三重県志摩市の太平洋が一望できる築26年のリゾートマンションで、ひび割れやコンクリートの剥落が相次いだが、施工業者は旧民法にある「除斥期間」を理由に補修工事を止めた。補修工事を求めて業者と協議を重ねてきた住人は、提訴に踏み切った。
当初、施工会社は建設時の施工不良を認めていたが…
この記事の画像(23枚)三重県志摩市の海岸沿いの丘にそびえ立つ、リゾートマンション。26年前の1997年に建てられた、ロイヤルヴァンベール志摩大王崎だ。
住人らでつくる管理組合で理事長を務める、松浦潤也さん(49)。
松浦潤也さん:
絶景でしょ。太平洋が一望できますんでね
15年ほど前、この絶景を気に入り、別荘として購入した。
松浦潤也さん:
海を何も考えずにぼーっと眺めて、お酒飲みながらクールダウンして、非日常を味わうのに最適です
家族や友人と、楽しい休日を過ごすはずだった。しかし今、大きなトラブルが起きていた。マンションの天井には、至る所にコンクリートの亀裂が走る。
松浦潤也さん:
“爆裂(ばくれつ)”が生じてコンクリートが剥離したと。この廊下であったりとか階段部分であったりとか、そういうところに落ちてきた。このままの状態にしておくとコンクリートの腐食がどんどん進行していって、ひいては建物の躯体(くたい)自体、全体に影響を及ぼしかねないという状況です
「爆裂」とは、鉄筋を覆うコンクリートが建築基準法施行令の規定よりも薄い「かぶり厚さ不足」が原因で、雨水などが中の鉄筋にまで浸透し、鉄筋が錆びて膨張することで表面のコンクリートが剥がれ落ちる現象だ。
このリゾートマンションでは、竣工からわずか3年ほど「爆裂」が発生し、これまでに100か所以上で確認されているという。
原因は建設時の施工不良で、施工会社などは「かぶり厚さ不足」を認めて2010年に補修工事を実施したが、3年ほど前から別の箇所でも同様の事態が発生。2021年には長さ45センチ、重さ1.5キロほどもあるコンクリートの塊がバルコニーに落下する事案も起きた。
松浦潤也さん:
東側のバルコニーで、天井部分から1.5キロぐらいの大きさのものが剥離しまして。幸いにもその時は住民おられなかったんで。それがもし当たっていたら、大ケガされた可能性も極めて高い
管理組合側は、住民の安全に関わる問題として施工会社などに対し2回目の補修工事を求めた。
分譲した大和ハウス工業の担当者(裁判資料より):
この度、再びと申しますか、爆裂ということがございまして、皆さんの方に深くお詫び申し上げます
施工した三井住友建設の担当者(裁判資料より):
別の部分で、新たな事象が起きているということで、修繕の準備工事を始めたいと思っています
2022年4月に開かれた住民説明会では、施工会社の担当者らは謝罪したうえで、工事の行程などを説明。
事態は収拾へと向かうかと思われた。
補修工事は突如中断…立ちはだかる“旧民法の壁”
補修工事は、現在実施されていない。
松浦潤也さん:
三井住友建設の現場事務所です。突如、昨年(2022年)の6月8日に、なんら連絡のないまま、仮設コンテナの中の什器備品類を持ち出して行ったと。現時点では一方的に(工事を)中断されたと、そういうふうに我々としては受け止めています
2022年9月、施工会社から管理組合の元に届いた文書にその理由が記されていた。
<三井住友建設からの文書>
「かぶり厚さ不足に関する裁判上の権利行使は行われていません。賠償義務が発生していたとしても“除斥期間”の経過により消滅している」
立ちはだかったのは“旧民法の壁”だ。旧民法では、損害賠償の請求権は不法行為から20年以内に権利を行使しないと自動的に消滅するという「除斥期間」を規定していた。
施工会社は、裁判での訴えがないまま建物の引き渡しから26年が経過していることを理由に、「除斥期間」が適用される“法的可能性”を主張した。
松浦潤也さん:
除斥期間という民法上の一方的な解釈を持ち出して、急遽我々の生命財産を脅かすような現状から逃げたということは断じて許せない、許しがたい、憤りを感じる、そういう思いでございます
住人の女性:
やっぱり一流企業、誰もが知っている名前(の会社)が建てたっていう所がすごく購入のポイントになっていると思うので、そこががっかり
住人の男性:
建物を売るんですから、住人の事を一番に考えてやって欲しい、考えて欲しい
管理組合は補修費用を求め提訴 専門家「他のマンションでも起こりうる」
2023年3月2日、津地方裁判所を訪れた管理組合理事長の松浦さんは、補修費用など約2億9000万円の賠償を求めて提訴した。
松浦潤也さん(提訴後の会見):
本来であれば話し合いの上で、きちんと解決すべき問題ではあったかと思いますが、相手方の一方的な不誠実な対応により、やむを得ずこのような訴状を提訴するという選択をした次第でございます
管理組合は、「かぶり厚さ不足」について継続して指摘・協議をしていることから、除斥期間は認められないと主張している。
原告代理人の藤原航弁護士:
ずっと協議し続けてきて「20年経ちました、はい除斥期間でおしまいです」と。これが果たして、法の正義にかなうのかというところなんだろうと思うんです。交渉していた管理組合の方が、泣きを見るということになってはならないんではないかなと思いますので、この裁判が一石を投じてほしいと考えています
旧民法が適用される古いマンションでは、全国でも同様の事態が起こり得ると専門家は指摘する。
さくら事務所マンション管理コンサルタントの土屋輝之さん:
爆裂という現象なんですが、これはまさに時間の経過とともに進行していくタイプの不具合。内陸部で鉄筋などが錆びる要素が非常に少ないエリアでは(建設から)30年40年経った段階で、そういったことが顕著な事象となって表れてくる可能性があります
松浦潤也さん:
本来であればもっと平穏な生活、楽しい休日を過ごせていたと思うんですけど。平穏な生活が一日も早く取り戻せるように(裁判を)全力で頑張っていきたいというふうに考えています
提訴を受け、施工した三井住友建設は「誠意を持って協議をしてまいりましたが、管理組合の判断により提訴されたということで非常に残念です」とコメント。分譲した大和ハウス工業は「コメントを差し控える」としている。
癒しを求めたリゾートマンションに安らぎの日々は戻るのか…。
2023年4月17日放送
(東海テレビ)