国会で入管法改正案の審議が大詰めを迎える中、難民申請者への支援を続けている大学生たちがいる。なぜ学生たちは難民を支援するのか?学生たちのいまの想いを聞いた。
食料や衛生用品の配達、交流会で物心両面支援
SRSG(Sophia Refugee Support Group)は2017年に設立された、上智大学の学生を中心としたボランティア団体だ。メンバーは現在129人で、日本にいる難民申請者らへの支援と情報発信に取り組んでいる。これまで支援した難民申請者らの数は約200人だ。
学生たちは食料(※)や衛生用品の配達、交流会や日本語学習クラスの運営、入管訪問などを通じて難民申請者をハードとソフトの両面から支えている。またSNSや大学内のイベントでの情報発信のほか、学校や企業を訪問して講演会を行い、難民が抱える課題について幅広く知らせている。
(※)セカンドハーベスト・ジャパンの協力のもと2020年以降約100世帯に配達
この記事の画像(8枚)「難民カフェには毎月のように来ています」
取材した当日はキャンパス内で「難民カフェ」と呼ばれる交流会が行われていた。カフェでは難民申請者同士や学生とのグループ交流、ビンゴゲーム大会などが行われ、和気あいあいとした空気に包まれていた。またふだん難民カフェでは、古着や日本語の絵本の寄付も行われているそうだ。
筆者もグループに加わり、参加者から話を聞いた。ミャンマーから31年前に日本にやって来たという男性は「カフェにはほとんど参加しています。上智の大学生は人権に関心が高く、私たちの悩みを聞いてくれます」と語った。
アフリカ系の男性は「2018年に日本に来たときは友達も家族もいませんでしたが、いまは学生たちと友達になったし、ここで日本語や英語も学んでいます」と言って顔をほころばせた。また、アフリカ系の女性は「毎月のように来ています。家族といるようにリラックス、リフレッシュできるし、日本の情報も得ることができます」と語った。
「学生でも日本の未来を決める力がある」
難民支援活動をなぜ大学で行っているのか?SRSGのメンバー4人に聞いた。
SRSG前代表で今年3月に卒業した福岡クリスティーナさんは、在学の4年間難民の支援活動を行ってきた。UNHCRでインターンをした経験もあるクリスティーナさんは、活動に参加した理由をこう語る。
「私の母親は外国人ですが、日本での滞在許可を得るため入管庁に行く度に、子どもとして不安な思いをしてきました。私は日本で生まれ育って、日本の社会に貢献したいと思い『学生でも日本の未来を決める力がある』と活動してきました」
クリスティーナさんの後を継いだ現・代表のブルック美良さんは、「オーストラリアに住んでいた中学時代に難民の収容所があることを初めて知った」という。
「上智大学に入学してSRSGを知り参加しました。ある外資系企業で私たちの活動について紹介した際に、社員の方々が日本に難民がいることも、難民の認定数が少ないことも知らなくて、この問題について多くの人に知ってもらうことが最初のステップだと思いました」
「日本は世界の流れに逆行しているのでは」
メンバーの橋本華名さんは、高校生の時にLGBTの人々が生きづらさを感じない社会を目指して団体を作り活動を行ったこともある。
「私は仮放免中の高校生の勉強をサポートする活動をしています。高校生は私と年齢が近いのにも関わらず、今の日本の入管制度では自分の夢を諦めざるを得ない状況になっています。それがとても悔しく不公平だと思います」
父親が海外にルーツがある林美奈さんは「父が日本で暮らすための手続きの難しさ、言葉の壁や差別を経験してきました」と語る。
「入管へ面会に行って(収容者の方から)『学生に言うべきかわからないけど、日本は遅れているよ』と言われたことがあります。日本は世界の流れに逆行しているのではないかと思います。グローバル化の時代のいま、日本の難民の認定率や受け入れ体制に疑問を感じます」
「知れば知るほど酷いな」と支援団体を設立
都内三鷹市にあるICU=国際基督教大学でも難民の支援を行っている大学生の団体がある。
IRIS(アイリス=ICU Refugee and Immigrant Solidarity)は2021年に設立され、難民申請者の支援活動や前述のSRSGなどと協力しながら情報発信を行っている。
取材した当日は近隣のフードバンクから食料をもらって、仮放免中の4世帯へ配送する食料の箱詰め作業をしていた。ほかにも「難民カフェ」や入管訪問、講演会などを行っている。IRISのメンバーにも設立・参加の経緯や難民問題について、いま何を思うのかを聞いた。
団体の設立者の宮島ヨハナさんは、これまで「入管法改悪反対デモ」の主催やオンラインイベントへの登壇などをやってきた。宮島さんは団体設立のきっかけをこう語る。
「私の父は牧師で2009年から仮放免の保証人をしています。私は小さい頃から仮放免の方々と触れ合う機会があったのですが、高校時代に英語を教えてもらっていたカメルーンの女性が入管で乳がんを患ってしまい、やっと仮放免されたときには手遅れで亡くなってしまいました。あとで『彼女に在留資格が届いたのが亡くなった3時間後だった』という記事を読んで、すごくショックを受けました。そして高校の卒業論文で難民について調べて、知れば知るほど酷いなと思い、大学でIRISを設立しました」
「国籍が違うだけで施設に閉じ込められている」
また現在代表を務める薬袋(みない)さんも、高校の卒業論文で難民問題について取り上げたという。
「高校で難民問題を卒業論文に書いたきっかけが、私がイギリスに滞在していた時に仲良くなった友人がシリア難民で、その友人から『戦争で家を失いおばあさんが亡くなった』と聞いてすごくショックを受けました。その時なぜ自分は日本にいたときに難民について知らなかったのだろうと思いました」
薬袋さんは初めて入管収容施設を訪問した際のことをこう語る。
「最初は(収容者とは)ちょっと壁があるのかなと思っていたのですが、話してみたら意外と普通の人だなと。すごく笑わせてくれたりして、こっちもお話しすることで元気になって。難民ではなくてただの友達みたいな感じで、同じ場所にいて同じ言葉を話して同じ時間を共有しているのに、国籍が違うだけで施設に閉じ込められているのが虚しくなって。日本の入管制度は人として考えていない、排他的な印象があります」
「本当に今日にでも変えたいと思う」
堀はぐみさんも入管に収容されている難民申請者らと会って、「生まれた場所が違うだけなのに、なぜ彼らはアクリル板で隔てられているのか」と感じたという。堀さんは高校時代に外国人技能実習制度の問題を知った。
「授業で調べる機会があって、外国から来た方々が酷い扱いを受けている状況を知りました。しかしその時はデモに参加したり、行動出来なかったのですが、ICUに入学してみると大学生になってから社会問題について取り組んでいる学生がたくさんいるので、『自分も何か行動してみよう』と思ってアイリスに参加しました」
「本当に今日にでも変えたいなって思います」(薬袋さん)
支援団体に参加する学生にあるのは、難民申請者が受ける理不尽への憤りと日本の入管制度への不信だ。若い世代が難民申請者との日常の中で感じているこの声を、国会は真摯に耳を傾けるべきだ。
【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】