島根県西部を襲った「昭和58年7月豪雨(58豪雨)」。2023年7月で、死者・行方不明者107人を出した未曽有の災害から40年の節目を迎える。極端な気象現象による災害が相次ぐなか、当時の被害を知る人たちは、その教訓を忘れることなく、豪雨に備えている。

全壊・半壊延べ約3000棟

1983年7月20日から23日にかけて、浜田市・益田市などの島根県西部は、梅雨末期の集中豪雨に見舞われた。

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浜田市では7月23日に1時間に91ミリ、1日の総降水量が331.5ミリに達するなど記録的な大雨となり、がけ崩れ、土石流などの土砂災害、河川の氾濫がいたるところで発生した。

死者・行方不明者はあわせて107人、住宅の全壊・半壊は延べ約3000棟、被害額は4020億円にのぼり、島根県では未曾有の大災害となった。

三隅町で避難訓練 教訓伝える

浜田市三隅町の中心部は「58豪雨」で大きな被害があった地域だ。6月4日、この三隅町で、大雨災害を想定した防災訓練が行われた。訓練には、この地区で約330人が参加した。

「住民の皆さんは避難の準備を始めてください」という防災無線の声に従い、住民は、それぞれ自宅から避難所に指定されている市役所の支所や近くの公園へ足早に向かった。

訓練に参加した住民からは「安全にみんな避難できて良かったと思います」「こういう訓練に参加して、一緒に助け合って逃げられたらいいなと思う」といった声が聞かれた。

「昭和58年豪雨から40年の節目の年になりました」

集まった住民に語りかけたのは、訓練の責任者、今田正道さん(69)。三隅自治振興会の会長を務める地域のまとめ役だ。

訓練に臨みながら、今田さんは、40年前に目の前で起きたあの大災害を思い起こしていた。

三隅川が氾濫し、町の中心部は濁流にのまれた。多くの住宅は2階部分まで浸水した。

現在の浜田市役所三隅支所の屋上から撮影した三隅の街並みに、同じ場所から撮影された40年前の豪雨のときの様子を重ねると、周辺一帯が冠水しているのがわかる。

新築直後に被災 刻まれた爪痕

今田さんの家は、当時の町役場である現在の市役所三隅支所近くにある。

三隅自治振興会・今田正道会長:
この家は昭和58年の7月20日に引き渡ししてもらいました。24日に引っ越しのため作業の依頼をしていたんですが、残念なことに、その前日の23日未明に水害に遭ってしまった

当時、自宅は新築直後。7月24日に入居する予定で、引っ越し準備をしていたが、その前日の23日、豪雨が襲った。入居目前だった新居も2階近くまで浸水した。しばらくは1階が使えず、2階だけでの生活を余儀なくされた。

三隅自治振興会・今田正道会長:
ここに線が残っていて。これが当時の水位。ずっとここにある。だいたい2メートルくらい。

40年が経った今も、壁には爪痕が残されていた。

被災しながら対応に追われた元役場職員

元三隅町職員・田中秀雄さん:
(58豪雨では)役場職員が救急搬送したり、救急車に乗って病院まで送ったりするような仕事も兼ねていた

こう振り返るのは、当時三隅町職員だった田中秀雄さん。田中さんは、自宅も床上浸水の被害を受けながら、役場の通常業務に加え、被災者の救命、救助の対応にも借り出されたという。もちろん、被災した自宅の復旧は後回しだ。

治水工事はされたが万全ではない

この未曾有の災害を受けて、島根県は、氾濫した三隅川の拡幅など改修を進めつつ、1990年、上流に御部ダムを建設。治水事業を進め、豪雨災害への備えを強化した。

島根県浜田県土整備事務所・安部和夫さん:
ダムには流れる水量をカットする役割があるが、ダムがあるから大丈夫だというわけではない

集中豪雨などでダムの貯水量が限界に近づくと、「緊急放流」を行う必要があるため、ダムがあれば「万全」というわけではない。

実際に2018年の西日本豪雨では、ダムの緊急放流のあと、下流で河川が氾濫、広い範囲で浸水の被害が出た。

「住民同士の助け合いが大事」

ハード面での対策が進んだ一方で、三隅自治振興会の今田さんは、今、災害への備えとして、住民同士が助け合う「共助」が重要だと考えている。

三隅自治振興会・今田正道会長:
いざ何かあった時に、この庁舎に登庁できる職員が何人いるんだろうという不安がある

「平成の大合併」で、旧三隅町は浜田市の一部になり、町役場も市役所の支所に変わった。

業務の縮小にともなって、支所の職員数は約30人と、40年前、町役場時代の3分の1の規模になった。災害が発生しても、当時のようには行政による支援が得られないのではないかと心配する。

三隅自治振興会・今田正道会長:
昔はもっともっと隣近所のつながりが深かった気がする。いわゆる「共助」という、隣近所が連絡を取り合える体制づくりを大事にしていきたい。無理やりにでも、避難訓練をして、いろんな訓練の中で、人と人との絆をつかんでいきたい

人口減少、そして高齢化が進むなか、「近所」のつながりを保ち、住民同士が助け合う「共助」の仕組みをつくっていくことが、防災面で重要だと今田さんは強調する。

未曾有の大災害から40年。「経験したことがない」はずの極端な気象現象が相次ぐなか、過去の教訓から改めて学ぶことが、頻発する災害への大きな備えになる。

(TSKさんいん中央テレビ)

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