新型コロナウイルスのワクチン接種業務で近畿日本ツーリストによる、人件費の過大請求が発覚。問題は全国各地で次々と明らかに。そこには架空の勤務実態があった。自治体はなぜ、事態を把握できなかったのか?

近畿日本ツーリスト“最大16億円”の人件費過大請求を発表

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吹田市の担当者:
気づかなかったのかなと…

枚方市の担当者:
分からなかったというところです…

西宮市の担当者:
気づくタイミングがちょっと難しかったかなと…

私たちの税金で運営された命に関わる業務で、一体何が起きていたのか。「過大請求」の実態をツイセキした。

4月28日、大阪府の吉村知事は近畿日本ツーリストに委託した新型コロナウイルスのワクチン接種業務において、人件費、およそ4900万円の過大請求があったことを発表した

大阪府 吉村洋文知事:
この過大請求はあってはならないことなので厳正に対処していきます

会見をした近畿日本ツーリストは…

近畿日本ツーリスト 髙浦雅彦社長:
最大で約16億円の過大請求の疑義があることが判明いたしました。新型コロナウイルス対策受託事業により、営業目標を達成したいとの思いが強く働いておりました

近畿日本ツーリストは、全国およそ150の自治体からワクチン接種に関する業務を受託。その内、大阪府など全国16の自治体から実態よりも多く不正請求をしていたと発表した。

さらに、70の自治体でも申請書類に不備があり、不正と疑われる請求は最大でおよそ16億円にのぼると明らかにした。

近畿日本ツーリスト 髙浦雅彦社長:
コロナで旅行業、本業が大きな打撃を受けておりましたので、新しい分野についてしっかり取り組もうという状況は間違いなくありました

過大請求の背景に旅行業での苦戦をあげ、組織的な関与はないとしたものの、一体、どんな手口だったのか?

ずさんな過大請求の手口 背景に旅行業での苦戦

およそ2億9000万円の過大請求をされた東大阪市。

東大阪市から委託を受けた近畿日本ツーリストは、コールセンター業務を別会社に再委託。その際、近畿日本ツーリストの担当社員は、市から要求されたオペレーター人数を、86パーセント分しか発注しなかった。

しかし、東大阪市には実態とは異なる100パーセント発注通りの人件費を請求していたのだ。この問題について、近畿日本ツーリストの支店長は事実を把握するも黙認していた。

さらに、問題が発覚しそうになると、再委託先に勤務データの改ざんを依頼し、東大阪市には虚偽の報告を行うなど悪質な実態が浮き彫りとなった。

近畿日本ツーリストによると、担当社員は「売り上げをあげたいと思った」、支店長は「時間がたてばたつほど言えなくなった」と話す。

過大請求をされていた東大阪市は…

東大阪市 田中健司健康部長(4月12日の会見):
圧倒的にもう信頼しきっていたところがあるので、よもや、近畿日本ツーリストが(過大請求を)やっていたとは思っていなかった
(Q:もし匿名の通報がなければ分からなかった?)
可能性はあります

「再委託」という形で過大請求も 枚方市が被害に

近畿日本ツーリストのように市役所から受注していた事業者が、過大請求をしていた実態を紹介したが、今回のコロナにまつわる過大請求はこれだけでなく、「再委託」という形で過大請求をしていたパターンも…

実際に、枚方市が「再委託」という形で、過大請求の被害に遭った。

枚方市はワクチン接種そのものや会場の手配、電話予約など業務全般を人材派遣大手のパソナに委託し、発注を受けたパソナが、「再委託」という形で、ワクチン接種の電話予約を受けるコールセンター業務のみをエテルに再委託した。

問題が発覚した2022年11月1日は、100人態勢で業務を行うよう発注がかかっていたが、実際は、わずか33人のスタッフのみで対応していた。100人分の人件費として過大に請求されていたことが、枚方市の発表で分かった。

実際、業務を担当していたエテルの実態とはどんなものだったのか?そして自治体はなぜ、すぐに見抜くことができなかったのか?

再委託先が過大請求 エテルの業務実態とは?

コロナワクチンの予約受付など、実際のコールセンター業務を請け負っていたエテル。その業務実態はどうだったのか?

