26年前に起きた神戸連続児童殺傷事件の記録が廃棄されていた問題。最高裁は2日、事件で次男を亡くした土師守さんに対し直接、調査結果を説明し、土師さんが会見を開いた。

「事件記録は、遺族にとっては事件で亡くなった子供の生きた証」

土師守さん:
(事件記録は)被害者・被害者遺族にとっては事件で亡くなった子供の生きた証のひとつであるとも言える。これが歴史的な資料であるという考え方が完全に欠けていたと思います

神戸連続児童殺傷事件の事件記録を神戸家庭裁判所が全て廃棄していた問題。最高裁の職員が2日、神戸家裁を訪れ、事件で次男の淳君(当時11歳)を失った土師守さんに直接説明を行った。

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1997年に起きた神戸連続児童殺傷事件。小学生5人が襲われ、うち2人が殺害された事件で逮捕されたのは当時14歳の少年A。 

当時の法律では少年Aの処分を決める少年審判は完全に非公開。土師さんには少年Aや事件に関する詳しい情報を知る方法がなかった。

土師守さん:
審判が開始されると、私たち被害者遺族は完全に蚊帳の外に置かれることになりました。当然知ることができると思っていたことさえ知ることができませんでした

「いつか事件の情報を知りたい」その希望が絶たれる…

いつか事件の詳細な情報を知りたい…、土師さんはそう願い続けてきたが、2022年10月、その希望が断たれることが起きた。神戸家庭裁判所が事件の記録を全て廃棄していたことが判明した。

土師守さん:
こういう貴重な資料を廃棄する管理の悪さ・ひどさに呆れている。憤りを感じる

最高裁は規定で、社会で注目された少年事件などの記録は「特別保存」として事実上、永久保存するよう定めていた。しかし、全国で少なくとも52件の事件記録が廃棄されていたことが明らかに。なぜ記録は廃棄されてしまったのか。

記録廃棄の原因は保存に対する“消極的な姿勢” 

5月、最高裁はその調査結果を発表。原因については「特別保存の記録の膨大化の防止に取り組むべきとの強いメッセージを発したことで、原則廃棄すべきとの認識や、特別保存に対する消極的な姿勢が強まった」などとして、「最高裁の対応は誠に不適切だった」と謝罪した。また、土師さんの事件の記録が廃棄された経緯についても言及した。

最高裁判所・小野寺真也総務局長:
(神戸家庭裁判所の)所長は、廃棄の前提として自身が特別保存するか否かの検討をしなければならないという立場にあるという認識がなく、明確な判断を示さず他に意見を述べる者もいなかった

神戸家庭裁判所の担当職員は、所長に相談したうえで、保存の前例がなかったことなどを理由に廃棄を決めたということだ。

事件記録は裁判遂行の資料だけではなく「歴史的な資料」

そして2日、最高裁の職員から直接説明を受けた土師さんが会見を開き胸のうちを語った。

土師守さん:
これは“2項特別保存”に付すべき事案であると考えた職員もいながら、なおかつ廃棄されてしまったことに関しては、全く事務的な手続きが決められていないってことと、決定するのが所長であるということを所長自身が知らなかったということで、本当の話、怠慢かなと思っています

土師守さん:
一番大きいのは事件記録に対する考え方、どうしても裁判所の方々は、事件の裁判を遂行するための資料であるという考えが中心、これが歴史的な資料であるという考え方が完全に欠けていた。私自身は“この事件は歴史”だと思っているので、そういう意味での認識の違いは大きい

こう思いを述べたうえで、最高裁の調査については「真摯な報告書だと感じている」とも述べた土師さん。二度と繰り返してはならないこの問題に、最高裁が今後どう対応するのか、厳しい視線が向けられている。

最高裁からの説明を受けた土師さんは次のようにも話している。報告書の説明には納得しているが、今後の実現が重要。そして、事件の記録について歴史的資料としての認識が欠けていた。さらに、今後の記録保存の形としては、デジタル化を要望された上で、淳くんの資料で可能なものに関しては「復元してほしい」と伝えたということだ。

反省や謝罪だけではなくて、再発防止にどうやって取り組んでいくのか、最高裁にとっても、各裁判所にとっても重要になってくる。

この説明を受けて、改めてこの問題に対する最高裁の反省の姿勢や、土師さんの思いなど、どう考えるか、以下、ジャーナリスト・浜田敬子さんのコメントは…

ジャーナリスト 浜田敬子さん:
特別保存のものまで廃棄されていたことが、今回明らかになったわけですけども、裁判記録って99.9パーセントが廃棄されているんですね。それは“スペースの問題”っていうふうに言われてるんです。まさにこのデジタル化の時代であれば、そのデジタル化をしていけば、スペースの問題は解決できるにも関わらず、そういったことをしてこなかったのは、まさに土師さんがおっしゃるように、裁判記録とは誰のものなのか、これはやっぱり歴史的な資料であるというような認識が非常に欠けていると思います。また、刑事事件の場合は冤罪という可能性もあるので、裁判記録を残しておかなければその冤罪の検証もできないということも指摘したいなと思います

関西テレビ 神崎博デスク:
やはり求められているのは(記録の)デジタル化ですよね。ただ、デジタルというのは消失リスクがあります。じゃあどうやってバックアップを取っていくのかということが非常に重要で、サーバーで一元管理しとくと、例えばサーバーがダウンしてしまうとダメになってしまうかもしれないので、例えば“複数の記録媒体”にしておいて、また別の場所に残しておくとか、そういう工夫が必要なのかなというふうに思いますね

土師さんの重い言葉。これを受け止め、最高裁や各裁判所には、再発防止を進めることが求められる。

(関西テレビ「newsランナー」6月2日放送)

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