2022年6月から9月にかけて、世界でもまれに見る大洪水に見舞われたパキスタン。

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死者、1700人以上、被災者は3300万人以上にのぼりました。

国の3分の1が水没するという、未曾有の事態から1年。

「忘れられた被災地」であるパキスタンを、倉田大誠アナウンサーが現地取材しました。

まるで“湖” 1年たった今も残り続ける洪水の爪痕

日本から飛行機を乗り継ぎ12時間。パキスタン最大の経済都市・カラチに到着しました。

カラチに立ち並ぶ巨大なビル群
カラチに立ち並ぶ巨大なビル群

イスラム教国のパキスタンは、今、人口が急増しており、カラチには、高級ブランドが立ち並ぶショッピングセンターもあります。

しかし、その一方でテロや犯罪が頻発。7月30日にも自爆テロとみられる爆発で、50人以上が死亡しました。

広場の入り口にも、警備とみられる銃を持った人物が立っており、周囲を警戒しています。

銃を持った警備らしき男性が、周囲を警戒している
銃を持った警備らしき男性が、周囲を警戒している

そんなカラチから車で5時間。

取材班は、洪水で被害を受けた農村地帯へ向かいます。

見えてきたのは、一面水につかった景色。倉田アナウンサーも思わず「すごいな…」と驚がくの声を上げます。

あまりの光景に、ぼう然とする倉田アナウンサー
あまりの光景に、ぼう然とする倉田アナウンサー

巨大な湖のようにも見えるその景色は、全て“洪水による水”。1年たった今でも、水が引ききることはなく、当時の人の営みの気配は感じられません。

今でも水につかったままの住居
今でも水につかったままの住居

洪水の前までこの地域に住んでいたという男性に出会いました。

Q.洪水から1年たちましたが、なぜこんなに水が残っているのですか?
被災男性:

下水の設備がないんです。だから大量の雨が降るとこういうことが起きます。今までは、ここまで降ることはなかったんですが…。もうすぐまた雨季が来るので怖いです。

男性によると、この場所で元々農業を行っていましたが、洪水によって水浸しになり、続けることができなくなったといいます。

食べ物も仕事も失った人々は、洪水の後に現れた魚を網で取って生活しています。

決して衛生的とはいえない水の中で取れた魚を食べる生活。

洪水の水の中から取れた魚
洪水の水の中から取れた魚

この水と共に暮らしている村があると聞き、訪ねることにしました。

人口715人の、バローチ・ザルダリ村。
メディアの取材は、被災当初だけ。国の視察は来たことがないという、「忘れられた被災地」です。

洪水でたまった水の目と鼻の先にある集落。その水の向こう岸にも村があるといいます。

向こう岸にわたるための船に乗ると、大河のような光景が広がっていました。

1年前には、水がなかったとは思えません。

洪水でまるで大河のようになってしまった
洪水でまるで大河のようになってしまった

乗っている間にも浸水してくる船。村の財政状況では、満足な船も用意することはできないのです。

対岸までは約10分。

一緒に船で渡ってきた家族がいたので、声をかけます。

Q.ここの家はどういう家で、皆さんの仮住まいは向こう側にあったりするのですか?
女性:

洪水の前はここに住んでいました。今は向こう岸の親戚の家に住んでいます。
元々レンガの家だったんですけど、洪水で壊れてしまって…。2~3日に1回こっちに来て建て直したんです。