関西テレビは複数の従業員に取材を行い、当時の状況を聞くことができた。

株式会社エテルの従業員:
(Q:毎日取り切れない程の電話がかかってきた?)
かかってきていました。(ワクチンの)予約開始日とか、しんどかったです
(人が足りていない日もあった?)ありました

株式会社エテルの従業員:
(Q:出社して今日これだけの人数で本当にやるのかみたいなことは?)
当欠も多くて。派遣さんがメインで、当欠も多くて
(Q: 当欠っていうのは当日欠席?)
そうですね

発注された人数が確保され、万全だと思われていたコールセンターの現場では、多くの電話に対応できないだけではなく、スタッフも足りていない状況であったことが明らかになった。

今回の過大請求の問題について、株式会社エテルに電話取材を申し込んだ。

株式会社エテルの代表:
(Q:現段階で言えることは?)
詳細なコメントは控えさせてもらいたいというところになりますね
(Q:人を集めるのが難しかった?)
そのあたりも申し訳ないのですが、コメントを控えさせていただければと思います
(Q:過大請求の報道について思うことは?)
お答えできません

つながらない電話に“違和感” オペレーター100人のはずが実際は33人

エテルのずさんな勤務実態を最初に把握したのは、大阪府枚方市。

2022年11月1日、枚方市はオミクロン株対応ワクチンの接種予約業務のため、エテルに対し、オペレーターを100人に増員するよう指示。しかし人数を増やしたにもかかわらず、電話がつながりにくい状態が続き、違和感があったと言う。

枚方市 健康福祉部 近藤勝彦課長:
昼からは比較的つながりやすくなるだろうと思っていたが、11月1日は全然、昼からも応答率が100%に近い、つながりやすい状況になっていなかった。「これは明らかにおかしい」ということになった。すぐに(元受けの)パソナの方に、コールセンターの方に確認に行くように指示をした

枚方市の職員らがエテルへ確認をしに行くと、実際に業務をしていたのは33人だった。

また、11月1日の電話応対も枚方市に対し、およそ3500件処理したと報告していたが、実際は1050件しか対応できておらず、ウソの報告をしていた。

つまり、ウソの報告に気づかなかったパソナは枚方市に対し、報告通りの人件費を請求していた。その結果、枚方市はおよそ3億6000万円も多く支払っていたの。

さらに同様の過大請求は、吹田市や西宮市でも発覚。3つの市で何と10億8000万円もの税金が余分に支払われていた。

枚方市の問題で“初めて”気づく 見抜けぬ自治体も

被害に遭っていた西宮市と吹田市は、枚方市での問題発覚を受けて、初めて過大請求をされていたことに気づいたという。

西宮市 健康福祉局 池田敏郎課長:
(電話の)応答率が90パーセントくらいあったので、そこまで不審に思うことはなかった。
(Q:枚方・パソナからの指摘がなければ見過ごされていた?)
気づくタイミングは難しかったかなと思います…

吹田市 健康医療部 中村忠司総括参事:
(Q: 枚方市の問題がなかったら気づくことは難しかった?)
そこは、難しかったとは思います。気づかなかったのかなと…。特に疑義が生じなかったので、上がってくる数字を信用して…

背景に国が“全額負担” 専門家の指摘「自治体の管理意識が甘い」

報告を信用して、確認を怠っていた自治体の対応。地方行政に詳しい専門家は、ワクチン接種の費用を全額、国が負担したことで、自治体の管理意識が低かったのではないかと指摘する。

近畿大学 村中洋介准教授:
ワクチンに関連する費用は自治体側の負担なく、基本的には国がお金を負担しますよと。そうなった時に、自分たちの懐を痛めない、自分たちの仕事ではないと考えていたかもしれない。再委託先に対して監督やチェックが、あまり十分になされてこなかったのかなと思います

多くの自治体は「過大請求を見抜けなかった」と話していたが、専門家は「ワクチン関連の費用は全額・国がもってくれるので自治体の管理意識が甘かった」と指摘する。

2022年11月1日は、オミクロンワクチンの予約開始日でネット予約もある中、コールセンターに電話してくる方といえば、高齢者の方も多かったと予想されるが…

関西テレビ 神崎博解説デスク:
生活弱者の方ほど、コロナワクチン接種は必要。取材した記者によると、当時、枚方市では午前9時からの1時間で1万1000件ほど電話がかかっていたが、スタッフが少なかったこともあり、その時間に電話対応できたのはわずか124件だったと聞いています。そのまま電話をかけ続け予約を取れた人はいいかもしれませんが、高齢者の方が多いってことで、つながらなく諦めてしまった人が、今後コロナにかかって命を落とす恐れもあった。当然、事業者も悪いが、きちんとチェックしなかった自治体にも責任ある

コロナ対応については、これまで多くの税金が使われてきましたが、いま一度、適正に使われているかどうかチェックしていく必要があるかもしれない。

(関西テレビ「newsランナー」2023年5月4日放送)

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