“ゴーストギア”という言葉を聞いたことがあるだろうか。持ち主がいなくなり海を漂う漁網などの漁具を幽霊に例えた言葉だ。世界の海で年間50万~100万tが流出していると推定されている。海の生物にも影響を及ぼすこうした漁具を再利用しようという取り組みが静岡県東伊豆町で始まった。
生まれ変わった漁網

キンメダイの水揚げが盛んな漁業のまち・東伊豆町稲取。

この日、ダイビングスクールの施設に集まった人たちがテーブルの上の製品を興味深そうに見ていた。

関心を集めていたのは、テーブルに置かれたランドセルやバッグ、衣類。全て漁業で使う網「漁網(ぎょもう)」が材料として使われている。

SPA・RESORT 竜宮の使い・正木 真岐子 さん:
こうやって製品を見ると、網がこれになるんだって、ちょっと感動ですね

稲取マリンスポーツセンター・樋口 純一さん:
ちょっとビックリしました。まさかここまでになっているとは思わなかったので、僕らが見るのはキンメの漁師さんから引き取ってきた針のついたテグスなので、それがこういう製品になるというのは、感動的ですね

マテリアルデザイン 事業部・大内 良洋 部長:
種類でいうと50アイテムくらいはあると思います。思った以上にみんながガヤガヤ喜んでくれたので、うれしいです。
命を脅かすゴーストギア

世界の海に漂う漁具は、年間 約50万~100万トンにのぼると推定されている。

これらの漁具の多くがプラスチック製で、分解されることはない。

持ち主がいなくなり、海を漂うことから“ゴーストギア”ともいわれ、海の生物が網や糸などにからまるケースもあり、大きな問題となっている。

こうした問題を解決しようとダイビングスクールなどを中心に東伊豆町で立ち上がったのが、廃棄された漁網を集め再利用するプロジェクトだ。
漁師も協力「現状のベストでは」

稲取漁港では、漁協の協力で不要になった漁網や漁具を回収する集積場所が設けられた。

伊豆漁協稲取支所 運営委員長・鈴木 精 さん:
ここへためて、たまると取りに来るわけ。これ(廃漁具)を船に揚げてここへ持ってくる事態が、環境を守ってるんだよね。これを少しくらいだからいいやって、パチって切って海に流してしまえば、それが一番公害につながるし。だからこうやって持ってきてくれることが、今の状態ではベストじゃないかな

集積場所には漁船が回収してきた漁具や、釣り客が出した釣り糸などが置かれていた。プロジェクトの成功には、漁師の協力も欠かせない。

この日 鈴木さんは、遊漁船の事業者に廃棄された漁網を使って作られたナイロン袋を見せていた。遊漁船の事業者も「捨てられるものが使えるものになるのはうれしいことだよね」と語っていた。
“まちぐるみ”に輪を広げ

集められた網や糸には「釣り針」や「金具」がついたままだ。網をリサイクルするためには、こうした金属を取り除かなければならない。

プロジェクトにかかわるリサイクル会社の社員やボランティアの大学生たちがダイビングスクールの施設に集まっていた。約200kgの漁網から大量の釣り針などを取り除く作業をするためだた。

稲取マリンスポーツセンター・樋口 純一さん:
とてもありがたいですね。伊豆の稲取を知ってもらうきっかけにもなりますし、環境にも良いということなので、ちょっと期待してます。漁協さんがこの網を出してもらわないことには活動は始まらないので、少しでも輪を広げてもらえたらいいかなと思っています

分別された漁網は、リサイクル業者で細かく粉砕しナイロン素材として再生させ、その素材を使って新しい製品が作られている。

稲取マリンスポーツセンター・樋口 純一さん:
良いモデルケースになっていけると良いかなと思っています。何より、地元の海と地元の人たちに何か貢献できないかなっていうのがあるので、今後協力を仰げたらなと思ってます

地元の海を守るための漁網のリサイクル。稲取だけにととまらず、他の地域にも広がっていくことが期待されています。
(テレビ静岡)