5月、長野・静岡県境の「青崩峠トンネル」が貫通した。峠は国道も通せない難所で、難しい工事が続いた。「酷道」、「点線国道」とも呼ばれた国道152号線。計画浮上40年、2度の挫折を経ての大きな前進に、地域の期待は高まっている。

計画浮上40年「やっと貫通」

大型重機が巨大な壁を掘削。そして、ぽっかりと小さな穴が開いた。

工事関係者:
トンネル貫通バンザーイ、バンザーイ、バンザーイ

喜ぶ工事関係者。飯田市南信濃と浜松市水窪町から掘り進めていた青崩峠トンネルが5月26日、貫通した。

提供:国土交通省飯田国道事務所
提供:国土交通省飯田国道事務所
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全長は4998メートル。

飯田市の中央道と静岡県浜松市の新東名高速を結ぶ三遠南信自動車道の一部となる予定だ。

貫通の瞬間を飯田国道事務所がツイッターで発信したところ反響を呼び、2.5万もの「いいね」がついた。

三遠南信自動車道
三遠南信自動車道

(ツイッターのコメント)
ようやく三遠南信道に光がさしたかー

(ツイッターのコメント)
日本のトンネル技術が敗退したともいわれた場所でついに日本のトンネル技術が勝利したね

国土交通省飯田国道事務所・浅井直実副所長:
やっと貫通までこぎつけた感動というか、一安心ですかね

関係者も感慨ひとしおの貫通。ここまでたどり着くのに40年もの歳月を要した。

貫通した穴(提供:国土交通省飯田国道事務所)
貫通した穴(提供:国土交通省飯田国道事務所)

国道152号線は「酷道」「点線国道」

上田市から浜松市を結ぶ国道152号線。

ルートは、あの武田信玄も上洛に向けて進軍したとされる「秋葉街道」と重なっている。

国道とはいえ、南信濃辺りまで来ると、道幅は急に狭くなり、しかも途中で「未開通」となっている。

取材時は、大雨による崩落で、さらに手前で通行止めになっていた。

途中で未開通となる国道152号
途中で未開通となる国道152号

国道が途中で途切れる原因となったのが標高1082メートルの青崩峠。その名の通り、崩れやすい「難所」の峠で、道路を通すことができなかった。

このため、国道152号線は「酷道」、「点線国道」などと呼ばれることになった。

国土交通省飯田国道事務所・浅井直実副所長:
つながってない「点線国道」と言われたりした時期もあった。何とか152号を通行不能を解消するんだという思いで先輩方も調査とか、工事発注に全力を注いだと思う

1983年、国は峠の下にトンネルを通す計画を事業化する。

青崩峠(標高1082メートル)
青崩峠(標高1082メートル)

2度の挫折…再び建設に挑戦

しかしー。

国土交通省飯田国道事務所・浅井直実副所長:
中央構造線という大きな断層の近くを掘るということで、崩れやすいし、山がちょっとずつ動いている。隆起しながら西の方に押されているような感じ

地盤がもろく列島を走る大断層・中央構造線の影響もあり工事は断念された。

一方、県境の住民は兵越峠を抜ける市道などをう回路として利用してきた。

「峠の国盗り綱引き合戦」が行われる、あの峠だ。

峠の国盗り綱引き合戦
峠の国盗り綱引き合戦

国は、その兵越峠に着目。

1994年、「高規格」の三遠南信自動車道として、まず静岡側で草木トンネルを開通させた。

(リポート 2009年取材):
静岡県側は道路ができていますが、長野県側はまだ一切できていません

続く兵越峠付近にもトンネルを掘る計画だったが、中央構造線の影響で地盤がもろいことがわかり整備を断念した。

2度の挫折があったが、国は技術力向上を受けて再び青崩峠のトンネル建設に挑む。

2度の挫折…再びトンネル建設に挑戦
2度の挫折…再びトンネル建設に挑戦

本坑工事は2019年にスタート。トンネルの土かぶりは最大610メートルで、通常の3倍以上のコンクリートを吹き付け、強度を高めた。

国土交通省飯田国道事務所・浅井直実副所長:
鋼製の支保工(アーチ状の支え)も強度をあげて1.8倍にしたり、ロックボルトも1.6倍本数を増やしたり、そういう工夫をしながら工事を進めていきました

巨大な重機が壁を掘削(提供:国土交通省飯田国道事務所)
巨大な重機が壁を掘削(提供:国土交通省飯田国道事務所)

「長野ー静岡が近くなる」

着工から4年、計画浮上からは40年―。

5月、ついに貫通を迎えた。

トンネルが開通すれば30分以上かかっていた南信濃と浜松市水窪町の往来は6分ほどに短縮。物流や観光、救急搬送などに時短メリットが生まれる。

国土交通省飯田国道事務所・浅井直実副所長:
浜松市の新鮮な魚介類が、飯田の山の方や市内に短い時間で運送できるし、長野県の南の方の果物とかも浜松へお届けできるようになります。人の行き来が生まれれば経済効果もあると思います

青崩峠トンネル入口 長野側
青崩峠トンネル入口 長野側

南信濃の住民は―。

70代:
魔の国道って言って、なかなかつながらなくて、やっとつながった。なるべく人がにぎやかになってほしいね

70代:
ずっと期待していたので大変うれしく思います。山ばかりだから海が恋しい。海のものを食べたいとか、海辺行きたい

麓の旅館では―。

いろりの宿 島畑・山﨑語さん:
こういう商売は、冬場がほとんどお客さんがない。青崩のトンネルが開いてくると冬場も来られるようになる。1日も早い供用開始を期待、1年でも2年でも早く開けてもらいたいな

飯田市南信濃
飯田市南信濃

浜松市水窪町でも―。

40代:
もうずっと何十年も待ってたトンネルだったので、本当に早く通れることを願ってます

60代:
峠を越えてずっとハイエースで下りてくるのってすごい大変なんですよ。三遠南信道路で使える日が来るのが楽しみですね

80代:
よく頑張ってくれて、岩盤悪いとか言ってたけど、うれしいね、私の生きているうちに通れるようにしてもらいたい

浜松市水窪町
浜松市水窪町

秋葉神社も、浜名湖もこれまでより一段と近くなるトンネルの開通。

時期は未定だが、国道事務所も一日も早い開通を目指している。

国土交通省飯田国道事務所・浅井直実副所長:
われわれ現場としては1日でも早く皆さんに使っていただけるように確実に工事を進めていきたいと思ってます

青崩峠トンネル 静岡側
青崩峠トンネル 静岡側
長野放送
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