足元を見てみると、土の中からレンガがわずかに見えており、レンガの家がすさまじい勢いで洪水に流されてしまったことが分かります。

足元にはわずかにレンガの家があった痕跡が
足元にはわずかにレンガの家があった痕跡が

洪水で分断されてしまった村。

いまだ壊れたままの家や、穴の空いた仮住まいでの生活が続いており、テレビやラジオやスマホもなく、社会からも隔絶されているのです。

洪水が奪った“生活” アリさん一家との出会い

倉田アナウンサーが取材を続ける中で、ある家族と出会いました。

アリさん一家。子供は、“今は”4人だといいます。

洪水で家が半壊し、1年かけて直したものの、持っていた畑も失い、収入はほとんどありません。

家の土壁は、半分ほどの高さまで変色しており、洪水の水が家を半分のみ込むほどの高さまで来ていたことが分かります。

家の壁に残された洪水の痕
家の壁に残された洪水の痕

この日の昼食は、小麦粉に塩を混ぜて薄く焼いた「チャパティ」。
4枚を家族6人で分け合います。

わずかな食事を取り合う子供たち。

小麦粉はもう、この日の夕食分だけしか残っていません。明日以降の分は、アリさんが買いに行くといいますが、高くて買えるかは分からないそうです。

村にほど近い田んぼにいくと、そこで働くアリさんの姿がありました。

農作業をするアリさん
農作業をするアリさん

アリさん:
きょうはこのお金持ちの議員が持っている田んぼで雇われています。1 日働いて、300ルピー(150円)しかもらえません。

広大な区間全体を田植えして、日本円で1日約150円。

しかも、きょうのように仕事が見つかるのは、1カ月によくて10日間だといいます。

洪水前は3000円以上あった月収も、今では1500円程度。半分に減ってしまいました。

翌日、アリさんはなくなってしまった小麦粉を買うため、村人にバイクを借りて村から一番近い市場へ買い物に向かいます。

買い物の合計は、970ルピー(約485円)。しかし、商品を受け取っても会計をするそぶりがありません。

倉田アナウンサーが思わず、「お金は?払っていなかったけど?」とアリさんに声をかけると、「ツケです。払えませんでした。給料が入ったらまた払いにきます」と話します。

お金が足りず、“ツケ”で購入。さらに、買った物を見せてもらうと、肝心の「小麦粉」がありません。

アリさん:
売っていなかったんです。

主食の小麦粉は売り切れ。
店員に理由を聞くと、今、パキスタンは記録的なインフレのまっただ中にあり、洪水以降、1㎏約40円小麦粉も、60円に値上がりし、店も仕入れをすることができない状況にあるといいます。

小麦粉だけではなく、野菜などはもはや「高級食材」。トマトは以前の2倍、ジャガイモは2.5倍の値段がついており、とても手が出せません。

アリさんの妻:
支払いが遅れたらもうツケはききません。本当はそんなことしないほうがいい…。

世界中に「助けてください」と祈ってきた 奪われた“命”

洪水に奪われたのは、収入や家だけではありませんでした。

アリさんの妻:
子供がひとり…洪水で亡くなったの。

洪水の1週間後に生まれた子供。
しかし、洪水によって自宅は壊れ路上生活を強いられる中、病気にかかり、病院に行くこともままならず、そのまま亡くなってしまったといいます。

アリさんの妻:
先週も雨が降って、子供たちはトラウマで怖くなって、逃げてしまったんです。

それでも、洪水被害のあった家に戻ってきて住み続ける理由とはなんなのでしょうか?

アリさんの妻:
他に住むところがありません、ここしかないんです。子どもを連れてどこに行けば良いのか分かりません。私たちの土地はここしかないから、行く場所がありません。
世界中に、「助けて下さい」と祈ってきました。でも、誰にも届いていないと思います。私たちが生きていくのは本当に難しい。でもこの小さい子どもを、守っていかなければいけないんです。

この村には、アリさん一家の他にも、多くの家族を失った人がいます。
それでも、取材を終えて村を離れる倉田アナウンサーを、最後まで笑顔で見送ってくれました。

倉田大誠アナウンサー:
水ひとつとっても、冷たい水を外で飲んで良いのかということも、正直はばかられる。
生きてきている常識も、見えている常識も違うというか。なんだろうな…、良いのかなって普通に思ってしまいます。

「FNSチャリティキャンペーン」では、パキスタンの子供たちのために皆さまからの募金をお願いしています。募金は、銀行振り込みのほか、クレジットカードなどもご利用いただけます。
詳しい募金の方法については、FNSチャリティキャンペーンHPをご覧ください。

【FNSチャリティー キャンペーンHP】
https://www.fujitv.co.jp/charity/guide.html

皆さまからの募金は、ユニセフ、国連児童基金を通じて、パキスタンの子供たちを支援するために活用されます。皆さまからのご協力とご支援を心よりお待ちしております。

(めざまし8 8月1日放送)