JR九州の観光列車「SL人吉」が今シーズン限りで引退する。子供にも人気の蒸気機関車を運転する機関士たちに密着した。

「SL人吉」の機関士と機関助士

「SL人吉」の機関士・佐藤和幸さん。熊本市西区にある熊本車両センターで、機関車をハンマーでたたきながら異常がないかを音で確認する。

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機関士 佐藤和幸さん:
前準備をしっかりしないと走るときに調子が狂ったりするので、ここが一番大事なところだと思い作業している

機関士とは蒸気機関車の運転士のことで、佐藤さんは運転士歴21年、5年前からはSL人吉の機関士をしている。

この日、佐藤さんとペアを組むのは機関助士の新屋敷元気さんだ。

機関助士はSLの“心臓部”とも言える火室に石炭をくべる役割で、蒸気機関車が走る原動力をつくっている。新屋敷さんは「火室の熱気もすごいけれども、SLに乗れる(私の)熱気が格段にすごい」と、SLについて熱く語ってくれた。

2人の“阿吽の呼吸”が重要

JR九州には、機関士と機関助士それぞれ6人が在籍している。蒸気機関車は、機関助士が蒸気を生み出し、その力を機関士が操る、まさに2人の“阿吽の呼吸”が重要だ。

機関士 佐藤和幸さん:
SLは2人作業。1人で仕事ができるわけじゃない。助士と呼吸を合わせて仕事をするのでそこが一番難しい

引退の「ハチロク」 肥薩線走れず

2人が乗る「SL人吉」の蒸気機関車・58654号機は、1922年大正11年製造で「ハチロク」の愛称で親しまれてきた。

しかし、誕生から100年を超え、車体の老朽化や部品の調達が困難なことから今シーズンの引退が決まっている。

「SL人吉」はその名の通り、肥薩線の人吉を走る観光列車だったが、肥薩線は3年前の7月豪雨で被災し、一部区間が運休のままだ。そのため、運行区間を肥薩線から鹿児島本線に変え、現在は走行している。

機関助士 新屋敷元気さん:
(肥薩線が)いつか復活して足が運べるようになれば…。まずはSLで元気づけたい

駅には“ナッパ服”の小学生の姿も

客車との連結も完了し、この日の運行の準備は整い、いよいよ出発の時間。

始発の熊本駅では多くの子どもたちが待つ中、やってきた「SL人吉」を指差し確認で出迎えたのは、“ナッパ服”と呼ばれる機関士の制服姿の村上一心くんだ。「SL人吉」には何十回も乗っているという。

「列車が好き」と話す村上くんは、機関車の状態を佐藤さんや新屋敷さんに確認していた。

村上一心くん:
「異常なかったよ」と言ってた。将来は「ななつ星」の運転士になることと、「SL人吉」の機関士になるのが夢

子どもたちや鉄道ファンから元気をもらった「SL人吉」は、大きく汽笛を上げ、熊本駅を出発した。

“笑顔”に応え 3月まで完走目指す

機関助士 新屋敷元気さん:
笑顔に応えられるように全力で元気いっぱい走りたい

機関士 佐藤和幸さん:
元々は「SL人吉」ということで人吉に行っていたので、本当なら肥薩線が再開した際にSLで人吉に行くのが一番いいが、それはかなわない。「SL人吉」に携わる全員で3月まで無事に完走できるように頑張りたい

2024年3月に引退する「SL人吉」。運行区間は変わったが、その人気は変わらず、ラストシーズンを駆け抜けている。

(テレビ熊本)

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