2023年6月、鳥取県東部で新たに営業を始めた移動販売車。ハンドルを握るのは、鳥取県の広報課長だった女性だ。県職員からの「異色の転身」の背景には、誰もが買い物を楽しめる環境を守りたいという強い思いがあった。
きっかけは買い物好きだった父
JA系のスーパーの閉店方針が相次いで出され、住民の「買い物環境」をどのように確保するかが課題となっている鳥取県で、2023年6月5日、新たな移動販売車が営業を始めた。
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軽快なテーマソングとともに山あいの集落を走るのは、移動販売車「とくし丸」だ。鳥取県東部の集落を巡回し、食料品や日用品を届ける。鳥取・八頭町で行われた出発式で「それでは入江さん、がんばってください」と地域の人たちに見送られ、初日の営業に出発した。
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ドライバーで接客や販売を担当するのは、入江左和代さん(51)。入江さんは2023年3月、33年勤めた鳥取県庁を早期退職し、移動販売車の「店長」に転身した。
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鳥取県庁では退職前の3月までは広報課長を務め、時にはウサギになりきり、鳥取県をPRしていた。そんな入江さんが、移動販売車の店長に転身したきっかけは何だったのだろう。
入江左和代さん:
私の父が免許を返納して、買い物が楽しみだったんだけど、できなくなってしまった。移動販売という手段があれば、同じように困っている人も利用していただけると思った
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2年前に亡くなった父・幸雄さんは、生前買い物に出掛けるのが大きな楽しみだった。しかし、高齢になり運転免許を返納してからは、楽しみだった買い物にも思うように出掛けられなかったという。
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加えて2023年に入って、鳥取県内では中山間地域でのスーパー閉店の動きが相次いだ。亡き父の楽しみだった買い物ができる環境を守らなくてはと、入江さんは一念発起。
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「スーパーがなければ私が行く!」とばかりに、約400万円をつぎ込んで移動販売車を購入し、第2の人生を踏み出した。
51歳、新たな人生が始まる
2023年4月、入江さんは移動販売の研修に臨んでいた。
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入江左和代さん:
お手伝いで来させていただいています
独り立ちを前に先輩販売員に同行し、県東部の若桜町へ。公務員生活に別れを告げ、51歳で踏み出した新たな一歩、何もかもが初体験だ。
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入江左和代さん:
これからは体力勝負だと思うので。県庁時代とは全然違います
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移動販売車「とくし丸」は、徳島県の会社が運営する移動販売のシステム。販売車のオーナーは、運営会社が提携する地域のスーパーから商品を仕入れ、販売する。どんな商品を取り扱うかは、オーナーが、利用客のニーズや販売車の収支を考えながら決めることができ、売り上げの一部がオーナーの収入になる仕組みだ。
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入江さんは、八頭町内に店舗がある天満屋ストア(本部・岡山市)から商品を調達する。
入江左和代さん:
本当に「いよいよ始まるな」っていう感じ。うまくできるのかという不安と、早くお客さまにお会いしたいという思いと、半々です
「買い物環境」確保の切り札に
営業開始が迫った5月下旬。待ちに待った“相棒”販売者が入江さんのもとへ。
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ピカピカの「とくし丸」に早速乗り込んだ。
入江左和代さん:
いよいよですね。出発!出発進行って感じですね
鳥取県内でスーパー閉店の動きが相次ぐなか、移動販売は「買い物環境」確保の切り札としても期待されている。
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「天満屋ストア」を運営するハピーバラエティ・丸尾基さん:
入江さん、本当におめでとうございます
入江左和代さん:
ありがとうございます
「天満屋ストア」を運営するハピーバラエティ・丸尾基さん:
しっかりと、皆さんに笑顔を届けるようお願いします
入江左和代さん:
がんばります
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そして、6月5日、いよいよ営業がスタート。まず、智頭町を訪れた。入江さんが訪れる前からの利用客が「車が前と変わったね」と早速声をかけてくれた。
入江左和代さん:
車が新しく変わったので、レイアウトも変わった。必要なものがあれば教えてください。野菜とかお総菜とか
利用客:
納豆は?
入江左和代さん:
納豆、ありますよ
初日だが、利用客ともコミュニケーションも取れているようだ。
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入江さんは今後、食料品、日用品など400品目、計1,200点を載せて、智頭町、鳥取市南部、八頭町で、1日15カ所程度を巡回する。
利用客:
自分で見て買いたいじゃない。だから、移動販売はすごく助かってます
入江左和代さん:
買い物に困る方が今後より増えるのではと思うので、少しでも困っている方がいれば、利用していただきたい。そういった方にお会いできるのを楽しみにしております
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スーツからエプロン姿に。元県職員が人生をかけた新たなチャレンジ。亡き父への思いを胸に、入江さんは、地域の暮らしを守るため、走り続ける。
(TSKさんいん中央テレビ)