インバウンドが増えていることで、街に活気のある姿が戻ってきているが、一方で日本で生活する私たちに思わぬ影響があるそうだ。物価高が加速している影響で、「夏の旅行がピンチ!?」という気になる問題について、経済学者である大阪大学大学院教授の安田洋祐さんに聞いた。

ホテルの供給数・部屋数は急には増やせない…ホテル高は続く

インバウンドの増加により、日本のホテルの価格が上昇している。アメリカのホテル調査会社「STR」が日本のホテルの客室単価について調査を行ったところ、コロナ前の2019年と比べ、(1人あたり)2,305円値上がりしているということだ。上昇率は15.8%になる。

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大阪大学大学院教授 安田洋祐さん:
モノの値段は需要と供給で決まります。ホテルの部屋って、供給をすぐには増やせません。そうすると需要がどうなるかって考えないといけませんが、皆さん、やはり高くても旅行に行きたいですよね、去年までコロナで抑えられていましたので

大阪大学大学院教授 安田洋祐さん:
“リベンジ消費”はこれからもまだ続くでしょう。加えて海外からのインバウンド観光客から見れば、いまの日本のホテルが高いと言われていても、他国のホテルと比べればこれでも格安なんですよね。なので、高い需要が続くので、しばらくはホテルの値段は高止まりするんじゃないかと思います

日本と欧米の“金利差”が解消されない限り「円安傾向」は収まらない

11日の午後5時時点で1ドル140.56円。少し円高に傾いてはいるが、それでも円安傾向は続いている。この円安いつまで続くのか、安田さんの見解は「140円前後はしばらく続く」

大阪大学大学院教授 安田洋祐さん:
為替は何に影響するかと言うと、日本と海外の金利差です。直近で円安が続いていた背景は、日本では長い間“ゼロ金利”が続いているのに対して、欧米は金利が上がりました。そうすると金利が高い通貨の方が魅力的なので、そちらの通貨に需要が流れ高くなる、逆に円は安くなる…ということがずっと続いてきました。一方で、日銀も直ちにこの“ゼロ金利”をやめて金利を上げて…ということは起こらなそうなので、やはり140円台という今の水準が続くのではないかと思います

日銀の政策金利は低いままだが、いつ上がるのか?また金利が上がる時はどういう時なのか? 安田教授によると…

大阪大学大学院教授 安田洋祐さん:
日本銀行が兼ねてから主張しているのは、「安定して物価水準・インフレ率が2%を超えるようになるまでは緩和政策を続けます」ということです。足元のインフレ率は実は2%をもう超え始めているのですが、これは主にエネルギー価格を中心にしたもの、(円安下で)輸入されてきたもの、そういった値上がりです。つまり”コストが上がる形”でインフレが起きているだけです。なので、日本経済全体が自律的にインフレ傾向になってるわけではありません。本格的にインフレが止まらなくなると、場合によってはゼロ金利の緩和や解除も見えてくるかもしれません

円安も続く、物価高も続くとなると、われわれの賃金の上昇も伴わないと困る。インバウンドで好循環は起きるのか?安田さんは「賃金水準が比較的低い飲食などサービス業への価格転嫁(賃上げ)で経済格差を是正へ」と見ている。

インバウンドが増えることで人手不足になり、人手募集が増えて賃金がアップするという好循環が生まれる可能性があるとのことだ。

そして、賃金水準が比較的低い飲食店などのサービス業への価格転嫁と賃上げが起これば、経済格差を是正できる。これらが今後のカギになるということだ。

大阪大学大学院教授 安田洋祐さん:
キーワードは経済格差、あるいは2極化です。残念ながら、我々の経済でこれは起きてしまっています。例えばホテルにしても、ものすごい高い、1泊あたり10万円超えるような高級ホテルが大人気です。その一方で、本当に庶民でも手が届くような安い商品やサービスもニーズが強い。
ものすごく高いもの、一方で安いものと、両極端なものが売れやすくなっています。これは不動産とかもそうですし、あとはレストランもそうかもしれません。高級店は予約が取れなくなっています。
この2極化をひょっとしたらある程度、解決できるかもしれないとすれば、インバウンドがキッカケで、需要が上がればニーズが高まる。そういった需要が上がってきたものに対して値上げをする、これを“価格転嫁”と言うのですが、今まではなかなかできなかったわけです

大阪大学大学院教授 安田洋祐さん:
ところが、最近になって飲食でも宿泊でも価格転嫁しやすくなってきた。皆が値段を上げているので全体として値段を上げやすくなっている。値段を上げれば利益も増えます。そうすると、いよいよ賃上げだったり、パートタイムだったら時給がどんどん高くなっていく流れです。
サービス業で働いている方は、全体として見るとやっぱり低賃金の方が多いので、その部分の賃金が上がる・時給が上がると、所得が増えます。それによって消費が少しでも上向けば、日本全体の景気が上がっていく。この好循環がしばらく続くかもしれません。そのキッカケに、このインバウンド需要がつながるかもしれません

皆が気になっているコチラの疑問…
Q:賃金はいつ上がるんですか?

大阪大学大学院教授 安田洋祐さん:
専門家として少しズルい答え方をしますけど、「あなたの賃金がいつ上がるかちょっとわからない」です。実は上がるところは、もう上がっているんですよね。賃金のベースアップが行われた企業も大企業を中心に増えてますし、直近なら夏のボーナスです。日本の某商社とかでボーナス1000万円超!みたいなニュースがありました。
儲かるところは儲かっている。なので、もう賃上げは実は起きるところではすでに起きているんです。ただ、傾向として大企業中心なので、これが中小企業とか、あとはパートタイムの時給も本格的に上がってくるようなことになると、肌感覚として暮らしが楽になってきたかも…という風に思えるかもしれません

Q:物価高はいつまで続くのでしょうか?

物価高は続く…問題は“賃上げ”を伴うかどうか

大阪大学大学院教授 安田洋祐さん:
時間軸を気にされている方が多いですね。やはり先が見えないと頑張れないところあるのでしょう。物価高に関しては、しばらくは続くと思います。ただポイントは、物価が高いかどうかだけじゃなくて、それに伴って賃金が上がるかどうかです。賃金が上がれば良いシナリオ、上がらなければ悪いシナリオなんですが、どっちのシナリオになるにしても、物価高はしばらく続くと思います。なので重要なのは、いかにしてこの賃上げを伴う物価高を良いインフレにつなげていくかということだと思います

Q:適正な円の価格はいくらなんですか?

大阪大学大学院教授 安田洋祐さん:
難しいですね、皆さんも肌感覚として1ドル140円はちょっと円安すぎるんじゃないかと思われているかと。先ほど為替を決める要因として金利差に注目しましょう、というお話をしたのですが、まだ(欧米では)インフレが続いてるので、しばらく金利は高くなると思うんです。このインフレが一段落して海外の金利が下がってくると、(日本と欧米での)金利差が縮小するので、円高に行くかもしれません。あるいは日本国内で安定して2%を超えるインフレが実現し始めると、いよいよゼロ金利を緩やかに解除の方向に向かうかもしれません。
そういう動きが出た瞬間に、為替は大きく動く可能性があるので、おそらく140円とか150円という水準は長くは続かなくて、どこかのタイミングで120円から130円ぐらいのところに行くのではないでしょうか

インバウンドの増加が、賃上げの後押しになるのか、経済の好循環につながっていくかがポイントのようだ。

(関西テレビ「newsランナー」7月11日放送)      

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