2021年7月に土石流が襲った熱海市伊豆山地区には、住宅など170棟余りがあった。2年が経ち2023年9月から立入制限が解除され、まず32棟で帰還が始まる。ライフラインが復旧した住宅だ。ただ復旧事業をめぐる市の方針は二転三転して、見えぬ将来に故郷を離れる人も出てきそうだ。

「外に出たら山津波」自宅は半壊

土石流が流れ下った伊豆山地区(2021年7月)
土石流が流れ下った伊豆山地区(2021年7月)
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2021年7月3日 熱海市伊豆山地区を襲った土石流は、容赦なく人々が暮らす街を飲み込んだ。
災害関連死を含め28人が死亡し、136棟の建物が被害を受ける未曽有の災害となった。

土石流起点の盛り土が崩落(2021年7月)
土石流起点の盛り土が崩落(2021年7月)

山間部に違法に造成された盛り土が大雨で崩れ、土石流となって川を一気に流れ下った。
遺族や被災者が、盛り土の前・現所有者に加え、「違法な盛り土の造成を許した」として静岡県と熱海市を相手取り、損害賠償を求める裁判を起こしている。

立入禁止の警戒区域
立入禁止の警戒区域

盛り土が再び崩れるおそれがあるとして立入禁止の警戒区域が設けられ、2023年6月時点で124世帯217人が避難生活を続けている。
91歳の小松昭一さんも避難生活を続ける1人だ。

土石流が襲った瞬間を説明する小松さん
土石流が襲った瞬間を説明する小松さん

被災者・小松昭一さん:
外に出たら、上(山の方)から山津波ですよ。ダーと盛り上がってきて、もう家のすぐそこまで来たんですよ

小松さん宅は半壊
小松さん宅は半壊

小松さんの自宅は警戒区域の中にある。隣の家が土石流で押された影響で、小松さんの家も柱や外壁が損傷し、「半壊」と判定された。
被災直後から自宅の再建を希望している。
小松さんは土石流からの2年間を、「短いようで長かった。被災者にとっては一日一日が自分の命との闘いだった」と振り返る。

市が方針変更「行政は何をやっているんだ」

帰還に向け準備する小松さん
帰還に向け準備する小松さん

崩れ残った盛り土の撤去も終わり、熱海市は2023年9月1日から警戒区域を解除する予定だ。小松さんも9月の帰還にむけ準備している。
ただ復旧事業をめぐる熱海市の方針変更には戸惑っている。

熱海市は2022年9月、被災した宅地を買収し造成した上で分譲する計画を示した。
しかし、2023年5月になって、被災者自らが宅地の復旧工事を行い その費用の9割(上限1000万円)を市が補助する方針に変更した。
関連する補正予算案を議会に提出したものの、わずか3週間後に「被災者の理解が得られていない」として、予算案を急きょ取り下げる事態に追い込まれた。

復旧関連予算案の取り上げを釈明する斉藤市長
復旧関連予算案の取り上げを釈明する斉藤市長

斉藤栄市長は「被災者の皆さんの声を聞きながら説明を尽くすために、今回(予算案を)取り下げた」と、短期間での方針変更について釈明する。
被災した宅地の整備が進まない状況に、被災者の不満は募る。

被災者・小松昭一さん:
本当に「行政は何をやっているんだ」という形ですよ。我々は今(行政に対して)不信感だらけですよ

見えぬ将来に募る不安「出ていく人も…」

警戒区域では水道などの復旧が進む
警戒区域では水道などの復旧が進む

警戒区域では2023年7月から被災した住宅の補修工事が始まった。一部の家では、水道が復旧している。
警戒区域とされた場所にはもともと170棟余りの住宅があったが、土石流で流されたり土石流の後に解体されたりした。
2023年7月時点で現存する46棟のうち、水道や電気などのライフラインが復旧する32棟の住民は9月から伊豆山での生活が可能となる。
しかし、行政手続きや生活道路の整備など課題は山積みだ。

警戒区域に自宅がある中島秀人さんは復興計画の策定に携わった被災者の代表でもあるが、不安を口にする。

被災者でつくる「警戒区域未来の会」・中島秀人代表:
僕がすごく心配するのは、ここの復興があと何年かかるかが見えなくなると、「警戒区域からもう出よう」と選択する人が出てくるのではないかということ

復興まで時間がかかればかかるほど、元の生活に戻りにくくなってしまうのは確かだ。

市は被災者との対話と丁寧な説明を

伊豆山に戻りたい人、戻りたくても戻れない人。
置かれた状況は異なるが、伊豆山を愛する気持ちに変わりはない。

警戒区域で進む被災住宅の解体
警戒区域で進む被災住宅の解体

被災者・小松昭一さん:
やっぱり先祖が残した家と墓があるわけですよ。そういうところを、私は長男だから守っていかなきゃいけない。伊豆山の土地に愛着もあると同時に、どうしても住まなければならない理由があるんですね

「警戒区域未来の会」・中島秀人代表:
基本的に「未来の会」を作った時から、後ろを向かないようにしようと決めているんです。どうなっても、もうとにかく前に進むしかないので、今ある現状で今できることをしようと思っています

被災者を対象にした熱海市の説明会(2023年6月)
被災者を対象にした熱海市の説明会(2023年6月)

土石流災害から2023年7月で2年。
被災住宅の解体やライフラインの一部復旧など、復興にむけ少しずつ進み始めていることも確かだ。
この歩みをとめないためにも、熱海市には被災者との対話と丁寧な説明が求められている。
何より信頼を取り戻すことが必要といえそうだ。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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