父親:

もちろんできます。無理やり結婚なんてさせません。

ブリさんに「将来のことなど考えますか?」と聞いてみますが、答えてくれません。

両親の前では話しにくいこともあるのかもしれないと、女性のディレクターとブリさんだけで改めて話しを聞くことに。

女性のディレクターと2人だけで
女性のディレクターと2人だけで

女性のディレクターが、「婚約したということだけど、今はどういう気持ちですか?」と話しかけると、ようやく重い口を開き話してくれました。

ブリさん:
まだ結婚したくないです。こんなに早く結婚するのは嫌…。

Q.さっきお父さんはあなたの意見を聞くと言っていましたが、あなたに結婚相手を選ぶ権利はないのですか?
ブリさん:

相手のことが好きじゃなくても、結婚しなければいけません。

今、パキスタンの農村部では、洪水で貧困化が進んだことで家族を養えなくなり、以前からあった「児童婚」が急増しているといいます。

しかし、ブリさんが住む村があるシンド州では、18歳未満の結婚は違法です。

さらに、父親が「会ったことがある」といった婚約相手についても…。

ブリさん:
会ったことはありません、一度もないんです。
女性ディレクター:
それが結婚したくない理由ですか?
ブリさん:
…仕方ないんです。

一度も会ったことのない相手との結婚を「仕方ない」というブリさん。話を聞く女性ディレクターも、思わず涙ぐみます。

女性ディレクター:
私は日本という国からきました。29歳の独身です。どう感じますか?

涙ぐむ女性ディレクター
涙ぐむ女性ディレクター

女性ディレクターの質問に、顔を下に向けて答えに困るようなしぐさを見せた後、ブリさんはこう答えました。

ブリさん:
…正しいと思います。

私たちができることとは?涙の倉田アナ

洪水が加速させた貧困と格差、感染症や児童婚。

日本とは何もかも違うこの国で、いま何ができるのか。

洪水で仕事を失い、生まれたばかりの子供も失ったアリさん一家
洪水で仕事を失い、生まれたばかりの子供も失ったアリさん一家

悩んだ倉田アナウンサーは、最終日。この国について間もない頃に取材した、洪水で子供も仕事も失ったアリさん一家を、もう一度訪ねました。

倉田アナウンサー:
今回の洪水が起きてしまった一つの原因が、地球温暖化。その原因を作ってしまったのが先進国、我々だけじゃないけど我々にも実は責任があって。そういうことに対してアリさん、何か怒りとか思うことはないですか?

アリさん:
あなた方のように裕福な人たちが、不自由なく食べられて、私たちが食べられないのは正しくありません。…でも、仕方ないですから。

取材中、何度も何度も聞いた「仕方ない」という言葉が刺さります。

倉田アナウンサー:
これまでアリさんと何度もお話をさせてもらっていて、アリさんが怒るとか訴えるとか怒りをあらわにする場面があまり感じなくて。でも絶対に、こんな状況になっていて本来なら怒りしかない。そういうものがなかなか出ないのはなぜですか?

アリさん:
貧乏な男には怒る資格がないんです。
じゃあどうしたらいいんですか?貧しい男は家族に何ができますか?貧困に立ち向かうにはどうすればいいんですか?どうやったら生きていけるっていうんですか?

アリさんの訴えに、倉田アナウンサーは言葉を詰まらせます。

倉田アナウンサー:
お金を…、稼ぐ。ご飯を食べさせる…。ということにしか、つきないのかな…。

アリさん:
私はいくつも質問に答えてきたのに、あなたは答えられないのですか?

アリさんの言葉に涙を流す倉田アナウンサー
アリさんの言葉に涙を流す倉田アナウンサー

その言葉に、「卑怯だよね…ごめん」とつぶやき涙を流す倉田アナウンサー。

倉田アナウンサーの涙をぬぐうアリさん
倉田アナウンサーの涙をぬぐうアリさん

アリさんはそんな倉田アナウンサーの姿を見て、「ごめんよ」と笑顔で涙を拭ってくれまいた。

倉田アナウンサー:
今のアリさんが思っていることを、日本のメディアで伝えることは僕らにはできます。
このパキスタンという場所を知ってくれるかもしれないし。僕らが今、ガスを出してしまっているということが、それを減らそうと、それを発信することは僕らできるし、みなさんが苦しんでいるとか、なんとかしたいという思いを、僕は伝えることができます。
少しでもそれが、変えられる世界を作れたらいいなと思います。

「FNSチャリティキャンペーン」では、パキスタンの子供たちのために皆さまからの募金をお願いしています。募金は、銀行振り込みのほか、クレジットカードなどもご利用いただけます。
詳しい募金の方法については、FNSチャリティキャンペーンHPをご覧ください。

【FNSチャリティー キャンペーンHP】
https://www.fujitv.co.jp/charity/guide.html

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(めざまし8 8月2日放送)