長野市にこのほど「バリアフリーなおやき店」がオープンした。いわゆる「ユニバーサルデザイン」を目指した店で子どもからお年寄り、体が不自由な人まで気軽に訪れ、家のようにくつろげる場所だ。障害と向き合ってきた女性の思いが形になった。

店にはキッズスペース

薄い皮に包まれた具だくさんのおやき。定番の野沢菜に、ナス、旬のタケノコも。

2023年4月にオープンした長野市三輪の「おやきや千代子」。長野市鶴賀にある店の2号店だ。

毎朝4時から作られるおやきは、2つの店で1日におよそ400個も売れる。

「おやきや千代子」のおやき(タケノコ200円)
「おやきや千代子」のおやき(タケノコ200円)
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店には、じゅうたんの上でおやきが食べられる「キッズスペース」と、ソファに腰かけて食べられる「イートインスペース」がある。

利用客:
一緒に来た友達がよく利用するということだったので。キッズスペースもあるので行かない?と言われて(子どもを)連れてきたのですが、寝ていて。寝たまま入れさせてもらってます

キッズスペース
キッズスペース

家のようにくつろげる場所に

三輪店の店長・小湊瑞希さん(27)。

夫と義理の父親が営む鶴賀の「本店」とは、違った方向性の店を出したいと思っていた。

おやきや千代子 三輪店・小湊瑞希さん:
七瀬の店舗ではテイクアウトのみの販売をしていまして、お客さまとのコミュニケーションを取りづらいという状況にありまして。地域のおじいちゃん、おばあちゃんともできれば少しでもお話ししたいなという気持ちもあって、カフェスペースを少し設けて、第2の家みたいな形で

三輪店の店長・小湊瑞希さん(27)
三輪店の店長・小湊瑞希さん(27)

「ユニバーサルデザイン」を目指した店

車いすで訪れたのは、近くに住む丸山勤さん(75)。週に2日は通う「常連さん」だ。

全盲で60代の頃から平衡感覚も弱くなり、車いすを利用している。

常連客・丸山勤さん:
なんでもいいよ、4つ

おやきや千代子 三輪店・小湊瑞希さん:
季節商品がセリと葉ネギ、タケノコがあるんですけど

常連客・丸山勤さん:
いいじゃん、セリ。お願いしたい

おやきや千代子 三輪店・小湊瑞希さん:
車いすのポケットに、入れさせていただきます

常連客・丸山勤さん
常連客・丸山勤さん

入り口や店内はベビーカーや車いすが通りやすいように幅を広くしてある。

また、車いすの人でも手に取りやすいように、棚の高さは70センチと低くしている。小湊さんが実際に車いすに座って調整したという。

丸山さんは、小湊さんとの会話も楽しみにしている。

常連客・丸山勤さん:
私にとってここ、拠点なんですよ、地域の。自分で困っていることを話したりして、親しくしてもらって。私が住んでいる近辺ないんですよ、こういうお店が。ここができたので本当、助かってます

店内
店内

配慮は他にも。

レジには耳が不自由な人向けに支払方法などを示す「コミュニケーションボード」を用意。希望する項目にマグネットを置いてもらい、筆談でやり取りできるようにしている。

目の不自由な人には点字付きメニューや、スマホでQRコードをかざすと音声での案内もできるようにしてある。

いわゆる「ユニバーサルデザイン」を目指した店。

「ユニバーサルデザイン」を目指した店
「ユニバーサルデザイン」を目指した店

家族の存在

小湊さんがこだわった背景には「家族の存在」があった。

おやきや千代子 三輪店・小湊瑞希さん:
私の兄が知的障害がありまして。それと息子が発達障害と2歳の時に診断を受けまして、幼い頃から障害とかに関してずっと興味があって、知っていこうという努力を日々してきました。聴覚障害の方、視覚障害の方、発達障害の方、車いすユーザーの方が、利用しやすいような店をつくりたい

長男・はるとちゃん5歳。2歳の時、発達障害と診断され、保育園と療育施設に通っている。

おやきや千代子 三輪店・小湊瑞希さん:
2、3歳までは、結構「多動」で、外に遊びに行くにもバーと走り出しちゃうことも多くあって。そんな中、ヘルプマークをつけてもらって、周りの人にもちょっと気にかけてもらえたらなという気持ちもあって。いろんな飲食店でこういった合理的配慮を少しずつでも広げていきたいですね

小湊瑞希さんと長男・はるとちゃん5歳
小湊瑞希さんと長男・はるとちゃん5歳

「フードリボン活動」に参加

小湊さんは子どもの居場所づくりにも目を向け、全国で展開されている「フードリボン活動」に参加している。

これは子ども食堂のように食事を支援する活動。市民に300円でリボンを購入してもらい、店に掲示しておくと―。

中学生:
こんにちはー

おやきや千代子 三輪店・小湊瑞希さん:
こんにちは、リボンですね。用意しますので、おやきを2つ選んで

店に訪れた子どもが、そのリボンと交換で食事ができるという取り組みだ。

「フードリボン活動」に参加
「フードリボン活動」に参加

中学生:
(このお店好き?)はい、大好きです。店長が好きです、優しくて。お店の雰囲気が落ち着く。おうちに帰ったような感じがして、すごく安心感を持てる

おやきや千代子 三輪店・小湊瑞希さん:
6月1日からスタートしたんですけども、毎日のように利用するお子さんがいて、きょうもお腹いっぱい食べさせてくれてありがとうという感じで、喜んでくれているので良かったなと思っています

やさしさに包まれた店

誰でも気軽に訪れ、家のようにくつろげる場所。

店は小湊さんが「家族」に向けてきた、やさしさに包まれている。

おやきや千代子 三輪店
おやきや千代子 三輪店

おやきや千代子 三輪店・小湊瑞希さん:
私も障害に関していろいろ得てきた情報、知識もありますので、何か困ったときに子育てのこともそうですけど、何か少しでもいい方向に行けばいいなという思いで、一人一人とお話ししながらやっていけたらと思っていますね

(長野放送)

長野放送
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