自民党の菅義偉前首相は14日、フジテレビ系『日曜報道 THE PRIME』(日曜午前7時30分)に出演し、4月の衆参5補欠選挙の結果を踏まえた早期の衆院解散総選挙について否定的な認識を示した。「そんな状況ではないと思う。ただ、解散権(を有するの)は総理大臣だけだ」と述べた。

「異次元の少子化対策」の財源確保策をめぐっては、官房長官時代に2年に1度の薬価改定を毎年行うことに改めて、2021年度には約4,000億円の医療費抑制につなげた実績に触れ、「社会保険料(の引き上げ)に特定しないで、社会保障全体を厳しく査定して考えていく必要がある」と強調した。

また、人手不足の分野で外国人労働者を受け入れる在留資格「特定技能」のうち、熟練した技能を有する外国人労働者を対象に在留期間更新に制限がなく、家族も帯同できる「特定技能2号」を現行の2分野(建設、造船)から11分野に拡大する案を政府が検討していることをめぐり、菅氏は「(移民をどうするか)真正面の議論を避けてきた。その(特定技能を有する外国人労働者を徐々に受け入れるという)スピードではもう難しくなっているのが現実だ」と述べ、移民政策について「思い切って方向性を出さなければならない時期に来てしまったのではないか」と話した。

以下、番組での主なやりとり。

木下康太郎キャスター(フジテレビアナウンサー・社会部記者):
深刻化する人手不足の分野で外国人労働者が就労できる在留資格「特定技能」には2種類ある。特定技能1号の技能水準は指示を受けながら作業が可能かどうかで日本語能力が必要。在留期間は通算で最長5年、家族帯同は認められていない。対象分野は介護、建設、造船、製造業など12分野で約15万人。特定技能2号は現場統括ができる能力がある技能水準が必要で、在留期間更新に制限はなく家族帯同も認められている。現在は「建設」と「造船・船舶工業」の2分野のみが対象で11人しかいない。政府は、特定技能2号の対象を拡大することを検討しており、製造業や航空、宿泊業など9分野を追加する案が出ている。

松山俊行キャスター(フジテレビ政治部長・解説委員):
政府は外国人労働者受け入れについて、特定技能2号の対象をこれまでの建設、造船の2分野から大幅に拡大する方針。労働力提供先として日本が本当に魅力的な市場なのかどうかが今後問われてくる。

菅義偉前首相:
労働力提供先として日本は選ぶ側ではなくて、選ばれるかどうかの立場になったことを私たちは認識しなければならない。日本で安心して働くことができる環境をつくるための受け皿として特定技能制度を作ったが、技能研修から特定技能に移行することがなかなかうまくいってないのが実態だ。その時に移民をどうするか、真正面の議論を避けた。

松山キャスター:
日本政府としては移民政策としては考えていないということだった。

菅前首相:
それに近い形で進めていこうということだった。思い切って方向性を出さなければならない時期にもう来てしまったのかなという感じだった。当時はまだ時間がありそうだったのだが、日本は一気に選ばれる(か否かの)側になってくると思っている。 
 
松山キャスター:
事実上の移民政策として正面からとらえなければならないということか。

菅前首相:
そこまで来ているのだろうと思っている。

梅津弥英子キャスター(フジテレビアナウンサー):
橋下さんは「日本はすでに移民国家」との認識を示している。どういうことか。

橋下徹氏(番組コメンテーター、弁護士、元大阪府知事):
いま在留外国人の数はどんどん増えていて過去最多総人口の2.46%、約307万人になっている。外国人労働者数もものすごく増えている。こうなると外国人を単純に人手不足解消のための手段として考えるのではなく、社会の構成員として考えないと、いまもうひずみが出てきている。国立社会保障・人口問題研究所が将来の人口推計を出したが、あの中では年金について外国人の保険料を前提とする議論になっている。自民党内には移民政策は採らないと主張する人たちがいるが、現実がこうなっている以上はもう真正面から外国人を受け入れる、これはもう移民政策というべきだ。ただ、どういう外国人に来てもらうかということはしっかり考える、もうそういう議論をしなければいけないと思う。特定技能は、菅さんが突破してつくってくれたものだが、対象業種が限られている。日本側からこの業種に来てもらいたいと言っているだけだ。外国人からは違う業種で働きたいという要望がたくさんある。新聞報道では特に美容師などがすごい人気だそうだ。日本の美容師の技術はすごい。だけど在留資格がものすごく厳格でなかなかこの分野で外国人は働けない。この分野で働きたいという外国人労働者の要望を受けた政策をつくっていく必要がある。

