NTT東日本は7月20日、ベニザケの陸上養殖に成功したと発表した。

同社は、岡山理科大学、福島県内でスーパーを展開する「いちい」と共同で、昨年1月に「完全閉鎖循環式陸上養殖のビジネス化に向けた実証実験」を実施。

一般的には稚魚から出荷できる成魚になるまで、おおむね4年かかるという。しかし「完全閉鎖循環式陸上養殖」で育てたベニザケは、1年半という期間で、およそ体長50センチ、重さ1.2キロまで成長し、出荷・販売可能な大きさになった。

「完全閉鎖循環式陸上養殖」で育てたベニザケ(提供:NTT東日本)
「完全閉鎖循環式陸上養殖」で育てたベニザケ(提供:NTT東日本)
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ビジネスベースでの「完全閉鎖循環式陸上養殖におけるベニザケ養殖の成功」は、三者(NTT東日本、岡山理科大学、いちい)調べでは世界初とのことだ。

7月21日~23日には「いちい」の店舗で試験販売を行い、生食可能なベニザケを提供している。

試験販売したベニザケの刺身(提供:NTT東日本)
試験販売したベニザケの刺身(提供:NTT東日本)

試験販売された刺身の画像を見ると、脂がのっていて美味しそうだ。食べてみたい人も多いかもしれない。

では、成功は世界初とのことだったが、ベニザケの陸上養殖はどのようなところが難しいのか? また、「陸上養殖したベニザケ」を食べた人は、どのような感想を話しているのか?
 
NTT東日本の担当者に聞いた。

ベニザケの陸上養殖が難しい理由

――そもそも、陸上養殖以外の方法でベニザケの養殖に成功したケースはある?
 

ビジネスベースで、今回の「完全閉鎖循環式」以外で、ベニザケの陸上養殖に成功した事例はございません。


――NTT東日本がベニザケの陸上養殖を始めた理由は? 

昨今、世界的な天然水産資源の枯渇化や環境変動、日本国内では担い手の高齢化や人手不足の深刻化があり、魚を食することが困難になるのではないかという危機感があります。そのため、安心安全で安定供給できる魚の生産をめざすことに至りました。

NTT東日本は「地域の未来を支えるソーシャルイノベーション企業」として、地域の基幹産業である農業をはじめとした一次産業分野に取り組んでいます。

完全陸上養殖は、海沿いだけでなく、耕作放棄地や廃校でも実施可能であり、デジタルの力で地域の新しい産業の創出に貢献できるため、NTT東日本グループがチャレンジする領域だと考えています。

陸上養殖に使用したプラント(提供:NTT東日本)
陸上養殖に使用したプラント(提供:NTT東日本)

――そもそも、ベニザケの陸上養殖は難しい?

ベニザケは、元々、国内で良く食べられていた魚種ですが、近年は海洋環境の影響もあり、国内海域ではほとんど漁獲できず、輸入に頼っています。

さらに、輸入品は生食用がほとんどありません。また、病気や水質・水温の変化に非常に敏感であり、成長が遅いことが理由で、事業規模の養殖が成功しておりません。

世界初となるベニザケ養殖の事業化、生食用での流通・販売を果たすことで、高付加価値な新たな産業を生み出したいと考えています。

飼育水を循環ろ過・殺菌し続けて養殖する方法

――今回、どのような方法でベニザケの陸上養殖を行った? 

「完全閉鎖循環式陸上養殖」という方法で実施しました。陸上養殖は、「かけ流し式陸上養殖」「半閉鎖循環式陸上養殖」「完全閉鎖循環式陸上養殖」の3つの方式に分類されます。

「完全閉鎖循環式陸上養殖」は、養殖開始時の飼育水を循環ろ過・殺菌し続けて養殖する方法です。

また、第3の人工海水 「好適環境水」を利用しました。「好適環境水」は、海水の中から海の魚に必要な成分を、ナトリウム、カリウム、カルシウム、などに絞り込み、海水魚も淡水魚も同じ水槽で飼育可能です。

参考までに、「かけ流し式陸上養殖」「半閉鎖循環式陸上養殖」は、自然環境にある海水や河川の水を恒常的に水槽内に送り込み、水槽内の水を排水します。

陸上養殖したベニザケの刺身(提供:NTT東日本)
陸上養殖したベニザケの刺身(提供:NTT東日本)

――今回、何匹のベニザケの養殖に成功した? 
 

1000匹の稚魚を養殖し、200匹が販売可能な体長約50センチ、重さ1.2キロまで成長しました。そのうち100匹を、切り身や寿司などに加工し、「いちい」にて販売しました。

試験販売したベニザケの寿司(提供:NTT東日本)
試験販売したベニザケの寿司(提供:NTT東日本)

――「陸上養殖したベニザケ」と「天然のベニザケ」の違いは?
 

上品な脂がよくのっており、あっさりとした中に濃厚なうまみがあります。他の鮭類とは異なるうまみを持った魚です。 また、「完全閉鎖循環式×好適環境水」で生育しているため、海水中に存在する寄生虫や病気に感染するリスクが少ないと言えます。

「上品な脂がのっていて非常においしかった」

――陸上養殖したベニザケ、どのように食べることを想定している? 

刺身や寿司、そして、サクや切り身は焼き物などにして食べることを想定しています。


――試験販売で購入した人の感想は?
 

・上品な脂がのっていて非常においしかった。また買いたい。
・寄生虫などの心配がない安全安心な魚ということで、こういった魚が増えてくれると嬉しい。

陸上養殖したベニザケの寿司など(提供:NTT東日本)
陸上養殖したベニザケの寿司など(提供:NTT東日本)

――今後はどんな展開を考えている?

福島県川俣町との連携協定のもと、廃校などを有効活用して、地産地消を実現する地域の産業としての増産体制の構築の検討や、地元の小中学校への食育を支援していきたいと考えています。


――陸上養殖で育てたベニザケをスーパーなどで購入できるようになるのは、いつ頃?

時期は回答いたしかねます。

「いちい」の店舗で試験販売(提供:NTT東日本)
「いちい」の店舗で試験販売(提供:NTT東日本)

上品な脂がのっていて、おいしいという「陸上養殖で育てたベニザケ」。スーパーで販売する時期は未定とのことだが、味わってみたいものだ。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。