名古屋市北区の「プロショップ クリーニング山口」は、1962年に創業し、親子3世代で経営しているクリーニング店だ。かゆいところに手が届く「技とサービス」が代々受け継がれ、地域の人に愛されている。

客が喜ぶのは「仕上がりの良さ」…地域で愛される名古屋のクリーニング店

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名古屋市北区の地下鉄名城線の黒川駅から車で約5分のところに「プロショップ クリーニング山口」はある。

1962年に創業し、見た目はどこにでもあるクリーニング店だが、地域の人に愛されている。

女性客A:
自分の気に入った洋服っていうのは、やっぱり長く着たいんですけども、綺麗に洗濯していただけるので、すごく長持ちをしてずっと着ていけるのがいいなって

客に聞くと、よく出る言葉がある。

女性客B:
仕上がりもええし、丁寧やな。そやで私は好き

男性客A:
対応がいいから。仕上がりもいいよ

男性客B:
アイロンの仕上げとか、ワイシャツひとつにすればやっぱりシャツに合わせてやっていると思いますよ

「仕上がり」という言葉だ。どの客もその良さに惚れ込んでいる。

店を切り盛りするのはこの道42年、57歳になる2代目店主・山口勝巳さんと…。

初代の勝春さん。

そして、3代目の将己さんの3人だ。

2代目店主の山口勝巳さん:
何十年というお客さんも中にはいる。遠くは春日井インターの方からね、わざわざ自分のワイシャツ、高級車に乗って来てくれるんですけど。社長さんが多いかな、うちのお客さん、意外と。「あんたんとこの仕上がりに、わしゃ惚れとるで」って言ってもらえる

汗と皮脂を見分けてこすり洗い 洗濯機に入れるだけではないクリーニング

取材した日に持ち込まれたワイシャツで、2代目の仕事ぶりを見せてもらった。

多い日で50枚ほど扱うというが、まずは一枚一枚チェックする。

山口勝巳さん:
ちょっと襟の汚れがひどくて、前もってここが襟の輪っかがね、2度3度と着ると汚れがひどい人もいるんで。これは脂汚れで落ちにくいんで、脂を落とす洗剤なんですけど

汗は水洗いでも十分落ちるが、襟まわりによくつく皮脂の汚れはなかなか頑固だ。目視で程度を見極め、洗剤を使ったりブラシでこすったりして下洗いする。

皮脂が古くなり黄色に変色したものには、漂白剤を直接つける。

大量の洗濯物でも必ず行う地道な作業が施され、ようやく洗濯機へ。洗剤や糊を入れ、約30分水洗いする。

次は乾燥機だが、途中で扉を開け、洗濯物を追加した。

山口勝巳さん:
綿を先に少し入れて…、綿の方が乾きが悪いんでね。綿100%。テトロンというんですけど、ポリエステルの入ったやつは乾きが早いんで、ちょっと後で入れる

ポリエステルが入った化学繊維は、乾燥させすぎると生地を傷めるため、途中から加える。乾きやすさや生地の傷みやすさも考慮に入れ、素材によって乾燥時間を調整していた。

大量の洗濯を早く仕上げつつ、少しでも衣類が長持ちするための気配りだ。

水洗いの縮みを考慮した丁寧なアイロンがけ

乾燥が終わるとアイロンがけだ。プレス機で、前みごろや背中といった面積の広い部分を伸ばすと…。

枕のような曲線の機械を使うが、これもプレス機だ。

3つのカーブに沿って、襟や肩、カフスなどをあててプレスし、伸ばす。

このあと平らな面でもアイロンをかけていくが、ここが勝巳さんの腕の見せ所だ。

山口勝巳さん:
機械の仕上げだと、この(肩から腕の)ラインがキチッと取れないというか、昔ながらの仕上げ方なんですけど

山口勝巳さん:
カフス(袖)も一応チェックして、ピーンと伸びてればいいんですけど、蒸気かけると伸びるじゃないですか。こんだけ縮んでいるんですよね。中に襟とかカフスは芯が入っているんで、この芯が縮んでくるんでね

