場所を選ばずに声でコンテンツを楽しむことができる「Amazonオーディブル」で、村上春樹さんのベストセラー「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」が、向井理(41)さんの朗読でオーディオブック化された。
この記事の画像(7枚)朗読は「答えを出しすぎないよう」「耳元でささやくように」
普段から、ナレーションなど声の仕事が多い向井さん。朗読コンテンツに参加した感想について聞くと…。
向井理:
難しかったですね。割とナレーションとかだと、盛り上げるところであったりとか、ゆっくり聞かせるところであったりとか、いろいろ抑揚をすごくつけてやるんですけど、朗読でそれをやり過ぎると答えを出しすぎているような気がして。聞いている人の想像力に委ねることが一番大事だと思っていたので、映像に頼れないっていう制限がされているので、そこはすごく挑戦した部分ではありますね。
鈴木唯アナウンサー:
抑揚をつけすぎてもやり過ぎになってしまうし。でもつけなさすぎても、それはそれでということで…。
向井理:
つけちゃうと僕の主観になっちゃうんですよね。だから、僕の思ってる抑揚のつけ方と、聞いてくださる方のストーリーというか、抑揚って違うと思うんです。読んでいる人もいろんな映像を想像すると思うんですけど、僕の正解イコール聞いている人の正解ではないので、それをあんまり答えを出しすぎないというのが難しいんですよね。もちろん棒読みにもなっちゃダメですし、セリフとしては生々しくお芝居のつもりであるんですけど、情景とかに関しては抑揚をあんまりつけない方がいいのかなと思ったりとか。
鈴木唯アナウンサー:
正解にたどり着くまで、すごく大変そうですね。
向井理:
結局、何が正解かいまだに僕もわかってないんですけど。ただ、さっき言ったように一番意識したのは、聞いてくれる人がどういう風に捉えるか、その幅というか、隙間をちゃんと残すということですかね。余白というか。全部こうですよって言うのではなく、これはどういうことなんだろう、って思わせる間があった方がいいのかなというのは意識してました。
鈴木唯アナウンサー:
声の出し方っていうのは、ナレーションの時だったり、普段演技、お芝居の仕事してる時とは出し方も変わってくるんですか?
向井理:
舞台と映像はやっぱり全然喉が違うと思いますけど、今回は朗読なので、耳元でささやいているようなイメージですかね。
エロティシズムには「照れが出る」表現の難しさを語る場面も
鈴木唯アナウンサー:
村上春樹さんの作品にはどんな印象を持っていますか?
向井理:
そんなに個人的にたくさん読んできたわけじゃないんですけど、よくこんな表現が出てきて、しかもすごく想像できるっていう。だけどわかりやすくなくて、ちょっと回りくどいような表現もあったり。でも、それがいちいちおしゃれで。本当にセンスというか、物書きの中でも全然違うジャンルを確立されている方なんだなって、今回改めてちゃんとじっくり読んでみて感じましたね。
向井理:
あとはエロティシズムも欠かせないところだと思います。ちょっと恥ずかしいですけどなるべくそういう感情は出さないで、出しちゃうと変なことになるので。ちょっと照れが出ますけどね、全編通して読むと。今回も結構あったので、なかなか生々しいですし、難しいですね。
鈴木唯アナウンサー:
でも何か、大人としてそこの部分をかっこよく見せて演じたいな、みたいな思いにはなりますか?恥ずかしい方が勝ちますか?
向井理:
もちろん、それは出さないようにはしてなるべく淡々と読むようにしてます。あんまり、そこで熱っぽくやっちゃうと違う作品になるので。そういう意味で朗読ってわりと濃淡をつけすぎない方がいいのかなと思った要所の要素でもあるんです。性描写だけじゃなくて、ほかの感情的な部分も含めて、「風が吹いている」とかも、その読み方一つでどれぐらいの風なのか方向性が決まっちゃうので、それを付けないように、聞いた人がどれぐらいの風かを想像するようにということを意識したので。だから、エロティシズムも村上作品の特徴だとは思いますけど、なるべくそういう照れが出ないようにするってのは難しいですね。
最近のブームは「妄想を爆発させるようなもの」
鈴木唯アナウンサー:
ちなみに、向井さんは普段はどんな本を読まれるんですか?
向井理:
本でも小説がわりと好きで、すごくリアリティのあるものだったり、SFっぽいものも読みます。森見 登美彦さんという小説家の方の作品が好きで、ほぼほぼ読んでますけど、映像化できないような。「有頂天家族」っていう小説だとタヌキが主人公なのでタヌキが主人公の小説ってなかなかないですし、本当に天狗が出てきたりとか、想像力を刺激する作品が僕はステキな作品だなと思うことが多いです。自分の頭の中だけでいろんな情景が浮かんだり、ただ空を飛ぶって書かれていても、どういう飛び方をしているんだろうっていう、その肉付けが面白かったりとか。原作があって実写化する作品はたくさんありますけど、あえて実写化できないようなものを読むのが好きかもしれないですね。
鈴木唯アナウンサー:
ちょっと日常ではあり得ないようなこと。
向井理:
そうですね。でも、リアリティのある物ももちろん好きですし、サスペンス的なものだったりとか、本当にいろんなジャンルを読みます。最近はそういう、ちょっと飛んでいるような感じのものが好きかもしれないですね。
鈴木唯アナウンサー:
最近のブームなんですか?そういったことは。
向井理:
そうですね。若い頃は東野圭吾さんみたいな、もっとサスペンスとかリアリティがある感じのものをたくさん読んでましたけど、最近はちょっと妄想を爆発させるようなものが多いかもしれないです。
鈴木唯アナウンサー:
何かきっかけとかあったんですか?
