ゼレンスキー大統領が対面参加し、世界から注目されたG7広島サミットが閉幕。ロシアの侵略や戦争犯罪を強く非難したスピーチが広まった一方、ロシアや中国は反発。BSフジLIVE「プライムニュース」では、サミットの成果を中心に詳しく検証した。

他のテーマが薄くなっても、ゼレンスキー大統領の対面参加は十分な成果

ウクライナ ゼレンスキー大統領 国際会議場で演説
ウクライナ ゼレンスキー大統領 国際会議場で演説
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新美有加キャスター:
広島を訪れたウクライナのゼレンスキー大統領は、平和記念資料館視察の後に岸田総理と会談、その後、国際会議場で演説を行った。

佐藤正久 元外務副大臣:
戦時下のリーダーの言葉だった。ロシアによって占領されている地域があり、自国民が殺害され、子供たちが連れ去られる痛みを広島で訴えたことは非常に大きい。

東野篤子 筑波大学教授
東野篤子 筑波大学教授

東野篤子 筑波大学教授:
広島からしか発信できなかったメッセージ。比べていいのか、と留保をつけながらも、広島とバフムトを重ねる発言が多かった。おそらく直前まで修正され、資料館の感想が盛り込まれた内容だった。

反町理キャスター:
ゼレンスキー大統領のインパクトで他のテーマが薄くなりはしなかったか。岸田総理の狙いや成果は。

佐藤正久 元外務副大臣:
結果的に日米韓や日米豪印のクアッド、対中国などの成果は薄まった。だが、日本の地政学的価値に基づいた外交ができたことは大きい。十二分の成果があった。

反町理キャスター:
地元広島メディアの記者から、ゼレンスキー大統領に「広島に来たのになぜもっと和平の話をしなかったのか」という質問。

東野篤子 筑波大学教授:
厳しいことを申し上げるなら、「ゼレンスキー大統領の演説の何を聞いていたのか」。大統領が提案した「平和の公式」の内容は、恒久的な平和を作るためにすべきこと。記者の方にはこれが平和と聞こえなかったのかもしれない。今すぐ戦争をやめると言わない限り平和と認めないという言い方は、理解はできる。だが、せめて大統領の発言内容をきちんと咀嚼し、話を受けて質問すべきだった。

アメリカのF-16供与容認は中途半端 日本の支援にも課題あり

新美有加キャスター:
サミットでアメリカからの追加供与が明らかにされたのは、ハイマース(高機動ロケット砲システム)用の155ミリ砲弾や弾薬など3億7500万ドル分。またF-16戦闘機の供与も容認され、パイロットの訓練実施の支援も行うことが発表された。

佐藤正久 元外務副大臣:
ゼレンスキー大統領は事前にヨーロッパを訪問し、パイロットの訓練の話をして外堀を埋めた上でバイデン大統領の最後の背中を押した。だが、ヨーロッパにあるF-16の供与を容認するがアメリカ自身は出さないことなど、非常に民主党政権らしく中途半端。

新美有加キャスター:
一方、日本に対しての要望も。武器供与については「欲しいのが本音だが、日本の法律を理解している」。日本政府は新たに自衛隊車両合わせて100台の提供を発表。

東野篤子 筑波大学教授:
ウクライナ上層部は性能が良い日本の車両に期待している。同時に日本側の反応として、日本からなくなる分の穴埋めはできるのかという声も出ていることは承知している。

佐藤正久 元外務副大臣:
自衛隊法にある「不要になった防衛装備等を途上国に渡す」という法の枠組みで行う。だが部品を交換し、整備して出すので時間がかかる。与党内では、侵略されている国への支援の観点と日本に有利な国際環境を作るための装備移転という観点から、議論を詰めようとしている。

戦時下の大統領による異例の対面参加 調整はどう行われたか

新美有加キャスター:
戦時下の国の大統領による異例の来日だった。ゼレンスキー大統領から対面参加の強い希望が表明されたと外務省が公表している。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
キーウ訪問時、岸田総理はサミット参加を要請し参加方式の判断は任せると言った。ゼレンスキー大統領側もオンラインのつもりだったが、その後対面でと伝えた。日本政府が各国と飛行機の確保や警備、日程の調整をした。徹底した情報管理のもとで、官邸の岸田総理ら4名と外務省を合わせ、おそらく10人に満たない人たちで進められた。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏
政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏

東野篤子 筑波大学教授:
フランスの報道で、ゼレンスキー大統領から協力を求められ、仏マクロン政権が日本政府に実現を働きかけたと言われるが、本当かはわからない。だが「相手が来たいと言うから」と、聞きようによっては失礼なことをわざわざ言った日本政府・外務省の立場とフランスの報道内容は、合致するといえばする。

佐藤正久 元外務副大臣:
建前と実際の話がある。安全確保の観点から、直前まで伏せておかなければならない非常に大事な情報だった。土壇場で対面に変えたというのも、たぶん建前の世界。ただ、一番汗をかいたのが日本政府なのは間違いない。