市川眞一氏(ピクテ・ジャパン シニア・フェロー):
先ほど橋下さんが言ったように、4月26日に国立社会保障・人口問題研究所が将来人口推計の新しいものを発表した。今後30年間、日本の生産人口は年1%ずつ減っていくが、実は日本人は1.3%ずつ減り、外国人が3.1%ずつ増えていく見通しになっている。来年は公的年金制度の財政検証の年にあたるが、多分この国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計を前提に物事を立てていくことになる。そうすると、日本に定住する外国人が毎年3%ずつ増えないと、年金制度が成り立たないという状況に実はなっている。菅官房長官時代に法律改正があり、特定技能の外国人労働者の権利を守るということはできた。その一方でいろいろ問題がある。実は日本で働いてもらうために来てもらっているのに、特定技能制度のそもそもの建付けは「国際貢献」のままだ。その辺の考え方を抜本的に変えないと外国人が安心して日本に働きにくるということにはならない。そういう外国人労働者を前提にしないと、もう年金制度を維持できない状況になってきている。もうぎりぎりのところにきていると思う。

橋下氏:
何でもかんでも日本に来てくださいということではないが、移民政策という言葉を使うだけで自民党内では拒絶反応が出るのか。

菅前首相: 
制度を作った当時は特定技能1号、2号にして、(外国人労働者受け入れは)徐々にという形だったのだが、そのスピードではもう難しくなっているのが現実だと思っている。 

橋下氏:
アメリカやヨーロッパで移民がすごい問題になっているというイメージがどうしても伝わってくる。でも、言葉の問題や宗教の問題などを解決しながら、やはり外国人を受け入れなければ、日本はやっていけないということも正面から認めるべきだ。

市川氏:
例えば、教育システム。経済的にはアジアも今豊かになってきているが、教育制度では日本はしっかりしている。日本に来ることが単に金を稼ぐだけではなく、日本の質の高い教育を受けられるということも外国人が日本に来るためのインセンティブになる。そのためにも、教育現場で外国人もしっかり受け入れられるような制度を整えていくようにしていかないと、毎年3%ずつも外国人が日本に入ってくる状況にはならない。

松山キャスター:
日本が抱えるもうひとつ大きな問題として少子化対策がある。少子化対策に社会保険料を使うかどうかで政府与党内で議論が行われている。先日番組に出演した加藤勝信厚労相は「年金や医療に使う金を子ども(政策)に持ってくる余地はない」と明言した。菅さんは社会保険料の転用についてどういう考えか。

菅前首相: 
社会保険料に特定しないで、全体の社会保障、いま130兆円ぐらい出ているが、もう一度原点に立ち返って全部精査していくことが必要だ。たまたま私、薬価改定を2年に1回だったのを一年ごとにして約3,000億円の金が出た経験がある(2021年度薬価改定で約4,300億円の医療費抑制効果)。これだけの大きな財布があるので、歳出についてもう一度厳しく査定して全体を考えていく必要がある。
 
松山キャスター:
今後の政治についても伺いたい。先月投開票が行われた衆参5つの補欠選挙で、自民党は4勝1敗という結果だった。実際に自民党の勝利と言えるのかどうか、菅さんはどう見ているか。

菅前首相: 
勝利か勝利じゃないかと言えば、それは勝利だ。ただ、(選挙結果の)内容を分析して常に客観的に自分たちが約束したことは実行に移していく。そうしたことが大事だ。 
 
松山キャスター:
一つ一つの選挙区を見ると、厳しい結果だという認識もあるか。
 
菅前首相:
それはあれだけの僅差だったから、そこはしっかり受け止める必要がある。
 
松山キャスター:
この結果をもって解散総選挙をすぐやったらいいのではないかという意見もあるが、そうした意見についてはどう考えるか。

菅前首相: 
私はそんな状況ではないだろうと思う。ただ、解散権(を有するの)は総理大臣(だけ)だ。

日曜報道THE PRIME
日曜報道THE PRIME

今動いているニュースの「当事者」と、橋下徹がスタジオ生議論!「当事者の考え」が分かる!数々のコトバが「議論」を生み出す!特に「医療」「経済」「外交・安全保障」を番組「主要3テーマ」に据え、当事者との「議論」を通じて、日本の今を変えていく。
フジテレビ報道局が制作する日曜朝のニュース番組。毎週・日曜日あさ7時30分より放送中。今動いているニュースの「当事者」と、橋下徹がスタジオ生議論。