G7広島サミットの主要議題の1つである「核軍縮」。ウクライナ侵攻で核兵器の使用をちらつかせるロシアに、被爆地である広島からどんなメッセージが発信できるのか。

核軍縮の一方で現実は

人類史上初めて原子爆弾が投下された広島。

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被爆地・広島だからこそ発信可能なメッセージとは一体何なのか。宮司キャスターが向かったのは、各国首脳も訪れる予定の平和記念資料館。

ここには、被爆者が原爆投下時に身につけていた衣服や持ち物が展示されている。

被爆者が原爆投下時に身につけていた衣服や持ち物
被爆者が原爆投下時に身につけていた衣服や持ち物

宮司愛海キャスター:
名前もそのまま残っていますね。この服や物を持っていた人たちの生活が伝わってくるような。ボロボロになっていたというところから、どれだけ威力があったか伝わります。

岸田首相は、地元でもあるここ広島から、核兵器のない世界に向けたメッセージを発信したい考えだ。

第2次世界大戦後の“東西冷戦”時代も、核開発や核実験は進められた。

実験映像
実験映像

これは、旧ソ連が開発した水素爆弾「ツァーリ・ボンバ」の実験映像。その威力は広島に投下された原爆の3300倍ともされている。

以降、核の使用をちらつかせている
以降、核の使用をちらつかせている

その後、冷戦終結を機に“核の緊張”は緩和の方向へと向かうが、2022年2月、ロシアがウクライナを侵攻。それ以降、核の使用をちらつかせている。

こうした中、茨城県つくば市にオープンしたのが、核シェルターのモデルルーム。

鉄筋コンクリート造りの建物を降りていくと、そこには分厚い扉があった。核兵器などによる攻撃から身を守るためのものだ。防爆扉の厚さは20cm、重量は1トン。

核兵器などによる攻撃から身を守るためのもの
核兵器などによる攻撃から身を守るためのもの

大人4人、子ども3人が2週間過ごす想定で食料が備蓄され、放射能汚染を防ぐ除染室なども設けられている。

こうした核シェルターについて、日本でも関心が高まっていると担当者は話す。

自治体からも問い合わせがあるという。食料備蓄に放射能汚染を防ぐ除染室も備わっている
自治体からも問い合わせがあるという。食料備蓄に放射能汚染を防ぐ除染室も備わっている

日本核シェルター協会 川嶋隆寛事務局長:
自治体の方からも問い合わせがあったり。やはり皆さん、非常に危機意識が高くなってきている。

核なき世界を目指す「理想」と、核の脅威が横たわる「現実」。

宮司愛海キャスター:
原爆という形から核兵器に形を変えて、今でも核兵器がある状況は世界で続いているわけですね。

核軍縮は進んでいるように見えるが…
核軍縮は進んでいるように見えるが…

これは、現在の世界の核兵器保有数推移を示したグラフ。アメリカと旧ソ連の冷戦終結以降、減少の一途をたどり核軍縮は進んでいるように見える。

その一方、互いが核兵器を保有することで、国同士の戦争や核攻撃を思いとどまらせる力があるとする“核抑止力”の考え方が、ウクライナ侵攻後にロシアが核兵器をちらつかせることによって、再度注目を集めているのも事実だ。

原爆投下から78年がたち、変わりゆく世界の状況を広島の人々はどう見ているのか。被爆者と若い世代の思いを聞いた。

あの日、爆風を受けた父の背中

宮司キャスターを出迎えてくれたのは、廣中正樹さん(83)。5歳の時に現在の広島市西区で被爆した。

そして、被爆3世の並川桃夏さん(24)。高校時代に「非核特使」の活動を行い、広島を訪れた当時のオバマ大統領に花輪を渡す大役を務めた。

高校時代に「非核特使」の活動を行い、大役を務めた
高校時代に「非核特使」の活動を行い、大役を務めた

まずは、廣中さん自身が描いたという絵を見せてもらいながら、原爆投下の“あの日”を振り返ってもらった。

廣中さんが描いた絵
廣中さんが描いた絵

廣中正樹さん:
これが(8月6日の)夕方に、家で見たお父さんの背中の状態だった。

宮司愛海キャスター:
ガラスの破片が刺さった?

「だから背中がもう、すごかったですね」
「だから背中がもう、すごかったですね」

廣中正樹さん:
電車の中で、たぶん爆風の方へ背中を向けとったんだろうね。だから背中がもう、すごかったですね。電車のガラスで厚みが厚いんですね…あれが突き刺さった。当時を思い出すなぁ…。

廣中さんは涙ながらに語った。

核廃絶の一歩に期待 若者の“意識”に危機感

こうした体験を語り、戦争の悲惨さを訴えてきた廣中さんの目に、核を巡る世界の今がどう映っているのか聞いた。

宮司愛海キャスター:
今、核兵器を各国持っていて、核で抑止するこの現状については?

「だけど、なかなか使うことはできない」
「だけど、なかなか使うことはできない」

廣中正樹さん:
各国(核兵器を)持っていますけど、時間かけて金をかけて作っているから、この核によって本当に抑止力があるんですよ。それで脅すということはね。だけど、なかなか使うことはできない。

廣中さんは、今回の広島サミットでの議論が、核廃絶の一歩につながることを期待している。

「早く核兵器だけはなくしてほしい。分かってもらうのに時間はかかるだろうが、私はいい方向に考えている」
「早く核兵器だけはなくしてほしい。分かってもらうのに時間はかかるだろうが、私はいい方向に考えている」

廣中正樹さん:
ロシアが来るわけにはいかんでしょうけど、みんな膝を交えて話をした方がいいと思いますね。早く核兵器だけはなくしてほしいですね。分かってもらうのに時間はかかるでしょうけど、私はいい方向に考えている。

こうした思いや体験を伝える廣中さんらのサポート活動を行っている、並川さん。自分たちの世代の多くが、核問題への意識が希薄だと危機感を覚えている。

宮司愛海キャスター:
若い人同士でも伝えていくことが、一番大事なのかもしれないですね。

「20代、30代の皆さんに核兵器の危険性を認識してもらうのがとても難しい」
「20代、30代の皆さんに核兵器の危険性を認識してもらうのがとても難しい」

並川桃夏さん:
そうですね。私はたまたま広島で生まれて、平和教育をずっと受けてきたので、核兵器がどれだけ危険性があるものかを認識していますが、私のような20代、30代の皆さんに危険性を認識してもらうのがとても難しい。

廣中さんからの願い
廣中さんからの願い

広島でのサミットが、自分たち若い世代が核問題を考えるきっかけになれば…。そう話す並川さんは、83歳の廣中さんから、被爆者の思いをさらに次の世代に伝えてほしい、という願いを託されている。

「こういう人に託して、それで私は上から見守ります」
「こういう人に託して、それで私は上から見守ります」

廣中正樹さん:
これから 10年、20年先は、世代交代で世の中変わってくると思いますよ。こういう人に託して、それで私は上から見守ります。

(「イット!」5月16日放送)