20年近く愛されてきた名古屋の「ミニシアター」が、2023年3月から無期限の休館に入った。別のミニシアターは2年半ぶりに営業を再開した。どちらもコロナが大きな影響をもたらしている。名古屋の老舗映画館の代表は「作品以外の魅力が必要」と話す。

座席数105席…舞台装置もそのまま残る元劇場のミニシアター

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名古屋市東区の「名演小劇場」。

座席数は105席で、フランス映画を中心とした洋画や、厳選した邦画などを、約20年にわたり上映してきた。

男性客(70代):
いい映画を取り上げてくれていたから。当たりハズレがない。よく選別されているなという感じはしていました

女性客A(60代):
結構マニアックな演劇やっていたりとか、落語会とかもあったような気がします。やっと最近は(コロナ禍が収まってきて)来れるようになって、うれしかったんですけど…

1972年開業の「名演小劇場」。“劇場”という名の通り、もともとは落語や演劇を上演する芝居小屋だった。

2004年に映画館としてリニューアルオープンした後も、照明機材や舞台装置はそのまま残されている。

支配人の阿部勇司さん(59)は、自ら上映の作業をしてきた。

阿部勇司さん:
こっちが昔の…、昔のって言っちゃいかんけど、フィルムで映すための映写機。しばらく動かしてないので、完璧に動くかどうかは、不明と言えば不明なのね

終わった後の場内点検も、毎回、阿部さんが行っている。

阿部勇司さん:
(支配人が)やる仕事じゃないんだよ。仕事ではないんだけど、少数でやっている以上、どうしてもね。手が空いている人がやるべきことだと

夜の営業終了後には、客席から上映作品の映像をチェックする。

阿部勇司さん:
作品を楽しむために観るのではなくて、お客さんに観てもらうために不具合がないかのチェック。ぶっつけ本番で映しておかしかったら、お金を取れないわけですから。現場が好きなんだよね。ふんぞり返っていてもしょうがないので。現場で働いていると、色んなことが見えてくるし。せっかくすごくいい映画なのに(客が)少ないなとかね

コロナで客が激減…無期限の休館へ

阿部さんがこの現場で働けるのも残りわずかだ。

阿部勇司さん:
コロナで2カ月ぐらい休館していたんだよね。そこから客足が半分どころじゃない、3分の1ぐらいになったかな。もう2年はいけるつもりだったんだけど…。気持ちとしては寂しいよね

コロナ禍で客足が大幅に減少し、そこに電気代の高騰、施設の老朽化などが重なり、3月下旬から無期限の休館することを決めた。

阿部勇司さん:
今は本当に、手軽にスマホで映像が観れちゃう時代だからね。若い人はもう…。映画館って束縛されるところじゃないですか、自由気ままに観るということができない。ただ、映画館で観るメリットっていうのもあって、笑う映画はみんなして笑い、悲しい映画はみんなして泣き、感情の共有みたいなものは映画館ならではなんだけど、今の人はそういうのがないよね

ある日の上映終了後、阿部さんに手紙を渡した女性客がいた。

女性客B:
高校生の時から通わせてもらっていました。映画を人と観る楽しみを教えてくださったのは名演小劇場さんだなって思っていたので…

阿部勇司さん:
ありがとうございます。みんなで読ませていただきます

阿部勇司さん:
すごいですね…。今じゃ携帯メールで済ましちゃう時代ですからね、こうやって手書きでわざわざ書いていただけるなんてね、すごくありがたいですね。みんなに見せてあげたい

休館まで、あと10日。

再開のミニシアターはスタイルを変えながら営業へ

名演小劇場は休館の決断をしたが、“復活”したミニシアターもある。名古屋市千種区の星ヶ丘三越の中にある「三越映画劇場」だ。

43年前の1980年に開業したデパートの中にあるミニシアターで、全国でも珍しい。

名古屋三越星ヶ丘店の長谷川桂子さん:
日常的に利用する方から再開を望む声を頂いていたので、再開に至りました

コロナの影響で2020年10月から休業していたが、2023年3月31日に営業を再開し、初回上映には10人ほどが訪れた。

これからは休業前の“映画のみ”のスタイルからも変わっていく。

長谷川桂子さん:
“星が丘エリア”として楽しんでいただく。映画劇場単体でということではなくて、エリアを活性化させていくというところが目指していきたいところですね

隣接する「星が丘テラス」ともコラボし、子供向けのイベントなどを積極的に開催していく予定だ。

長谷川桂子さん:
そのまま(以前通り)での運営は少し厳しいところがあったので、若い客層、ファミリー層であったりとか、若い年代の方を取り込んでいきたい。そこのフックとして、星が丘テラスの顧客層に当たる若い世代を、一緒に取り込んでいけたらなという思いがあります

老舗ミニシアターは「新スタイル」で客足が回復

作品以外にも「行きたい」と思わせる魅力が作り出せるかどうか。それが“劇場の明暗を分ける”と、長年名古屋のミニシアター文化をけん引してきた老舗映画館の代表は話す。

シネマスコーレ代表の木全純治さん:
ミニシアターも時代とともに変化していかなきゃいけないので、従来の映画をただ鑑賞するだけではなくて、新しいイベント性、そういうものを含めた、新しいスタイルが求められていくんではないかと思います

木全さんが代表を務める名古屋駅の「シネマスコーレ」も、他の劇場と同じく、コロナ禍で客足が減少した。

しかし、コアな映画ファンに向けた新しいイベントやサービスを始め、客足が戻り始めている。

木全純治さん:
今まで舞台挨拶っていうのは初日にあったんですけど、さらにそこから観客と作り手がどうコミュニケーションを取れるかってことを仕掛けていく

監督や俳優を呼んで、トークショーなどのイベントを開催。

また、ファンだけでなく映画作りに興味のある人を対象に制作のノウハウを学ぶ「映画塾」もスタートさせ、手応えを感じている。

木全さんは支配人を40年続けてきたが2023年2月、次の世代に譲った。

木全純治さん:
今までミニシアターは、厳しい環境でずっと来ていますので、コロナでさらに厳しくなったんですけども、ここで一つの代替わりというか、境目に来ている可能性はありますね

“名演の最終日”はいつも通りに

東区の名演小劇場は3月23日、休館前最後の営業を迎えた。

朝から多くの人が詰めかけ、最終上映はほぼ満席に。

多くの客が名残を惜しむように劇場の様子をカメラに収めていた。

阿部さんは、お別れの挨拶などはせず、いつも通りに最後の日を終えた。

阿部勇司さん:
特別なことをやってしまうと、完全にここが無くなってしまうような、ちょっと寂しいことがある感じがするので。完全に閉館にならなければね、何のきっかけでまた始まるかわからないところがあるので。ハリウッド映画みたいなね、あんな作り事ではなく、割と現実に沿った映画が多いじゃないですか、ミニシアターでかかる映画は。知らない世界を見せるっていうのが、ミニシアターの役目ではないかなと思っています

2023年4月3日放送
(東海テレビ)

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