上皇ご夫妻は7月24日から那須御用邸で静養されている。

この記事の画像(17枚)

毎年のように那須で過ごしてこられた上皇ご夫妻の那須での知られざるエピソードを、フジテレビ社会部の宮崎千歳記者がお伝えする。

生後約半年の天皇陛下もベビーカーで“散策”

上皇ご夫妻のご静養は4年ぶりで、コロナ禍以降初めてです。

那須御用邸は栃木県那須町にあり、広大な森の中に大正15年(1926年)に建てられました。

1971年、昭和天皇が那須御用邸を訪れる
1971年、昭和天皇が那須御用邸を訪れる

那須御用邸は自然が豊かで植物や生き物の宝庫でもあり、植物に造詣が深かった昭和天皇は、夏に2カ月近く滞在されていました。8月15日の終戦の日にヘリコプターで帰京して戦没者追悼式に出席し、また那須に戻られたこともありました。

上皇さまも幼い頃から那須で植物や昆虫に触れ、結婚後は美智子さまやお子さま方もご一緒に滞在されました。1960年の映像には、結婚の翌年、生後約半年の天皇陛下をベビーカーに乗せて散策される様子が映っています。

上皇さまは、那須滞在中に一人で地方公務に出かけられました。その間も昭和天皇は美智子さまを誘って一緒に散策をされましたが、この事について、2014年の記者会見でこのように明かされています。

上皇さま:
昭和天皇は生まれたばかりの浩宮を守って留守をしている美智子が寂しくないよう、香淳皇后と共に散策にお誘いくださったのではないかと思います。

那須で一緒に散策した際に、昭和天皇から直接「ヒツジグサ」や「サギソウ」などの花を教わり、美智子さまにとって特別な思い出の花になったようです。1969年に長女の紀宮さまが生まれた際には、ご夫妻は清子さんのお印に、那須の水辺に咲く思い出の「白いヒツジグサ」を選ばれました。昭和天皇は「大変よい」と喜ばれたということです。

20年近く前に那須で取材した際、お二人が昭和天皇に教わった花を見つけて嬉しそうに確認されていたこともありました。

豊かな自然の中で、こんな場面も…。

2008年の放鳥の映像
2008年の放鳥の映像

2008年、お二人は「放鳥」と呼ばれる昭和42年以来恒例となっていた行事に参加されました。この行事は、県内でけがなどをして保護した鳥を治療して、自然に返すものです。

放鳥では、鳥たちが急に木箱から飛び出すので、ビックリして思いがけない「落とし物(=ふん)」をする場合があります。そのため、美智子さまは飛行ルートの下にいたカメラマンや記者にユーモアを交えて「“落とし物”があるからお気を付けて」と気遣われる場面もありました。

自家製チーズケーキに「うわぁ~おいしい」

また、那須地区では1998年の台風による大雨で河川が氾濫し、多くの農家が畑を失うなどの被害が出ました。この被害に心を痛めたご夫妻は、その後那須御用邸に滞在すると、近隣の農家を訪問されるようになったのです。

2009年アスパラ農家を訪問する上皇様
2009年アスパラ農家を訪問する上皇様

毎年、野菜や花やいちごなど、様々な分野の農家を訪ね、自宅に上がって、自家製の漬物など、農産物を召し上がることもありました。さらに、2014年の農家の方とのコミュニケーションでは、こんなやり取りも。

美智子さま:
手前に牛がいますね。

上皇さま:
この牛を育てるんですか?

経営者:
そうです。

「MANIWA FARM」では、放し飼いで牛を育て、採れた生乳で作った自家製のチーズケーキをカフェで提供しています。ご夫妻は「牛も人も幸せですね」「自分たちの牛乳でこういう製品を作ることができるのは素晴らしいことですね」と感心されていました。

この「那須の雪解け」というレアチーズケーキは、名前の通りチーズがふわふわ。ご夫妻も実際にできたてのチーズケーキを試食され、美智子さまは「うわぁ~おいしい。こんなにフワっとはなかなかできません」とおっしゃったということです。

美智子さまは、ご自分でチーズケーキを作った経験があるとおっしゃっていたそうです。だからこそ感心されたようで「このおいしいチーズケーキをこのまま作り続けて下さいね」と伝えられたということです。

しかし、声を掛けた美智子さまは、農家の方に迷惑をかけたのでは、と思われていたというのです。

味を変えられないのでは…2年間案じられた美智子さま

実はこの話には続きがありました。2年後の夏の那須塩原駅前での映像では、美智子さまが女性に歩み寄って手を握り、何かを話されています。この女性が、チーズケーキを振る舞った酪農家の摩庭さんでした。

美智子さまは「このままこのチーズケーキを作り続けて下さいね」と伝えたことについて「お客様の要望で味を変えていかなければいけないかもしれないのに、あのようなことを申し上げたことで、ご迷惑をおかけしたのではないかと気になっていて、2年間ずっと心配していたんです」と話されたといいます。

美智子さまがひとつひとつの交流やかけた言葉を、心に留められていることが伝わってきます。

摩庭さんはびっくりしたと同時に感激で涙が込み上げてきて、手を握り締めたまま「今までやってきて良かったと、背中を押していただいたんです」と、どうにか伝えたということです。

すると、美智子さまは「あぁよかった…」とほっとした笑顔を見せられました。その横で上皇さまも嬉しそうに微笑まれていました。先日記者が摩庭さんに連絡したところ、このような言葉が返ってきました。

チーズケーキ工房「MANIWA FARM」摩庭令子さん:
あの時のことは今も宝物です。

「那須の雪解け」のチーズケーキはそのままの味で、今でも多くの人に愛されています。

(「イット!」 7月25日放送より)