原発処理水の海洋放出を巡って、中国が日本の水産物を実質“輸入禁止”していることについて、なぜ規制が強化されたのか?中国の狙いは何なのか?

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東アジアの国際関係に詳しいジャーナリストの近藤大介さんに聞いた。

中国が行う日本の水産物の実質“輸入禁止”は“過剰アピール”?

中国は日本の水産物について、「人民の健康と海洋環境に責任がある」と主張し、もともと行っていた日本からの輸入水産物の一部を抜き取って調べる“サンプル検査”を、7月から“100%検査”に切り替える考えを示した。

“100%検査”には時間がかかるので、日持ちしない水産物は鮮度を保つことができず、事実上の輸入禁止措置になっているということだ。中国は日本にとって最大の輸出国で、2022年の水産物の輸出額は871億円にものぼる。このため輸出業者にとって大打撃になることが懸念されている。

近藤さんは「中国の“過剰アピール”」だという見解を示している。処理水の件は“環境問題”“国際問題”として国内外へ広く訴える意図だということだ。“過剰アピール”とはどういうことなのか?

ジャーナリスト 近藤大介さん:
中国では習近平首席が、すごくグリーンを大事に、環境問題を大事にする指導者なんだと今盛んにアピールしています。7月18日に中国で「全国生態環境保護大会」を開きまして、そこで習近平主席が“新時代の中国の特色ある社会主義生態文明思想”というのを決議しました。その中に、原発も安全にするという内容が入っています。これで中国という国は非常にグリーンな国なんだと、国内外にアピールしようとしてるところに、日本の原発処理水の問題があったので、ここぞとばかりに「海を汚染する日本、環境を大切にする中国」という対比をアピールしようとしてるんだろうと思います

“国際問題”というのはどういうことか?

ジャーナリスト 近藤大介さん:
今、中国はアメリカを非常に意識していますが、アメリカはウクライナ戦争に加担する危険な国であると。日本について、中国は「核汚染水」という言い方していますけれど、海に排出する危険な国であると。それに対して中国はグリーンで環境保護をする、人類運命共同体に向かっていく正しい国なんだとアピールしているんですね

日本の原発処理水については、IAEA(=国際原子力機関)が国際基準に合致するとお墨付きを与えているが、これに反対する中国の主張というのは、他の国に通用するのか。

ジャーナリスト 近藤大介さん:
今のところ特別行政区の香港も従えて同じような措置を取らせています。今後、東南アジアとか、アジア太平洋の国、南米とか、もう1つ台湾とも共闘しようというような水面下の動きを見せています

中国の人にとっても、日本の海産物が輸入できないマイナス面があると思いますが?

ジャーナリスト 近藤大介さん:
中国の方がなぜわざわざ日本から輸入するかというと、やはり日本の食品は信用・信頼があるからです。日本から持ってきたものだったら安全だろうという、中国の消費者の信頼感があります。輸入が禁止されると、中国産の魚・海産物しか食べられないということになってしまいますので、中国的にも影響が出てくると思います

中国国内では、中国政府側の主張を後押しするために、原発処理水の海洋放出に反対する動きなどを国内外で取材して、報道しているということだ。

批判的な報道が増えているのか?

ジャーナリスト 近藤大介さん:
そうなんです。批判的な報道、日本国内の取材もすごいんです。中国は特別取材班を組んで、経済産業省の前で抗議している様子とか、福島も何度も取材し、漁民の方とかに聞いて、日本がいかにひどいことをやってるのか、日本人に言わせるということもして、毎日のようにアピールしています

他にも、日本の原発処理水の海洋放出について、批判的な報道があるという。

・中国の国営テレビ・CCTVは、原発処理水を「核汚染水」と呼び報道
・韓国やフィリピンでの日本に対するデモの様子を取材
・太平洋を挟んだ南米(ペルー)でも問題になっていると報じる
・「核汚染水」が日本製の化粧品に入り込む可能性があると報じる

最悪のシナリオは「日本の食品を全て輸入禁止」

貿易問題は今後どうなるのか、最悪のシナリオは、「日本からの食品を全て輸入禁止にして、さらに他国へ呼び掛け広げていく」ことだと近藤さんは言う。このような事態に発展するおそれもあるのか?

ジャーナリスト 近藤大介さん:
水を使っている、例えば日本酒とか、それから日本の果物とかも関係してきます。海産物だけではなくて、日本全体の中国で人気のある食品にも及んでいくリスクがあります

日本が何か対抗措置を取ることはできるのか?

ジャーナリスト 近藤大介さん:
最後は、9月にインドでG20があり、11月にアメリカでAPECがありますので、そこで岸田首相が習近平主席に直談判するしか方法はないんじゃないかと思います。中国はトップダウンの世界ですので、習近平主席を誰も止められない。今、習近平主席が拳を振り上げた格好になっていますので、部下の人たちは下ろせないですから、もうトップと話すしかないと思います

原発処理水の海洋放出の安全性はIAEAが認めている中で、日本は他の国を巻き込んで説明をしていかないといけないのではないか。

関西テレビ 加藤報道デスク:
7月にEUが、日本からの輸入品の規制を撤廃するということを表明しています。その理由として「科学的根拠に基づく説明があったので」ということを言っています。日本の農水省関係者に話を聞くと、その影響は大きく、EUが日本の食品に対する安全性のお墨付きを与えてくれたというところを材料にしていきたいと話をしています

Q.中国の水質汚染は?→A.査察受けずに安全だと主張

ここで関西テレビ「newsランナー」視聴者からの質問。

Q.中国は水質汚染してないの?

ジャーナリスト 近藤大介さん:
IAEAの査察を、日本と同様の査察を受けているという発表はなく、報道もないんです。ただ中国は安全であるとずっと言い続けているということで、ここは日本としてアピールしていく点だと思います

自民党の茂木幹事長は25日に「中国の処理水の方が、日本の処理水より濃度が高い」と反論していた。

Q.インドなど中国以外の販路を拡大するチャンスでは?

ジャーナリスト 近藤大介さん:
それは一つおっしゃる通りだと思います。ただし中国人だけが好きな物も結構あります。例えば北海道産のホタテやナマコなどは、特に中国人が爆買いする物ですので、なかなか中国レベルに販売することは難しいと思います。ただ全般的にインドなどを開拓する方針は正しいと思います

中国だけに頼らない、輸出の「脱・中国依存」も進めていく必要があるかもしれない。

(関西テレビ「newsランナー」7月25日放送)

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