向井理:
特にないんですけど、やっぱり森見さんの作品に出会ったのが結構大きかったかもしれないですね。
本を買うため“自宅で散髪”
子どもの頃から本を読むことが好きだったという向井さん。
本を買ってもらうため、家族と決めたルールを教えてくれた。
鈴木唯アナウンサー:
本は結構、普段からたくさん読まれる?
向井理:
うちの母は、髪の毛を家で切ったら漫画以外の本を1冊買ってくれるというルールがあって。
向井理:
要は節約ですよね。2000~3000円かかるところよりは、500~600円の本をっていう。それでいろんな本を買ってもらってましたね。読む癖は昔からあったみたいで、読むのは好きでしたね。
鈴木唯アナウンサー:
漫画はダメなんですね。
向井理:
漫画は自分のお金で買いなさいと。漫画ももちろん読んでましたし、読まれます?本って。
鈴木唯アナウンサー:
あんまり。漫画ばっかり…。
向井理:
漫画も日本のすごく重要なコンテンツですしね。もしかしたら漫画も、こういうオーディブルで読む日が来るかもしれないですし。
向井理が自宅で作るのは…まさかの「みそ」?
朗読コンテンツは“おうち時間”の増加で利用が増えているという。そこで、向井さんに最近のおうち時間の過ごし方を聞いてみると、意外な答えが…。
鈴木唯アナウンサー:
最近ハマっているおうち時間の過ごし方ってありますか?
向井理:
家で飲んでますね(笑)。それこそコロナで全くピタっと止まった時期があって、それで、家で何かを作ることは増えましたね。みそとか、めんつゆとか。
鈴木唯アナウンサー:
えっ?みそとかって、発酵させないといけない…?
向井理:
半年くらいですかね。今、寝かせてます。冷蔵庫には去年作ったやつがあるので。
鈴木唯アナウンサー:
めんつゆも作れるっていうの、びっくり。
向井理:
めんつゆ簡単ですよ。
鈴木唯アナウンサー:
めんつゆって、売られためんつゆしか脳になかったです。
向井理:
まあ…この話は…やめましょう。全然違う方向にいま行ってるなって思って(笑)
鈴木唯アナウンサー:
すみません。興味がすごい方向に行っちゃって(笑)
時計の音が聞こえたら…「スイッチをオフにする瞬間」
鈴木唯アナウンサー:
最後に、声・音ということで、日々の生活の中でつい聞いてしまうような音って何かありますか?
向井理:
なんだろう。時計のあの“カッ、カッ”っていう音が何か好きで、普段は聞こえないんですよ。当然、生活していると喋っていたりとか、何か料理してたりだとか、いろんな生活音があるので聞こえないんですけど、ふとこう、みんなが寝静まって、1人で晩酌している時に、テレビも見ず携帯も見ず。その瞬間に急に“カッ、カッ”って音が聞こえてきて、何か大人になったなと思うというか。そういう時間ってやっぱり一回立ち止まる時間だと思うんですけど、日々生活している中で、なかなかピタッって何も考えずに立ち止まる時間ってそんなに多くないのかなって思っていて、そういう瞬間にその日のことだったり、今までのことを何かこう急に思い出して。あ、もう41になったのかとか、いろんなことを考えて、ちょっとこう感傷に浸る瞬間が、その時計の音がきっかけな気がします。
鈴木唯アナウンサー:
何か格好いいです。それこそ村上春樹さんの作品の中に出てきそうな一幕です。
向井理:
ほんと、それこそ控え室にさっき時計があって、“カッ、カッ”って音が聞こえてたりとかして、そこら中にあるものなんですね。でも、なかなかいちいちその音に気をつけることってなくて。でも時間は気にして動いてるじゃないですか。何か意外と身近にあるものって見落としがちだなと思ったりとかして。だから自分の中では、その瞬間に急にこう、ザワザワする。
鈴木唯アナウンサー:
ザワザワなんですか?
向井理:
そうです。なんか、いろいろ思い出して「ああこんなことあったな」とか「ここまで来たか」とか、いろんなこと感じる瞬間にはなってますかね。リセットしたり、ずっと仕事モードではなくどこかで切り替える瞬間だったり、「ああ、今日も1日が終わったな」と思える瞬間だったりするので、それが、ある意味スイッチをオフする瞬間になっているのかなと思いますね。
鈴木唯アナウンサー:
私もいつか、時計の針の音が聞こえる大人になりたいです。
【動画で見る】
(「めざましテレビ」6月20日放送分より)