反町理キャスター:
訪日時の飛行機の航路を見ると、南回りではなく途中から中国上空を通っている。

佐藤正久 元外務副大臣:
中国上空を通った方が近いことに加え、中国の領域に入ればロシアから攻撃されることはないことが考えられる。

新美有加キャスター:
ロシアとの関係が深いインドのモディ首相とゼレンスキー大統領との会談が注目された。モディ首相は「できることは何でもやる」と発言したが、会談の意義は。

東野篤子 筑波大学教授:
ゼレンスキー大統領が広島まで来た大きな理由のひとつが、招待国に対する直接のアプローチ。特にインドと話したかったと思う。引き出した言質は、ロシアからすれば嫌でウクライナにとって嬉しい発言。

反町理キャスター:
一方、ブラジルのルラ大統領は「会談予定はあり、話したいと思って待っていたが会えなかった」。ゼレンスキー大統領は「会えなかった先方ががっかりしているのでは」。

佐藤正久 元外務副大臣:
もう少し言葉遣いを考えたほうがよかった。来年のG20の議長がブラジル。敵を作る必要は全くない。両者は往復で40分かかる場所にいて、会談をセットしたが現実問題として成り立たなかったと聞く。

バイデン大統領「核兵器の『脅威の』ない世界」が意味すること

アメリカ バイデン大統領
アメリカ バイデン大統領

新美有加キャスター:
G7サミット参加国の首脳が平和記念資料館を訪問した。米バイデン大統領は「核兵器の脅威のない世界を目指し努力し続ける」。

佐藤正久 元外務副大臣:
もともと核軍縮派のバイデン大統領の気持ちが出た。「核軍縮」と名のついた成果文書をG7のサミットで出したのは初めて。しかも広島で、という二重の意味があった。

佐藤正久 元外務副大臣
佐藤正久 元外務副大臣

反町理キャスター:
岸田総理は「核兵器のない世界」、バイデン大統領は「核兵器の『脅威のない』世界」。核保有国としてこの言いぶりにする必要があったか。

佐藤正久 元外務副大臣:
十分ある。今回の広島ビジョンも、まずは国民の生命と安全を守るために核抑止は大事だという前提で、その上で核廃絶や不拡散に持っていくもの。

ゼレンスキー大統領の記帳
ゼレンスキー大統領の記帳

反町理キャスター:
ゼレンスキー大統領の記帳内容。「どの国もこのような苦痛と破壊を経験することがあってはいけない。現代の世界に核による脅しの居場所はない」。

東野篤子 筑波大学教授:
現実に核使用をちらつかせる国が出てきた時、まずはその脅威を抑えなければならない。「核の脅威のない世界」が後退だとは思わない。その後にしか「核のない世界」は考えられないのでは。

ロシア・中国は予想通りの反発 だが対中外交は柔軟に

新美有加キャスター:
ロシア外務省は「G7は世界の安定を揺るがす破壊的な決定のふ卵器だ」と反発。ロシアの駐米大使は、SNSで「アメリカは原爆について日本人に謝罪しようと考えもしなかった」。

佐藤正久 元外務副大臣:
今回、G7がロシアを批判し、インドやブラジルも呼んでプレッシャーをかけるのはわかっていた。反発は織り込み済み。

東野篤子 筑波大学教授:
日本もアメリカも、第二次世界大戦で戦った国々も並んで献花し、核の脅威はダメだと言った。ロシアはアメリカ批判のため広島を政治利用してきたが、完全に説得力はなくなった。

新美有加キャスター:
中国の反応。孫衛東外務次官が「日本はG7議長国として、関係国とグルになって中国を中傷して攻撃し、中国の内政に粗暴に干渉した」。呼び出された垂秀夫駐中国大使は「中国が行動を改めない限り、これまで同様にG7として共通の懸念事項に言及するのは当然で、将来も変わらない」と反論。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
垂さんは政治家からも非常に評価が高い。しっかりした考え方をしっかり伝えている。ただ、バイデン大統領から米中関係の雪どけが近いだろうという話があった。日本も固定的に考えず、アメリカの動きを注視した柔軟な対応が必要。

佐藤正久 元外務副大臣:
G7も人権問題や力による現状変更に対し強く言いつつ、関係改善への手も握っている。日中首脳会談を視野に入れた外交が必要なことは垂大使も十分わかっている。

サミットは成功でも、衆院解散は早期ではなく秋となる公算

新美有加キャスター:
今回のサミットの結果を受け、今後の政局は。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
複数の自民党幹部と話したが、ほとんどがサミットは大成功としながら、早期解散には慎重。前の総選挙からまだ2年以内で、来年の自民党総裁選までは長い。よほどの大義名分がなければ今は解散できない。秋の可能性が高いと見る。ただ今国会で内閣不信任案が出る場合、岸田さんが応じる可能性はゼロではない。

反町理キャスター:
各社世論調査では、内閣支持率が9ポイント増。今後の国会運営の中で、さらに支持率が上がる可能性はあるか。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
幹部の1人が、秋までの維持は大変だと言っていた。ある程度の低下は覚悟しているが、不支持が上回ることはあまり想定していない。支持率を回復させた岸田さんは自信を持っている。

(BSフジLIVE「プライムニュース」5月22日放送)