子どもの医療費は行政が助成していて、市町村で異なるものの、全額補助で自己負担がないところもある。そうした中、鹿児島では、住民税非課税世帯を除き、子どもが病院を受診した場合、自己負担のあるなしに関わらず、いったん窓口で医療費を支払い、数カ月後に市町村から返還されている。

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実は未就学児の全額窓口支払いが続いているのは現在、全国で鹿児島だけだ。他の都道府県では、未就学児が病院を受診した時に窓口での支払いはなく、病院には市町村から医療費が直接支払われることになる。「窓口負担ゼロ」といわれるものだ。
なぜ鹿児島は窓口負担があるのか? 実際に窓口負担がない宮崎県の事例も取材し、子ども医療費のあり方を考える。

“窓口負担ゼロ”を要望…7万人超の署名を提出

4月、鹿児島市の繁華街・天文館で、中学生までの子ども医療費「窓口負担ゼロ」を目指すNPO法人「こどんとの未来」と、県医師会などが署名活動を行った(こどん = 鹿児島の方言で「子ども」)。

団体では、2023年2月から署名活動を開始。そして5月19日、7万人分を超える署名と要望書を鹿児島県の塩田知事に提出した。

このNPO法人の理事長を務めるのが亀澤梨奈さん。小学生の子ども2人を育てるお母さんだ。

NPO法人「こどんとの未来」・亀澤梨奈理事長:
子育て環境をみんなで良くしていく、みんな仲間だという気持ちがあって、今大変だということをみんなに発信していくのが私の役目ではないかと

現役の子育てママも、子ども医療費の窓口負担について何らかの不満を抱えているようだ。

母親たちからは、「今はキャッシュレスだったりするので、(現金を)そんなに持っていないこともある」「(会計の時)いくらかかるんだろうという不安はある」「(いずれお金が返ってくるなら)何のために1回払っているんですかね?」などの声が聞かれた。

病院での支払いなしの宮崎県 医師の心構えに変化も

坪内一樹アナウンサー:
お隣、宮崎県にやってきました。こちらでは窓口負担はゼロです。実際に小児科はどんな様子なのか取材したいと思います

訪れたのは、宮崎市のさとう小児科。

宮崎県では2008年から、未就学児までの医療費の窓口負担がゼロになった。この日、受診に来た永井さん親子に聞いた。

永井誉章(ほたか)くん(1歳8カ月)の母・実乃里さん:
熱は下がったところで湿疹がその後出て、その診断に来ました。窓口でお金を払うことはないです

診察の結果、誉章くんは突発性の発疹と診断された。その後、再び待合室に。保険証などの返却もあり窓口で名前を呼ばれたが、病院でお金を払うことはなかった。

病院のスタッフ:
(患者さんがお金を)払うことはないです。お金(のやりとり)なしですね、会計も早いです

佐藤院長は、窓口負担ゼロによって自身の診察の心構えが変化したと話す。

さとう小児科(宮崎市)佐藤潤一郎院長:
窓口負担があった時は、(保護者の)手出しがいるかなとか考えながら診察していたので、(窓口負担ゼロで)そういうことを考えずに治療に専念できる。経済格差が命の格差になっていいのかということをずっと思っていた

県の担当者が語る 窓口負担がある理由は…

ではなぜ、鹿児島では窓口負担がゼロではないのか? 県の担当者に聞いた。

鹿児島県子ども家庭課 堂園和吉課長:
どこに手厚く財源を充てるかというところなので、鹿児島県では住民税非課税世帯に手厚く補助している

鹿児島県では現在、医療費の窓口負担ゼロの対象は住民税非課税世帯の高校生までで、県内の高校生以下の子どもたちの13%にあたる。
全国で唯一窓口の支払いがあるのが、この非課税世帯を除いた未就学児の医療費だ。
県では、この世帯へ5億円余りの予算を投じ医療費の助成を行っているものの、窓口負担をゼロにすることで受診する人が増え、この額が増大することを懸念している。

そうした中、鹿児島県は、いまだ残る窓口負担については「全額負担ゼロ」ではなく、例えば数百円の負担金のみにするなど、様々な形での仕組みを検討するとした。

窓口負担で困った経験も 「病院に連れて行けずに悪化」

全国で唯一残された子ども医療費窓口払いの鹿児島。負担がゼロになる日は来るのだろうか。

NPO法人「こどんとの未来」・亀澤梨奈理事長:
鹿児島県にとって子どもは宝であり、財産だと思っている。やはり平等な医療が必要

鹿児島テレビでは、子どもの医療費の窓口負担があることで困った経験についてアンケートを実施。300件を超える意見が寄せられた。

・今月はお金が厳しいからちょっと様子を見た結果、悪化して長引いた
・お金がなく娘2人を病院に連れて行けず悪化して、肺炎と気管支炎になり入院。軽い症状の時に病院に連れて行っていたら…。
・今まで福岡市、北九州市、宮崎市に住んでいましたが鹿児島に来て子供医療費の窓口全額負担となりびっくり!
・体調が悪くて病院に行っているので、抱っこしないとぐずる。その状態でかばんからお金を出して、しまって…かなり面倒

窓口負担ゼロは、お金の問題だけではなく、窓口のスムーズな流れなど、子どもにも保護者にも優しい仕組みなのではないか。
今回鹿児島県では、7万人を超える署名が集まった。関係者は、6月の鹿児島県議会定例会でこの問題が取り上げられることを期待していて、進展がみられるか注目される。

(鹿児島テレビ)

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