ロシアのウクライナ侵攻で、戦闘に参加する民間軍事会社「ワグネル」の存在と、創設者・プリゴジン氏がプーチン政権の高官を非難する発言が注目される。BSフジLIVE「プライムニュース」では傭兵経験者を含む識者を迎え、世界の民間軍事会社の歴史や役割を検証した。

元傭兵・高部正樹氏に聞く 最前線での壮絶な戦争体験

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新美有加キャスター:
高部さんは1982年に航空自衛隊に入隊、退官後の1988年にアフガニスタンで反政府武装組織「ムジャヒディン」の一員として旧ソ連軍などとの戦闘に参加。1990~2007年はミャンマーの反政府組織「カレン民族解放軍」で独立闘争に参加。1994、95年の2年間はクロアチア傭兵部隊の一員としてボスニア・ヘルツェゴビナ紛争にも参加。なぜ傭兵になったか。

元傭兵・軍事評論家 高部正樹氏:
子供のころから兵隊になりたい気持ちが強かった。自分ではなく他の誰か、何かのために戦うのが男の仕事だと思った。最前線に行きたいので戦闘機のパイロットか歩兵だと。空自でパイロット要員になったが腰を痛め、歩兵になろうとしたが、自衛隊には海外派遣もなかった時代。訓練だけで終わってしまうと思い、海外に行くように。

反町理キャスター:
なぜアフガニスタンだったか。

元傭兵・軍事評論家 高部正樹氏:
当時の仮想敵国だった旧ソ連がアフガニスタンに侵攻しており、行けば戦えると思った。紹介状を書いてもらい、パキスタンのムジャヒディンの事務所に行って、私も戦いたいと。数日後にアフガン入りし、主に歩兵の任務を担った。

各地で戦闘に参加した高部正樹氏
各地で戦闘に参加した高部正樹氏

反町理キャスター:
想定していた戦場と同じだった?

元傭兵・軍事評論家 高部正樹氏:
最初に全然違うと感じた。最初の戦闘では、砲弾が近くに落ちる音、銃弾の音などを感じることが勝り、そんなに恐怖心はなかった。だが後方に引き揚げた時、何人も死んだこと、目の前で血だらけの味方が運ばれていったことを思い出し、急に怖くなった。次の日は仮病を使った。最前線に行けない状態が1週間から10日続いた。すごく後悔した。奥地で帰りたいと思って帰れる場所ではなかったが、国境近くなら国境を越えてパキスタンに行き、すぐ帰国していたと思う。

反町理キャスター:
だが戦いに戻った。相手は歩兵、戦車、旧ソ連軍のヘリコプターなど。それぞれに対戦車兵器や対空火器など使い分けて戦った?

元傭兵・軍事評論家 高部正樹氏:
そう。先端兵器の対空ミサイルは訓練を受けた一部の人間しか触れなかった。当時、誘導兵器はほとんどなく、戦車を囲みRPG(対戦車ロケット)を撃っていた。

反町理キャスター:
報酬はどの程度か。

元傭兵・軍事評論家 高部正樹氏:
全然もらえない。アフガニスタンでは、作戦の期間にかかわらず当時の日本円で8000円程度だったと思う。

元傭兵・軍事評論家 高部正樹氏
元傭兵・軍事評論家 高部正樹氏

新美有加キャスター:
万が一の場合の話は。

元傭兵・軍事評論家 高部正樹氏:
全くなかった。多分、現地で埋められると思う。

反町理キャスター:
自衛隊でもジュネーブ条約を学ぶと思うが、傭兵の法的な身分に心配はなかったか。

元傭兵・軍事評論家 高部正樹氏:
その時点ではなかった。ただその後、某国で捕虜交換があり、戻ってきたのが同じ傭兵部隊のアメリカ人かフランス人。歯を全部へし折られ、20代なのに髪が真っ白になっていた。外国人で法的な保護がなく拷問の対象にされたのかも。自分が捕まっていたら、と深刻に考えた。捕虜になって拷問を受けたくない場合のため、みんな覚悟して自決用の銃弾を別に持っていた。

元傭兵・軍事評論家 高部正樹氏
元傭兵・軍事評論家 高部正樹氏

反町理キャスター:
高部さん、ご家族は。

元傭兵・軍事評論家 高部正樹氏:
独身だが親はいる。実家には連絡せず行った。親が知ったのは7~8年後だと思う。子供の頃から兵隊になると言っていたので、音信不通になった時には「そういうことをやってるんじゃないか」と思ったとは言われた。

反町理キャスター:
次にPMC(民間軍事会社)の話題になるが、ずっと傭兵だった高部さんに勧誘はなかったか。

元傭兵・軍事評論家 高部正樹氏:
一度あった。20年ほど前にミャンマーにいた時、イラクに行かないかと。日給7万円ほどで、最初の契約は2カ月、延長は1カ月ごと。だが、ちょうど足を骨折している時で受けなかった。

現代の戦争は民間軍事会社(PMC)の活用が通常

新美有加キャスター:
PMCの主な活動内容は、軍事力の提供、後方支援の提供、コンサルティング業など。傭兵とはまた別か。

軍事ジャーナリスト 黒井文太郎氏:
傭兵は歴史上ずっとあるが、会社形式で民間の立場で活動するのがPMC。多くの母体は警備会社で、メンバーに元軍人が多く、普通の警備を超えた危険な任務や軍事的な技術を提供するものを一般にPMCと呼ぶ。