こだわるのは「シワをただ伸ばせばいい」というわけではないということだ。例えばワイシャツは、プレス機で伸ばし、一番上のボタンをかけ下の方を見ると、ボタンとボタンホールの位置が大きくズレてしまっている。

これは、ホール側にだけ固い芯が入っていて、水洗いをすることで縮んでしまうためだ。

このシャツを、勝巳さんがアイロンがけする。ホール側にある芯を伸ばすようにしっかり熱を加え、再び上のボタンを留めて見てみると…。

ズレていたボタンホールが、ピッタリと合った。

一般的な格安クリーニング店で行われているプレス機のみの仕上げを再現したものと比べてみた。

プレス機のみのシャツはボタンホールの位置がずれてふくらみ、隙間ができてしまっているが、勝巳さんが仕上げたものはぴったりとそろっている。

また、襟の折り返し部分が綺麗なラインを描き、首の形に沿うことで着心地が良くなるという。

最後に畳んで、やっと1枚のクリーニングが終了だ。料金は、ワイシャツ1枚で330円から。

大手に比べれば決して安くはないが、見えないところで手間暇がかかっていた。

小さなシミ抜きならサービスで 2代目「お返ししなきゃ」

この日届いたシャツに、ボールペンのインクがついていることに、アイロンがけの途中で勝巳さんが気づいた。

山口勝巳さん:
これ、ボールペンやインクを分解するやつ(溶剤)なんですけど、たぶん(インク汚れが)にじむとは思うんですが…。たぶんボールペンだね、にじんできてるんで

超音波振動機という機械をあて、分解されたインクを生地から「引き剥がす」。

さらに、インクを溶かして洗い流す溶剤をスプレーガンで噴射すると…。

ガッチリついたボールペンのインクが消えた。この程度のシミ抜きはサービスで行ってくれる。

女性客C:
主人は糊はあまりつけなくて、息子は糊をつけてくれっていうわがままを、全部聞いて下さるんです。ワイシャツ着てもビシッと決まるから、もう山口さんしかダメだねって

山口勝巳さん:
簡単にしてしまえば、大量に薄利多売でやっているところは、お金は儲かるかもしれないですけど。さっきみたいに仕上げている途中で「あー(シミが)ついてるわ、取っといてあげようか」っていう。うちらもお客さんにお世話になっているんでね。安心して任してもらっているんで、その分うちらもそのようにお返ししなきゃいけないんで。取れるとこはきれいにしますし、仕上げももちろんそうですけど

初代の教えは2代目から3代目へ

持てる技術をつぎこみ、クリーニングを通して、客と真摯に向き合う。この教えを叩き込んでくれたのは、先代の父親だった。

初代の山口勝春さん:
本人もだいぶ自分でやってるけど、わからんとこは多少あった。そういう時はね。「自分は仕上げが趣味」だと言って、主でやっていて

そして伝統は、3代目で勝巳さんの息子、28歳の将己さんに受け継がれる。

3代目の山口将己さん:
いずれは、いつかはやらなあかんなと思ったんですけど、親父が「もうそろそろやれ」って言われて、で、「お願いします」と頼んで

山口勝巳さん:
意外と、ワイシャツ教えたらきれいに仕上げるんですよね。まあ、このまま続けてやってくれて、アイツにも夢があるのか、いろいろ「こうしていこうかな」とは言ってるんで、俺はいつでも渡してやるよ

初代が確立した技術や考え、そして客は、2代目、3代目へと順調に引き継がれていく。

山口勝巳さん:
やってることやなんかも古いままかもしれないんですけど、なんとかここでやってるんですけどね。お客さんも喜んでくれてはいるんで、そこをなんとか続けて息子にも教えて、店、頑張っていきたいなとは思っています

2023年2月20日放送
(東海テレビ)

東海テレビ
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