ロシアの傭兵部隊がスーダンに?
ウクライナに侵攻したロシア軍の先兵的存在の傭兵部隊「ワグネル・グループ」が、スーダンの内戦に関わっていると伝えられ、ウクライナ紛争から離脱することになるのか注目されている。
この記事の画像(6枚)アフリカのスーダンでは国軍と準軍事組織RSFが衝突し、4月に入ってから首都ハルツームなどで激しい戦闘が続いている。そうした中で「ワグネル・グループ」がRSF側を支援していると中東のアルジャジーラ通信社が次のように伝えた。
「ロシアの傭兵がスーダンに:ワグネル・グループの役割は何か?」
「ワグネル・グループ」は直ちに声明を発表してスーダンの内戦との関わりを否定したが、アルジャジーラはスウェーデンのウプサラ大学「平和と紛争問題研究所」のアショク・スワイン所長の次のような談話を紹介して情報を補強している。
「ワグネル・グループはスーダンで存在感を示し膨大なビジネス上の利益を守るためにも、今回の戦闘に参加していることは間違いないだろう」
狙いはスーダンの金鉱利権?
「ワグネル・グループ」は政情不安な途上国に武装勢力を派遣する傭兵組織で、これまでリビアやマリ、中央アフリカ共和国などに兵員を送り込んで活動をしてきており、スーダンでも南部の金鉱の防衛などにあたってきた。
スワイン所長の言う「膨大なビジネス上の利益を守る」というのは、その金鉱をめぐる利権にからんでのことで「ワグネル・グループ」が内戦に乗じてスーダンの金の採掘から輸出に深く関わる意図があってのことと考えられている。
「ワグネル・グループ」がどのような形でスーダンの内戦に関わっているか具体的にはまだ明らかではないが、RSFに対して武器の供与や作戦指導を行うだけでなく実際の戦闘にも参加している可能性がある。
ウクライナ戦線から離脱?
実は最近「ワグネル・グループは、ウクライナでの戦闘が行き詰まってきたのでその活動目標をアフリカに移す」という情報が広がっていた。その発信源がブルームバーグ通信で、3月23日に配信した次のような記事が多くのマスコミに引用された。
「プーチンの傭兵部隊のプリゴジンは、ウクライナ作戦の失敗からその目標を変える」
記事は「ワグネル・グループ」の指導者のエフゲニー・プリゴジン氏がロシア当局から囚人の徴兵を禁止されたり、武器や弾薬の供給が減らされているのに嫌気がさして、ウクライナ紛争への関わりを縮小することを考えているというもので、その代わりにアフリカでの活動に注力して行くと消息筋の情報として伝えていた。
そのプリゴジン氏は14日声明を発表し「ウクライナ侵攻の作戦を終了し、ロシアが計画した成果を達成したことを周知することが理想的だ」と表明した。
これは、ロシアが侵攻作戦を続けても占領地域を拡大させるのは困難との認識を示し、ウクライナの反転攻勢でロシアが敗北する可能性にも言及したもので、「ワグネル・グループ」がウクライナ侵攻作戦に見切りをつけて離脱し、アフリカでの活動に作戦目標を切り替えるという情報を裏付けたものとも受け取られている。
もしそうであれば、ウクライナに侵攻しているロシア軍はその先兵的存在で戦闘の「汚れ役」を受け持ってきた勢力を失うことになるわけで、作戦の行方を左右することにもなりかねない。
今後のウクライナ紛争の展開を判断するには、「ワグネル・グループ」のスーダンでの活動にも目配りする必要がありそうだ。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】