川上高司 拓殖大学 海外事情研究所教授:
いわゆる戦争の外注が行われたのは朝鮮戦争ぐらいから。ベトナム戦争、湾岸戦争と増えていき、イラク戦争では正規軍の兵士と雇われた人員がほぼ同数に。アフガン戦争では逆転した。正規軍を効率化し、その分の金をPMCなどに使う戦争形態ができた。

新美有加キャスター:
PMCの元祖とされるのが、1946年にアメリカで創業したカリフォルニア・イースタン・エアウェイズ(現ダインコープ・インターナショナル)。東西冷戦末期の1989年には南アフリカでエグゼクティブ・アウトカムズ (EO)が、1997年にアメリカでブラックウォーターUSA(現アカデミ)が創業。

川上高司 拓殖大学 海外事情研究所教授:
冷戦崩壊後、そして9.11後に完全にアメリカはテロを対象とした戦略方針に転換した。対テロ戦争を展開する中でPMCのニーズが高まった。また、イラクは石油など利権のある国だという背景もあった。

新美有加キャスター:
PMCのメリットとして、迅速な動員が可能なこと、軍事的なスキルを有する人員の提供ができること、派兵の際の政治的ハードルが低いことなどが挙げられる。

軍事ジャーナリスト 黒井文太郎氏:
PMCには特殊部隊上がりの人も多い。歩兵の訓練にはお金がかかり、PMCを雇ったほうが安い。必要な時に雇い、要らなくなれば外せる。

川上高司 拓殖大学 海外事情研究所教授:
米軍の部隊の長が自分の部下を引き抜くことがある。それが某軍事会社、某PMC、某警備会社となり、おそらく世界的なネットワークが出来上がっている。いい兵隊や特殊な技術者がいるPMCが優位に立ち、イラク戦争でピークに達した。アメリカのブッシュ政権時、テロとの戦争として、またその後の復興支援の名目でPMCをどんどん送り込んだ。

反町理キャスター:
一方でワグネルとロシア軍の関係は。

軍事ジャーナリスト 黒井文太郎氏
軍事ジャーナリスト 黒井文太郎氏

軍事ジャーナリスト 黒井文太郎氏:
ワグネルはロシアで非合法だが、建前。PMCと言ってもワグネルは特殊な例で、元々情報機関のフロント企業のような裏社会の存在だった。シリア、2014年以降のウクライナ、リビアなどでロシアの情報機関と組んでいたが、途中からアフリカの鉱物資源や石油などを受け取る裏ビジネスが大きくなってきた。今もアフリカでは同じことをしているが、今回のウクライナ侵攻で戦っているのはそのワグネルと違う。

反町理キャスター:
別組織ということ? 

軍事ジャーナリスト 黒井文太郎氏:
同じプリゴジンの系列だが、性格が違う。ロシア軍は人が足りない。プリゴジンは元々裏社会の人間で、ワグネルには脛に傷のある人を集めるノウハウがある。政府から金が出て、彼が囚人を集めて数万人を送り込む形になっている。だが元々、ワグネルがアフリカでやっていたビジネスとは別。

中国のPMCはアメリカ人が設立 日本もPMC活用が必要か

新美有加キャスター:
中国のPMCの一つとみられるのが、フロンティア・サービス・グループ(FSG)。ブラックウォーターUSAの元代表であるエリック・プリンス氏が設立し、本社は香港と北京。主な事業はアフリカを中心としたセキュリティや物流など。

軍事ジャーナリスト 黒井文太郎氏:
プリンスは元々、アメリカのネイビー・シールズ(海軍特殊部隊)の隊員で、様々なコネクションを作り、ブラックウォーターUSAを設立した人。問題を起こし追い出されたが、今度は中東でPMC的なことをやった。その後、中国とのコネクションができ、FSGは中国の投資の傘下になっている。

反町理キャスター:
アメリカ人だが、中国の国益に与している。

川上高司 拓殖大学 海外事情研究所教授:
プリンスはお金で商売する人。しかも政治的な人間で、チェイニー米元副大統領に近かった。今も恐らく資金を政治家に回しながらやっている。それが場所を変えて、アメリカからアラブ、中国へと動いた。

川上高司 拓殖大学 海外事情研究所教授
川上高司 拓殖大学 海外事情研究所教授

反町理キャスター:
2020年にアメリカの一部で、プリンス氏がFSGを通じてリビア内戦に関わるワグネルに傭兵の提供を申し出たという報道があった。ワグネルに対して兵を送ったり、武器供与や指導をしている可能性は。

川上高司 拓殖大学 海外事情研究所教授:
ないとは言えない。世界のPMCの長は、みな顔見知りのはず。国を超えたビジネスはあり得る。

軍事ジャーナリスト 黒井文太郎氏:
ないことはないと思うが、プリンスはやはりお金。今のところは中国のお金に食い込むことだと思う。

反町理キャスター:
中国の保安部隊や治安部隊となると、尖閣諸島の話になる。我々が警戒するのは、正規軍でない武装漁民、武装民兵の上陸。異様に習熟した軍事機能を持っている可能性がある。自衛隊でなく警察権で対応しなければいけないが、このいわゆるグレーゾーン事態について日本側のマニュアルがあるとは思えない。日本がPMCに委託することの議論は。

川上高司 拓殖大学 海外事情研究所教授:
特にサイバー戦など、自衛隊が戦わない部分はやはり民間に任せるしかない。日本がPMCなどと契約する必要性は出てくると思う。

(BSフジLIVE「プライムニュース」5月16日放送)