長野市信州新町の唯一のタクシー会社「ひじり観光タクシー」。山あいの暮らしを支え、地域住民の「足」として半世紀以上になる。利用客の多くはお年寄りでドライバーが買い物の手伝いもしている。また、「旅行業」にも力を入れはじめ、女性社員の2人が奮闘している。
地元出身で唯一の女性ドライバー
長野市信州新町の「ひじり観光タクシー」。
(朝礼)
きょうも1日、安全運転でまいりましょう
ドライバーは5人。皆、業務歴20年以上のべテランだ。
ひじり観光タクシー・宮本悦子さん(72):
終わりました?今、行くね

朝8時半、早速、1件目の配車依頼。
近くのスーパーで買い物を終えた98歳になる松本きく子さんを自宅まで送る。
ひじり観光タクシー・宮本悦子さん:
晴れてよかったね、買い物に来るに
ハンドルを握るのは、地元出身で唯一の女性ドライバー・宮本悦子さん(72)。

到着すると、荷物を家の中まで運ぶのを手伝った。
ひじり観光タクシー・宮本悦子さん:
また電話ください、気をつけてやって。ありがとうございました
松本きく子さん(98):
しょっちゅう、お買い物するときに使ってます。これ(タクシー)がないと、どなたかに迷惑をかけてしまうから

利用客の多くはお年寄り
過疎化と高齢化が進む西山地域。利用客の多くが免許がなかったり、返納したりしたお年寄りだ。
小林とよ子さん(92):
92歳になったんだよ
記者:
92歳ですか、お元気で
小林とよ子さん(92):
頭がもうパーになっちゃって
ひじり観光タクシー・宮本悦子さん:
パーになってないよ!大丈夫大丈夫!

2件目の依頼もお年寄り。
92歳の小林とよ子さんは、通院と買い物で週に1回はタクシーを利用する。
小林とよ子さん(92):
かばんは?
ひじり観光タクシー・宮本悦子さん:
かばんは、そこに置いたよ
足が弱くなり1人で歩くのもままならないため、宮本さんが手助けする。

ドライバーが買い物にも付き添う
買い物にも付き添う―。
ひじり観光タクシー・宮本悦子さん:
杖もっていくから、これ押して
小林とよ子さん(92):
ありがとう、えっちゃん
お年寄りの暮らしを支えるタクシー。
宮本さんはドライバー以上の存在となっている。

小林とよ子さん(92):
タクシーが近場だから、本当にうれしい。えっちゃんは心の優しい人。「おばちゃんどうだ、何か買い物あるか?(食べ物)なければ、私が行くよ」と電話よこしてね、えっちゃんが心配事してくれる
ひじり観光タクシー・宮本悦子さん:
若い人がみんな出ているから、一人暮らしとかしているので、ちょっとでも支えになって、ちょっとしたことだけどね、やりがいがあります
デマンド交通、スクールタクシーも
住民の「足」となる業務は他にも。
路線バスがなくなってから市が事業化した、予約運行のデマンド交通「しんまち号」の運行も2022年から請け負っている。
さらに、信更地区、七二会地区の小中学校の「スクールタクシー」も運行し、子どもたちの通学も支えている。

旅行業進出 事務職の女性が猛勉強
ひじり観光タクシーの創業は1969(昭和44)年。半世紀以上にわたって地域を支えてきたが、人口減少とともに利用客が減少。
主軸のタクシー事業は厳しさを増している。
そこで次の一手、旅行業に進出することに。

ひじり観光タクシー 旅行事業部・黒岩説子さん:
世の中も様変わりして、人口も減って、タクシーに乗ってくれるお客も減少する。その時点で新しい事業にチャレンジして、私が試験を受けることになり
経理などを担当する事務職員として2018年に採用された黒岩説子さん(55)。
全国各地の観光資源やツアーの組み方などを猛勉強し、2年がかりで「国内旅行業務取扱管理者」の資格を取得し、2022年、「旅行事業部」の担当者になった。

6月2日―。
ひじり観光タクシー・宮本悦子さん:
おはようございます。よろしくお願いします
雨の中、次々に観光バスに乗り込む人たち。
旅行事業部が始めたツアー、その名も「ひじり希望の旅」。
この日は富山への日帰り旅行。

バスは外注だが、黒岩さんが企画し、顔の広い宮本さんが営業。2人も旅行に付き添う。
ひじり観光タクシー・宮本悦子さん:
知ってる人が多いもので、話すとみんな喜んで行ってくれる。和気あいあいと、いつも楽しくやってきます
ツアー参加者:
おいしいお魚を食べたいと希望してたんです。楽しみにしてます
この日の参加者は信州新町、信更町、鬼無里の25人。
氷見の市場や「梅かまミュージアム」などをめぐり、富山を満喫した。

2人の女性社員「地元の魅力発信を」
タクシー運転手・宮本悦子さん:
さあ、仕事
旅行業に活路を見出したい2人。
今、あたためているのはー。
旅行事業部・黒岩説子さん:
山あいの会社ですし、タクシーでしか通れない道を通って、絶景やおいしいものを食べたり
タクシーでめぐる「西山の旅」。
地域を知りつくす宮本さんが案内しながら、黒岩さんがツアーの構想を練る。

長野市七二会の「大平風穴」。100年ほど前、蚕の卵を保存するのに使われていた。
旅行事業部・黒岩説子さん:
季節ごとに、このスポットがいいんじゃないかというところへ連れていってもらいます
タクシー運転手・宮本悦子さん:
私が運転してその場所へ案内して、いいところ探そうってやっています
旅行事業部・黒岩説子さん:
せっかくだからいい写真を撮って、皆さんに知ってもらいたいから

これまでも数回ツアーを企画したが、参加者が集まらず実施できたのは1回だけ。
そこで黒岩さんは、まず西山の魅力を広めようと、四季折々の風景や見所の写真をSNSで発信している。
長野市中条地区の臥雲院。市の天然記念物に指定されている「臥雲の三本杉」を撮影した。
山あいのタクシー会社を支える2人。西山の旅を軌道に乗せることが当面の目標だ。

旅行事業部・黒岩説子さん:
いつかこの地域の「ひじりしか考えられない」という旅行も活気づいて、お客さん来ていただけるようになるかもしれないという夢を持ち続けて、その傍らにいつもえっちゃんがいてくれて、本当にかけがえのない人なんです
タクシー運転手・宮本悦子さん:
少しでも協力して、あちこち私も探して「せっちゃん、ここいいよ」と連れて歩いて、せっちゃんはいろいろ計画して、私は人集めして、一緒に頑張っていこうと思います
(長野放送)