インドネシアを訪問中の天皇皇后両陛下はきょう、日本への留学を目指す大学生と交流されました。
学生達の流ちょうな日本語に、陛下が返された思いがけないユーモアとは。
「ひげを整えます」交流を待ちわびる学生
きょう午後、両陛下は首都・ジャカルタにある日本で学んだ元留学生たちが設立した大学を訪問されました。
この記事の画像(14枚)本番2日前、大学を訪れると、学生たちが両陛下との会話にそなえて練習を重ねていました。
大学3年女子生徒・アメリアさん(21):
人生に一度しかないイベントとのことなので、私ももちろんですけど学生10人、胸を張って最高の思い出になれると思います。
大学4年男子生徒・アルルさん(23):
1週間前から、月曜日から、どうしたらこう、より堂々と、流ちょうに自己紹介できるようになるかをずっと練習しました。例えば、もっと大きな声でとか、忘れるときに、「えー」とか「まー」とか言わないとか。そういう感じで。あとは、ひげとか。
ーーひげとか?
大学4年男子生徒・アルルさん(23):
はい(笑)。ひげは、あとで処理します。これを糧に誇りに満ちた人生にしたい。「インドネシアはどんな国ですか?」とか、あとは「インドネシアの強みはどこですか?」と陛下に聞きたいと思っております。
インドネシアは日本語学習者数が世界2位
インドネシアでは、日本語を学ぶ学生の数が中国に次ぎ、世界で2番目に多く、この大学では、日本語教育のプログラムを充実させ、日本への留学に力を入れています。
1991年に、即位後初めての外国訪問としてインドネシアを訪れた上皇ご夫妻もここを訪問されました。
当時大学生で、今は副学長となったファニーさん(55)は同窓会のたびに、ご夫妻の訪問の話で同級生と盛り上がる、と当時を振り返ります。
ファニーさん(55):
私たち学生の心の中には、あの時の経験が常に残っています。もし天皇陛下に何か言う機会があれば、お礼を申し上げたいと思います。
そして当日のきょう、ファニーさんは副学長として2代の天皇陛下との対面が叶いました。
「テーマが面白いですね」『水くさい』という言葉の語源
一方、ひげをそり、身だしなみを整えたアルルさんも緊張した面持ちで陛下との懇談に臨みました。
練習の成果は発揮されるのでしょうか。
大学4年男子生徒・アルルさん(23):
お会いできるのを楽しみにしておりました。今4年生ですので卒業論文を書いております。テーマは慣用句についてです。例えば、『水くさい』という言葉は、私たち外国人からすると『水が臭い』と感じます。
陛下:
面白いですね。
大学4年男子生徒・アルルさん(23):
語源は水分が多いと味が薄くなるので、愛情が薄くなりよそよそしいことを意味します。日本語は奥深いと感じます。
陛下:
テーマが面白いですね。私たちが当たり前のように使っている言葉も、突き詰めてみると不思議なものですね。
皇后さま:
卒業論文頑張ってください。
練習の成果が発揮され、「あー」「まぁー」などの間詞の無い、よどみない日本語を披露したアルルさん。
『水くさい』の下りでは、両陛下が声を上げて笑われる場面もありました。
面会後、アルルさんは「予告通りひげをそりました」と笑顔を見せ、「両陛下は『これからも日本語の深さをより一層学んでください』とおっしゃっていました」
「一生に一度か、ないかのチャンスなので、両陛下とお話しすることができて、私にとっても貴重な経験をさせて頂きました」とうれしそうに振り返っていました。
「『人間失格』は難しいですよね」
「最高の思い出にする」と意気込んでいたアメリアさんも、会話が弾みました。
陛下:
日本にはどういうことで興味を持ったんですか?
大学3年女子生徒・アメリアさん(21):
日本の文学がとても好きで、英語にもインドネシア語にもない表現があり、それを学ぶたびに勉強がはかどって、とても楽しいです。
陛下:
特にどういう作家が好きですか?
大学3年女子生徒・アメリアさん(21):
太宰治の『人間失格』を英語版、日本語版を読みました。初めて読んで、主人公の経験を通して、ああこれは人の人生だな、と実感させられ感動しました。いろんな人と会って経験していろんな友達を作ることが人生において大切だと思いました。
皇后さま:
今何年生ですか?
大学3年女子生徒・アメリアさん(21):
私は3年生です。
陛下:
『人間失格』ね、なかなか難しいですよね。
「私は『ナルヒト』です」
また、カメラの撮影後には、日本の人気アニメ「NARUTO=ナルト」が好きだと話す学生に、陛下が「私は『徳仁(ナルヒト)』です」とすかさず応じられる場面も。
思いがけないユーモアに皇后さまも学生も笑いに包まれ、陛下はあわてて「いや、関係は…無いんです」と笑顔で説明されました。
日本への留学を目指す、愛子さまと同世代の若者の思いに耳を傾けられた両陛下。
行事が続いた皇后さまの体調に配慮し、陛下単身での訪問が検討されていましたが、急きょ皇后さまも同行し、お二人揃って和やかに会話を弾ませられました。
若い世代が両国の交流の架け橋となり、友好親善の絆が未来につながることを願われていました。