草むらの中にぽつんと存在する朽ち果てた1台の廃車。車の専門誌の人気コーナーで通称「草ヒロ」と呼ばれている。誰が何のために「草ヒロ」を置いているのか?取材から、悲惨な事故を今に伝えようとする切実な思いがみえた。

大人気コーナー「草ヒロ」

旧車専門誌で取り上げられている草むらのヒーロー、通称「草ヒロ」。捨てられている車や修理することができない車などで、この読者投稿コーナーが大人気となっている。

旧車専門誌「ノスタルジックヒーロー」栗澤浩司・編集長:
サビサビで、木とかツタとかが絡まった状態が、一番読者受けがいいかたちですよね

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そんな「草ヒロ」は福岡県内にも置かれている。

トヨタの最高級車も「草ヒロ」に

直方市の国道200号線沿いに佇む「草ヒロ」。

旧車専門誌「ノスタルジックヒーロー」栗澤浩司・編集長:
多分、「2マルソアラ」。2代目のソアラになると思います。当時の最高級車、トヨタの最高級車。一般的な車好きはみんな憧れた車ですね

編集長によると日本では1981年から24年間に渡って活躍し、惜しまれつつ生産終了した名車、トヨタ「ソアラ」の2代目のモデルだという。

しかし、いったいなぜ「車好きの憧れ」が直方市の草むらで朽ち果てているのか?

近隣住民:
何十年も前からありますね。事故かなんかでああなって、あそこに置いてあるんやないですか?誰が置いたかは分からんですけど…

近隣住民:
(この辺は)結構、ちょこちょこ頻繁に、死亡事故は起こってるんですよ

近隣住民への取材で「少なくとも20年以上はある」ことや「現場は事故が頻繁に起こる交差点である」ことなどが判明。国道沿いの「草ヒロ」もフロント部分が壊れていることから事故にあった車の可能性が見えてきた。

しかし、いったい誰がなんのために置いたのか?現場で取材を行っていると、車を置いたという本人から話を聞くことができた。

「草ヒロ」置いた理由は悲惨な事故

直方市に住む堀勝彦さん。堀さんは、市議会議員を4期務め、現在、地元の農協の組合長を務めている。

トヨタ「ソアラ」の「草ヒロ」を置いたのは堀さん本人。その理由とは―。

堀勝彦さん:
もう、2~30年にはなるやろね…、確か、お盆やった。大きい家族がね、4人か5人か、飯塚の方から下って来て信号で止まっとったと思うんよね。それに10トン車くらいの大型がね、確かノーブレーキでバーンと来てね…

事の発端となったのは33年前の悲惨な出来事だったのだ。

停車中に追突 一家5人死亡

1990年8月9日。お盆の帰省ラッシュのまっただ中、北九州方面へ一家は墓参りに向かっていた。5人家族で、長女は6歳、長男は3歳だった。信号が赤に変わり一家の車は停車。その後ろからトラックがノーブレーキで追突したのだ。

瞬く間に一家の車は爆発、炎上。5人の死因は「焼死」。事故原因はトラックの居眠り運転だった。

堀勝彦さん:
ノーブレーキで、バーンと来てね。この車に覆い被さったと。そして中に乗っとる…、ぺしゃんこになったけんね。全員、亡くなった

33年前に起きたあまりにも悲しい一家5人死亡事故。

会社に勤める従業員を別の事故で亡くした経験があった堀さんにとって、事故は他人事ではなかった。

事故なくすために

堀勝彦さん:
一番の願いは、事故をなくすこと。これだけ事故が続いてね、なんとかみんなが「事故を無くさないといけん」という気持ちになってもらうように(廃車を置いた)

堀さんは無事故の祈りを込めてスクラップ店からほかの事故で大破した車を譲り受け、土地の所有者である福岡県から許可を得て高台を作り、ドライバーへの注意喚起として「草ヒロ」を展示したのだ。

そんな掘さんの気持ちはバイパスを通る運転手たちにも届いていた。

運転手:
そこに?あの事故車でしょ、知ってます。もう何年前からある。「気を付けよう」とは思いますけどね、事故の状況を見ればですね

運転手:
「何かがあったんだな」っていうのは、見ていて分かったんで。「そういうことがあったんだな」って思ったら、ここら辺は車の通りも多いので「気を付けた方がいいかな」と

30年以上前の悲しい事故を語り継ぐ草むらのヒーロー、「草ヒロ」は、きょうも凄惨な事故の教訓をあの場所で無言のまま伝え続けている。

(テレビ西日本)

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