通貨スワップ協定の再開や輸出手続きについてのホワイト国再指定など、日韓関係の緊張緩和は急速に進んでいる。一方、元慰安婦やレーダー照射などの課題には解決の見通しが立っていない。BSフジLIVE「プライムニュース」では国会議員と識者を迎え、日韓関係の現状と見通しについて議論した。

通貨スワップ再開は韓国にメリット、日本にはデメリットか

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新美有加キャスター:
6月29日に日韓両政府は7年ぶりの日韓財務対話を行い、通貨スワップ協定を約8年ぶりに再開させることなどで合意。例えば、韓国で財政悪化が起きウォンが通貨危機に見舞われた場合、日本がウォンと引き換えに米ドルなどを一時的に融通し支援する。背景をどうご覧に。

松川るい 自民党外交部会長代理 参院外交防衛委員:
唐突。協定を日本が更新しなかったのは、李明博(イ・ミョンバク)大統領の竹島上陸や釜山の総領事館前の慰安婦像など信用の問題だった。アメリカとの間に無制限のスワップがある日本が助けてもらうことはあり得ず、一方的に韓国を助ける話。もっと説明が必要。

真田幸光 愛知淑徳大学教授:
韓国は基軸通貨を握るような他の強い国と通貨スワップを結んでいない。国際金融筋はこの再開は韓国にメリットがあると見ている。韓国はドル建ての対外債務が多く、そのうち1年未満での返済が必要な短期のものが4割超。この総額は外貨準備高より大きく、危険。

反町理キャスター:
日本側のメリットは。

鈴置高文 ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員:
ない。それどころかリスク。2008年の例でも、スワップを背景に韓国がウォン安をキープし、日本の半導体や自動車部品が韓国に勝てなくなった。1997年の通貨危機で日本は韓国を助けなかったが、被害は起きなかった。

反町理キャスター:
韓国ではどう報じられているか。

黒田勝弘 産経新聞ソウル駐在客員論説委員:
大衆的な関心はない。関係改善の動きの中での象徴的な出来事として議論されたということ。保守層、経済界には非常に評価されているが。

韓国経済はこの40年で最も危険な状態

新美有加キャスター:
海外投資から得られる利子や配当収入などを示す第1次所得収支。例年、韓国は4月が大きくマイナスとなるが、2023年4月の赤字額は前年4月の32.5億ドルから大きく減らし9000万ドルに。

鈴置高文 ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員:
4月の赤字は正常。三星(サムスン)電子の株主の半数はアメリカ人やイギリス人で、配当が出る4月に送金するため。むしろ赤字の激減に疑念がある。これは韓国政府が本国に送金したときの税金を安くしたため。経常収支の赤字幅が止まらず、海外でドルを集めてこいと民間企業に言った。

反町理キャスター:
それは粉飾?

鈴置高文 ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員:
法律には違反しないが、それほど危なくなっているとマーケットは思う。この40年間で、今ほど韓国経済が危ないときはない。すぐに使える外貨もたぶん600億ドルほど。不動産市場はバブルが崩壊。コロナ対策で韓国は民間に借金させて返済期限を先送りしたが、この9月に返済期限延期をやめるとした。韓国の専門家の間では通貨スワップがなければ大変だというのは常識。

黒田勝弘 産経新聞ソウル駐在客員論説委員:
韓国人は割と楽観的。だがソウルに来ている日本のメガバンクの人は、韓国は製造業の競争力は強いが金融力が弱いと言う。

真田幸光 愛知淑徳大学教授:
弱いと思う。ウォンも国際金融市場の中で弱い通貨という評価。

ホワイト国への再指定 韓国の輸出管理は信頼できる体制に改善したか

新美有加キャスター:
もう一つの経済面での関係改善策が、輸出手続きに関するいわゆるホワイト国への再指定。2018年に韓国大法院が元徴用工の訴えに対し、日本企業に賠償を命じる判決を出して、日本政府は事実上の報復措置として韓国を除外。また軍事転用の恐れがある不適切な輸出管理への懸念を理由としていた。

松川るい 自民党外交部会長代理 参院外交防衛委員:
粛々とした手続きで良いと思う。当局間で細かな管理体制のチェックをして、安全性が確保できたと判断した。半導体分野では日韓間で競合する部分もあるが補完関係もあり、歓迎する日本企業もある。今は問題があれば定期的な対話で改善していける。

真田幸光 愛知淑徳大学教授:
除外は安全保障上の問題が理由で、報復ではなかった。当時、日本が韓国に輸出していた3品目が中国や北朝鮮に回り、日米は問題と感じていた。仕組みができ、中国や北朝鮮の軍需産業に使われていないと確認できたことを、政府がきちんと日本国民やアメリカなど諸外国に説明すべき。

松川るい 自民党外交部会長代理 参院外交防衛委員:
経産省の方に確認したが、個別事案含め協議し、韓国側が追跡して対処しているとわかったとのこと。安全保障上具体的な発表ができないが。

鈴置高文 ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員:
日本製の半導体がロシアに迂回輸出されているという日経新聞の調査報道があったが、うち8割が中国・香港経由で次に韓国だった。今は時期尚早。韓国が真っ当な国になったかどうかわからないのと、政治的な問題。尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が、いわゆる徴用工問題で約束したはずの第三者弁済が実行されなくなっている。

黒田勝弘 産経新聞ソウル駐在客員論説委員:
徴用工問題が関連していたというのが皆さんの共通理解。安倍元総理の回顧録にも記述がある。日本側の決断が遅すぎ、もったいなかった。尹大統領の最初の訪日時にアピールできる出し方をすれば、尹政権の安定にも繋がった。

「処理水放出反対」を政治利用する韓国野党 利用される公明・山口氏発言

新美有加キャスター:
東京電力福島第一原発の処理水について原子力規制委員会による放出設備の最終検査が行われ、早ければ週内に合格が出る見通し。またIAEA(国際原子力機関)の調査も行われ、グロッシ事務局長は岸田総理との会談で海洋放出計画が国際的な安全基準に適合するとする調査結果を報告した。海外からの理解は。

松川るい 自民党外交部会長代理 参院外交防衛委員:
韓国は、尹大統領が科学的な事実や分析に基づき判断をするとしている。科学的根拠となるIAEAの報告は非常に大きい。

鈴置高文 ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員:
韓国は放出を認めなければいつまでも日本の水産物の輸入を規制しなければならないが、TPP(環太平洋パートナーシップ)に入りたいので認める必要がある。

新美有加キャスター:
韓国も一枚岩ではない。韓国国会の本会議で、海洋放出の撤回を求める決議案が可決。韓国野党の集会では、共に民主党の林鐘声(イム・チョンソン)議員が「私は排せつ物を食べることはあっても、福島の“汚染水”は飲めません」という驚きの発言。

黒田勝弘 産経新聞ソウル駐在客員論説委員:
韓国野党は総選挙に向けて尹政権の足を引っ張ろうとして、IAEAの報告書は信じられないとも言っている。だが、まともな国民もいる。IAEAの事務局長には韓国世論を説得する意味で話してほしい。

反町理キャスター:
国会議員がこんなことを市民集会でがなるのが信じられない。韓国の政治風土では評価されるのか。

黒田勝弘 産経新聞ソウル駐在客員論説委員:
一種の売名発言だが、よくある風景。韓国では野党が全国を周り「もう魚は食えない、韓国の水産業は壊滅だ」と扇動して回っている。威勢のいい愛国者に見え、選挙でプラスになるという計算がある。だが政府与党、科学者、朝鮮日報などのメディアは、デマに扇動される時代をもうやめようと言っている。これは大きな変化。

反町理キャスター:
公明党の山口代表が、処理水放出は海水浴シーズンを避けた方がいいと発言。

黒田勝弘 産経新聞ソウル駐在客員論説委員:
韓国の野党や反政府勢力が大々的に伝えている。山口代表の発言は風評被害拡大の最たるもの。

日韓の課題解決は関係改善と同時並行か、安保関連は優先すべきか

新美有加キャスター:
日韓間には、慰安婦合意を反故にされたこと、レーダー照射問題、世界遺産登録への反発など未解決の問題が多い。どう解決すべきか。

松川るい 自民党外交部会長代理 参院外交防衛委員:
関係正常化の中で取り上げていくべき。海上自衛隊トップの酒井海幕長も、対北朝鮮の連携が最優先で、その上でレーダー照射問題再発防止の約束をしたと。棚上げではなく今後続けていくべき話。

真田幸光 愛知淑徳大学教授: 
優先順位はある。国民の生命・財産を守る上で防衛は重視されるべきで、レーダー照射の問題は一番大きい。日韓関係はまだ、粛々と議論を積み重ね信頼関係を戻すまでじっくりやっていくべきステージ。

黒田勝弘 産経新聞ソウル駐在客員論説委員
黒田勝弘 産経新聞ソウル駐在客員論説委員

黒田勝弘 産経新聞ソウル駐在客員論説委員:
レーダー照射問題も再発防止の方向で何とかなると思う。韓国はやはり大統領の意向が重要。尹大統領は、レーダー照射も日本大使館前の慰安婦像も国際的におかしいと思っており、何とかしたい。彼が任期中に解決に踏み切れるよう我々も雰囲気を作ること。

鈴置高文 ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員:
しかし、韓国はよく食い逃げをする。李明博政権も過去のことは言わないと言いながら、スワップをつけた瞬間に竹島に行くわ、天皇陛下を侮辱するわ。特に政権末期には延命のために何でもする。

反町理キャスター:
すると、韓国の総選挙後に手を打つべきか。

松川るい 自民党外交部会長代理 参院外交防衛委員:
ちょっと違う。日本が何かして韓国の選挙結果を大きく左右できるほどの力はない。歴史と領土の問題は一歩も譲ってはいけないが、他のことはダメだとなったときに変えればいいとして進めていくべき。

(BSフジLIVE「プライムニュース」7月4日放送)